コンクリートから灼けた臭いが立ちこめ、歪む景色。
大きな買い物袋を手にした哀は大きく息を吐いて荷物を持ち替え日傘を差して歩いていた。
「暑いわね…………。」
そして重いと呟く。
腕が攣りそうな程買い込んだ戦利品の中にはリクエストされたすいかが入っており哀の眉を苦痛に歪ませた。
額に汗し、何度も何度も荷物を右に左に持ち変えて家路を急ぐ。
「あ………。」 「よ。」 「工藤くん………。」
赤くなった哀の手を見て苦笑する新一。
こんなに買い込んで一体何をする気なんだと哀の手荷物を片手に纏め、日傘を差し出す。
「お〜こりゃ涼しいな。」 「日焼け防止の為だけじゃないのよ。」 「あ〜解る解る。母さん夏場はずっとUV入った日傘差してたからな。」
それにしてもこんな荷物じゃ重かっただろうと哀を案じる。
制服姿の新一は暑いと言いながらも大して汗を掻いてはいない。
「事件はどうしたの?」 「ああ。速攻解決。そんでそのまま警視庁に泊まって補修も受けてきた。」 「そう。」 「おう。学校から直接現場に行ったからな〜……黒羽拗ねてる?」 「……………ごめんなさい。」 「は?」
実は…………………
すまなそうに俯いてる哀は首を傾げている新一へと事情を話し始めた。
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トライアングル
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「ただいま。」 「哀ちゃんお帰り。」 「ただいま。」 「お?工藤??」
哀の声にパタパタと音を立てて出迎えの為に玄関へと駆けて来る快斗。
よ。と手を上げている新一に少しだけ表情を曇らせた。
「途中で灰原に逢ってさ。………ってそれどうしたんだ?」 「あ、ああ……これはさ…………。」
快斗の右手首に巻かれている包帯を指す新一。
気まずそうに隠しながら苦笑して事情を話そうとした。
「………使いすぎだろ。」 「そりゃ色々と。」 「そんな事ばっかヤってンだ……。」 「新一が居ないと寂しくて右手がオレの………って違―――う!!!!」 「ああ、そうだな。自慢は両利きだもんな。」 「そうそう。曲がってないし………って、だから違うって―――――!!!」 「解った解った冗談だよ。」
哀から事情を聞いて知っていたが凹んでいる快斗が可愛く思えて遊ぶ新一。
酷い。無実だ。と泣き真似をする快斗の頭を撫でて軽いキスをした。
「でも流石に不便だろ?」 「いや、まあ何とか…………?」
ニヤリと微笑む新一に首を傾げる快斗。
「不便だよな?」 「あ……う………うん。」
快斗が頷くのを見てニヤリと微笑み何度も頷き哀が冷蔵庫に戦利品を入れるのをチラリと横目で見て耳元で囁く。
「大変だろ?手伝ってやるよ。色々とな。」 「い、色々……?」 「そ。色々。」
色々って何だろうとほわんとした表情でその後の新一の話を一切聞かない快斗。
「…………。」
クスクスと笑い、まだほわんとしている快斗に座って待ってろと言い、食事の用意をしている哀の元へと向った。
「………ごめんなさい。」 「だからオレに謝らなくてもいいって。」
帰り道に哀から話を聞いた新一は一瞬絶句した。
昨夜、哀の悲鳴に驚いた快斗はすぐに阿笠邸へと飛び込んだ。
新一の帰りをボンヤリと待ち、深い溜息を何度も吐いて眠れぬ夜を過ごしていた快斗はどうにも眠れずにリビングへと下りていたのだった。
飛び込んだ快斗も一瞬身体が強張る。
阿笠邸に居たのは黒尽くめの男達。
落ち着いて考えればただの泥棒だと冷静に対応しようとしたが哀はそうではなかった。
暗闇の中で黒尽くめの男達に押し入られた恐怖は過去を思い起こさせる。
快斗は混乱している哀へと向った男を力任せに殴りつけた。
哀を庇い、暗闇の中で数人を相手にするのは快斗と言えど簡単な事ではなかったのだった。
「犯人は中国人の窃盗団だったんだろ?凄いじゃないか。」 「黒羽くんの手柄よ。」
そうだなと相槌を打つ新一。
紙面を賑わせていた窃盗団は快斗の活躍で組織の壊滅へと繋がった。
