「新一、汗かいてる。風邪引くから風呂入った方が良いぜ?」


 ふと、抱き締めていた新一の体が冷えてきているのに気付いた。
 大したことはないそうだが、ただでさえ体調を崩しかけている新一にはやはり負担だろう。
 このまま放っておいたら確実に体温を奪ってしまう。
 そう思って提案した快斗だったけれど、新一は未だ快斗にしがみついたまま、うーうーとうなるだけだった。


「新一?」
「んー…わかってんだけど、ダルイ…」


 その台詞に快斗は思わず脱力してしまう。

 新一にしてみれば、抱き締めてくれる快斗の腕の中がとても暖かくて。
 シャワーを浴びるためにこの腕の中から抜け出なければならないのかと思うと、ついつい面倒に思えてしまうのだ。
 背中を撫でる手の平も、髪を梳く指も、口付ける唇も。
 全てが優しくて暖かい。

 だが、そんなことは知らない快斗が納得するはずもなかった。


「駄目。新一に風邪なんかひかせらんない」
「うんー…」


 それでも一向に動こうとしない新一に、快斗はふ…とひとつ息を吐く。
 抱き締めていた腕を解き、これ以上ないほど密着していた体をそっと離す。
 突然離れてしまった温もりに、新一が困惑顔で見上げてきたけれど。


「なら、俺が入れてやるよ。…おいで」


 へ?と聞き返す間もなく、快斗は新一の体を軽々と抱き上げた。
 横抱きに抱え上げられて、急に奪われた平衡感覚のために無意識に快斗に抱きついた新一だったけれど。
 当然、プライドの高い新一がこんな状態を許すはずもなく、急にばたばたと暴れ出した。
 しかしそれすらも快斗は難なく封じてしまう。
 抱き締める腕に力をこめることで、暴れる新一を黙らせてしまった。


「危ないからジッとしてろって」
「………」


 新一は納得のいかない顔で快斗の顔をじろりと睨んだ。
 気付いているはずだが快斗は知らん顔をしている。

 たかだか一歳の歳の差、しかも自分とそう変わらない体格をしているはずの快斗。
 けれど確実に自分よりも力のあるだろう快斗。
 身長こそ僅か数センチほど負けるが、後は大した差はないはずのに。
 それでも、新一には快斗を軽々と抱き上げるほどの力が自分にあるとは思えなかった。
 …ほんの少し悔しいと思う。

 戦地では決して新一は快斗に劣らない。
 未だ二階級の差があると言っても、それは入隊した時間の長さの差だと言っても過言ではない。
 持久力も体力も恐らく同等だが、新一には快斗ほど筋肉的な力がない。
 その分頭脳と体の機敏さを生かした隙のない戦い方が出来るのだが、知能の高い快斗にも新一と同じ芸当が出来るだろう。
 常に同じ場所を…隣を歩いていたいと思うのに、追いつけない。
 それに歯がゆさを感じてしまうのも仕方なかった。

 そんな新一の気持ちを知ってか知らずか、快斗は困ったような笑顔を向けた。


「困った時は…てやつだよ。体が辛い時ぐらいはお互いを頼ったって良いでしょ?」
「…ああ」


 すっかり考えを読まれてしまっていたことに新一はばつの悪い顔をしたが、快斗相手だからまぁ良いか、と片づけることにした。
 大人しくなった新一を抱えなおして、快斗はこの私室に造られているバスルームへと向かう。
 新一を抱えたまま器用に扉を開けて中へと入った。
 少尉の位だと言うだけあってそこはかなり良い造りになっている。
 白を基調とした大理石で出来ていて、3人が同時に入ったとしても何も問題がなさそうだ。
 バスタブの端に新一を腰掛けさせておいて、快斗はさっさとお湯を張る。

 と、快斗の手が新一へと伸びてくる。


「お湯が溜まるの待つより、シャワー浴びながら入っちまおう」


 そう言って新一の上着に手をかけた。
 が、ぺちんとその手を叩いて新一が仏頂面で快斗を睨む。


「自分で脱げるって。甘やかしてんじゃねーよ」
「甘やかしてるんじゃないよ?ただ構ってたいだけv」
「バーロ、構うって俺は動物じゃねーんだぞ」
「当たり前じゃん。ただ……新一が大好きなだけだって」