けれども当の快斗は暗闇には慣れている筈だったのに間抜けにも怪我をしたと自分自身の不甲斐無さに落ち込んでいたのだった。
哀を庇っていたとは言え、もっと早く冷静に対処出来た筈だと自分を歯痒く思っていた。
「だから灰原がこうして飯作ってたワケか………。」 「黒羽くんの物より味は落ちるけど。」 「いや、オレが言ってるのは………っておまえもそんなに落ち込むなよ。な?」
新一の笑顔に哀は苦笑する。
大した物は作れないけれど任せて欲しいと言うと新一は笑顔でリビングへと行った。
「黒羽ー。」 「ん?」 「すいか食うか?」 「お。食べる食べる♪」 「ほい。」 「おー美味そ〜〜……………?!」 「食うンだろ?」 「………イタダキマス。」
冷えたすいかをテーブルの上に置く。
スプーンですくい、『あ〜んvv』と言いながら快斗の口元に差し出す。
考えもしなかった新一の行動に快斗は唖然としながらも頬を染めてパクリと食べた。
「美味いっvv」 「良かったな。」 「まだ食べる。」 「はいはい。」
延々と繰り返される光景に半ば呆れた笑みを零す哀。
それでも二人の楽しげな笑顔と声につられて表情が緩む。
「いつまでそうやってる気かしら?夕食が出来たわよ。」 「お――っvv哀ちゃんの手料理だ〜〜♪」 「美味そ〜。」
ニコニコとテーブルに並べられた料理を眺め、並んで座る。
右に座った方が食べさせ易いと位置を変わったりまたやっぱりと言って変わってみたり。楽しそうな二人に哀も笑顔になる。
いつもの様に楽しい夕食を食べて満腹になった三人はそれぞれの居場所に落ち着く。
哀はまた明日朝食を作りに来ると笑顔で阿笠邸へと戻った。
快斗は普段ならばパソコンに向い、情報収集をするのだが新一に止められて仕方が無いとテレビをつまらなそうに見ていた。
「黒羽。フロでも入ってきたら?」 「ん?あ〜………そうだな。薬のせいか何となく眠いし……んじゃ入って来る。」 「おう。」
大きく背伸びをしてリビングを出て行く快斗。
新一もフゥと小さな息を吐いてリビングの電気を消し、寝室へと上った。
「黒羽〜。」 「へ?」 「背中流してやるよ。」 「え?!」 「不便だろ?」 「不…便………不便です!!!」
顔を覗かせた新一に驚く。
ニヤリと笑みを零す様子に思わず握り拳を作り、招き入れた。
「……………………。」 「何?」 「いや。何でもねーよ。」 「イテッ。」
制服のシャツの袖を捲り、快斗の背中を流す。
傷だらけの背中は自分が付けただろう物も有り、それをジッと見ていたのだが流れるように綺麗な線を描いた背筋に着痩せする躰なのだと………つい赤面していた。
「そんなに強くしてないだろ?」 「もうちょっと恋人を大切に扱ってくれよ〜。」 「はいはい。」 「…………ありがと。もういいや。後は何とかなるし。」 「え?」 「いや………前はいいよ。」 「………あ、そ。」
照れ臭そうに微笑む快斗に身体の変化に困っている事を察し、慌てて立ち上がる。
求められれば与えてしまいそうな程新一も欲情していた。
「…………オレって最低……かな。」
ポツリと呟く。
「…………オレ、何考えてンだろ?」
バスルームに独り残った快斗は小さく呟いた。
バスルームから出た新一も小さく呟く。
「…………………工藤?」 「………ん?」 「何だ……居たのか。」
真っ暗な寝室を不思議に思い、声をかける。
ベッドの上に座っていたらしい新一がボンヤリとした声で応えた事に安心し、灯りを点けようとした。
「工藤?」 「………明るいのはイヤ……だ。」 「…………随分甲斐甲斐しく世話してくれるんだな。」 「んっ。」
自由に動く左手で灯りを点けようとした快斗を止めた新一の細い躰を抱き締める。
右手の甲で顎を持ち、薄く開いた紅い口唇自分のそれで軽く触れる快斗。
「黒羽が欲しい……だけ………だ。」 「…………オレも欲しいよ…………工藤。」 「んっ………んぅっ…………。」
暗闇の中でも鮮やかな蒼い瞳に自分の姿を映して笑みを零す快斗。
自分には見えないが快斗には全て見えているのだろうと思うと新一の体温が羞恥の為に上昇した。
頬が染まっている事も身体が快斗を求めて熱くなってしまっている事も…………。
「あっ……。」
クセのある髪に指を絡めて引き寄せる新一。
咥内で絡めあった舌を吸われてそのまま透明な液を垂らしながら音を立てて絡め合う。
「痛っ………。」 「………黒羽?」
快楽に反らされた新一の躰を支えて胸の果実を啄ばもうとした快斗は苦痛に眉を寄せる。
そう言えば右手を怪我をしていたのだったと快楽の為に痛みを忘れて新一を味わっていた事に苦笑した。
新一は緩慢な動作で手を引き、ベッドに座らせ跪いて快斗の肌に口唇を這わせる。
いつも自分がしてもらって気持ちが良い様にと丁寧に愛撫してゆく。
「……………工藤。」 「んっ…………。」
自分を貫く物を手に躊躇する新一。
暗闇で見えないと思っていた新一は月を背負う格好となった快斗に頬を撫でられ蒼い瞳を伏せて紅い口唇の中へと導く。
「ふっぅ………ん………。」
咥内の圧迫感に慣れず、鼻から漏れる甘い声。
それでも必死に奥へと頬張り口唇で食み刺激を与える。
ドクリと膨張感を増していくそれに苦しげな声を上げ、悩ましげに眉を寄せてたまらずに咥内から抜く。
ちゅ。と音を立て先端だけを口に含み零れる雫を吸い上げては舐めた。
「工…藤………っ。」 「ふぅ……っ…………んんっ!!」 「っ………。」
膨張が限界にまで達したそれから溢れる液を飲み干そうとするが後から後から溢れて飲み干せず顔を反らして咳き込んだ。
見上げれば頬を上気させ、熱い息遣いの快斗が快楽に揺れる瞳で新一を見つめていた。
「もう………いいから。おいで。」 「………………。」
コクリと頷き、ベッドに上る。
「自分で脱いで?」
脱がせて上げられないからと右手を軽く上げる快斗に俯いたままボタンを外す。
パサリとシャツをベッドの下に落とし、熱くてどうしようもなくて下肢に纏う衣服も下着ごと脱ぎ捨てて快斗と向き合った。
「工藤………。」 「………?」
長いキスの後、名を呼ばれて蕩けた瞳で応える新一。
「これをお腹にかってむこう向いて。」 「……………。」
イヤだとゆるゆると首を振る新一。
いくら早く欲しいと言ってもベッドに這い、下半身を高く上げて秘所を自ら曝すのには抵抗があり過ぎるぐらいあった。
「不便だから手伝ってくれるンだろ?」 「……………。」
ニヤリと笑み、わざわざ抱き寄せ耳元で低く囁かれる声に早く快斗が欲しくて仕方が無い躰の熱さが新一の理性を奪った。
「アンッ……やぁっ…………!!!」 「中までよく見えるよ。」 「あっ…………ンんんんッ。」
濡れた感触に頬を押し付けシーツを握り締めて悶える新一。
増やされる指にも躰を跳ねさせて甘い声を上げた。
「行くよ……。」 「………………ヤぁっ………アァァァァッ!!!」 「工藤…………。」 「ふぅっ………んぅ…………。」
熟した蕾の中に楔を深々と打ち込む快斗。
最奥まで一気に埋め込み震える新一に覆い被さりシーツを掴んだ手に優しく触れた。
「ふぁぁぁッ!!!」 「工藤………。」 「あっアッ!!!!」 「感じてる……?スゲー熱い………オレも熱くてどうかなりそ…………。」 「アァッ!!!あ。あ。あ。あァッ!!!」
だらしなく開いた紅い口唇から止め処無く漏れ続ける悲鳴混じりの嬌声。
触れた音が高くなるにつれ声も高く甘く掠れた物になって行く。
「あんっ…………。」
ピタリと止む律動に新一の声も止る。
荒く熱い息を整えゆっくりと快斗を振り返った。
「イイ顔が見たいな………。」 「…………あっ!!」
引き抜かれる感触に躰を震わせる新一。
蕾から零れる蜜が下肢を伝う感覚に甘い吐息を漏らし、躰を震わせる。
覆い被さり後ろから新一の耳元に何度もキスをしてクッションを引き抜き、仰向けに寝かせる。
「…………な………に?」 「自分で持って………膝の裏に手を入れて………そう……しっかり持っててね。」 「ヤぁっ……!!!」
自分がとらされた体勢ににイヤだと首を振り、手を離す新一。
涙をポロポロと零して頬をシーツに押し付けた。
「…………此処は待ってるんじゃないの?」 「アッ!!!」 「挿れる時だけだから………。」 「…………………。」
熱く焦れる躰にたまらず手を膝の裏に入れて持ち上げる。
秘所を自らの手で曝す事に耐え切れず涙をポロポロと零した。
「あっ…………アァァッ!!!!」 「動くよ。」 「ヤぁっ………!!待…て………アァッんん……!!!」 「待てねーよ………。」
背中に手を回し、脚を快斗の腰に絡めて必死にしがみつく新一。
凄まじい快楽と同時に自分の躰が思うままにならぬ事に得体の知れない恐怖感が新一を襲う。
快斗に翻弄され、乱されるだけ乱されて声を上げ続ける自分を嫌悪する。
けれども身も心も快斗を求めて止まない。
「アァッ………黒羽ぁ…………。」 「もう限界………?」
気が付けば無意識に右手を使ってしまっている快斗。
けれども燃えるように熱い躰と新一の甘い声に痛みよりも快楽が増していた。
「アッ……!!!イッ…………あぁっ!!!」 「つっ…………!!」 「ふ…あぁっ………!!!」
いつもよりも熱い液体を体内に打ち付けられて快楽に潤んだ蒼い瞳が限界まで開く。
痙攣した後弛緩し、背中に回した白い手も腰に絡めた脚もゆっくりと落ちた。
「……………工藤。」
引き抜くにも淫らな音が響く事に苦笑する快斗。
自身からポタポタと滴る液は新一の蕾からも溢れていた。
このままではいけないと手を伸ばしたところで快斗の意識も暗転する。
心地良い疲労感に二人は深い眠りに落ちたのだった。
「おはよう。」 「あ。お、おう…………。」
鉛の様に重い体を引き摺り、シャワーを浴びてリビングへと入った新一を哀が迎えた。
一瞬驚くがそう言えば朝また来ると言い残していたとソファーに座り、グッタリと背を預ける。
「何か飲む。」 「ん〜………うん。」 「牛乳でいいかしら。」 「…………イヤだ。」
頬を押さえたり顎を押さえて眉を寄せる新一に首を傾げる哀。
「どうしたの?」 「………あんまり固形物を口にしたくないんだ。」 「大口開けていびきでも掻いて寝てたの?」
そうじゃないと言いたいが反論の為に口を開くのもだるくて生半可な返事をした。
「水くれ……。」 「具合悪そうね………おかゆでも食べる?」 「……………!!!!」
手にしたコップを落しそうに含んだ水を噴出す新一。
哀は驚いて咽る新一の背を撫でて濡れた部分を拭き取る。
「………おかゆはもっと食いたくない………………。」 「は???」 「……………もう一回寝る………客間で寝る……………。」 「工藤くん????」
ゴメンと言い残しフラフラとリビングを出る新一。
哀は何があったのだろうと首を傾げ、快斗が眠るだろう寝室へと向う。
薬を飲ませる為に起す必要があったのだ。
「黒羽くん………?」
何度もノックするが全く起きる気配が無く不審に思う哀。
ドアの前に立っただけで起きる快斗が何の反応も無く寝ているなんて、と慌ててドアを開いた。
「………………そういう事ね……………………………。」
呆れた。
ポツリと漏らして部屋を後にする哀。
キッチンにおかゆを残して阿笠邸へと戻った。
哀が見たものは明らかにそれと解る乱れたベッドと幸福な夢にむにゃむにゃと寝言を言い、発熱しているのか頬を上気させ、楽しそうに魘される快斗の姿だった。
その熱が右手の怪我によるものか………それとも違うものか。
哀は後者に違いないと寝言を聞いて判断し、部屋を後にしたのだった。
「う〜んvvくどーvv………もうダメだって〜〜〜vvv」
数時間後復活した新一にケリを入れられ。
キッチンに残されたおかゆに頭を抱えた新一にやり場の無い怒りをぶつけられ散々な目に合った快斗だったが始終笑顔でそれがまた新一の怒りを倍増させたのだった。
「工藤くん、まだ顎が痛いの?」 「…………………。」 「???????」 「黒羽くんが元気になったら協力してもらおうかしら。」 「いいよ〜♪」 「………………。」
夕食時、無口な新一は哀の言葉にテーブルに突っ伏した。
何に協力すればいいのかと無邪気にニコニコと微笑む快斗にニヤリと笑む哀を敵に回したくないと身体を震わせた新一だった。
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