 目前にあった顔が更に近づいてくる。
 それに逆らうことなく、新一はゆっくりと瞼を閉じた。
 そっと唇に触れてくる優しい感触に、暫し酔いしれて。
 緩く浅く繰り返しているうちに、気付けば上着が床に落とされていた。


「……手癖悪ぃ…」
「あはは、俺、指先器用だからね」


 嬉しそうに笑う快斗にそれ以上何も言葉が出てこなくて、新一はされるがままに衣服を全て脱ぎ落とした。
 少しずつたまり始めた湯船に浸かる。
 まだ足先程度にしか溜まっていないのに完全に裸になってしまったため、肌寒さに肩が震えた。
 が、すぐにシャワーへと手を伸ばした快斗によって寒さも感じなくなる。

 シャワーを浴びながら全身から汗を流すつもりで肌を手で辿ろうとして……動きが止まる。
 自分の体のところどころについている紅い鬱血した痕。
 それの意味するところを思いだして、思わず嫌悪に眉を寄せてしまった。
 そしてすぐ側に快斗が居ることを思って……。
 新一は快斗に背を向けた。

 ただ、見られたくなかった。
 他人の残した痕など、自分を好きだと言ってくれる人に。


「……新一?」
「…も、良い。あとは自分でやるから、お前出てろ…」


 背中を向けたまま顔を見ようともしない新一の言いたいことを悟って、快斗は目を眇める。
 す…と背後から遠ざかる快斗の気配を感じてホッと息を吐いた新一だったが。
 バシャ、と水の跳ねる音がして、あろうことか風呂の中に入ってきた快斗に驚いて瞠目してしまった。


「な…っ、お前!」
「言ったろ?俺が入れてやるって」


 背後から強い力で抱きすくめられる。
 それを嫌だとは思わないけど。
 …今は。


「駄目だって、快斗…っ」


 そんなに近づいては、嫌でも見えてしまう。
 首筋や胸元に散った痕が。

 新一は快斗の腕から逃れようと暴れたが、今度もやはり敵わなくて。
 抱き締めたまま耳元に唇を寄せて、快斗がそっと囁くように言った。


「大丈夫だよ。隠さないで?新一」
「けどっ…、嫌、だろ…?」
「なんで?新一の体は綺麗じゃん。白くて…柔らかくて…まるで新一の心の中を現してるみたいだよね」


 潔くて、強いくせに脆くて…突っぱねて見せながら、ひどく優しい。


「新一が気にするようなことは何もないよ?ほら…」
「…っ、…快斗!」


 首の後ろを舌先で辿るように舐め上げられ、ぞくりと背中をはい上がる感覚に新一は声を詰まらせる。
 振り向いて睨み付けてやろうと思ったが、生憎快斗にしっかり捕まえられていて身動きすることが出来ない。
 新一の声は無視して、快斗は耳朶に歯を立てた。
 ぴくり、と新一の体が跳ねる。


「…こ、ら…っ」
「………新一」


 ぞくり。
 耳元で低く名前を呼ばれた、それだけなのに。
 掠れたような快斗の声が、まるで体の芯にまで響き渡るようで。
 新一は思わず息を呑んだ。

 執拗に耳を愛撫する快斗。
 縁を舌で辿り、時々歯を立てて。
 耳の後ろをきつく吸い上げ、紅い痕をつけた。
 かかる吐息すら熱く甘く…新一の体はどんどん熱くなっていく。


「…新一。新一の痕…全部俺のに塗り替えても良い?」
「快斗…」
「そしたら新一も…気にならないだろ?思い出すのは、俺に変わるでしょ?」

 あんな男に、新一の思考の欠片でさえ与えてはやらない。


 背中に優しいキスをおとしながら快斗が囁く。
 その甘ったるい響きに酔い、新一は快斗の独占欲に嬉しさを覚えた。
 指しては自分のことを思ってのことだから。
 少しも苦痛はない。


「…良いぜ、快斗。全部お前のものにしろよ」


 抱き締める腕の力が緩んだのを切っ掛けに、新一は快斗を振り返って思い切り意地の悪い笑みを浮かべて見せた。
 強気な笑み。
 ただ、快斗の愛撫を受けて蕩けた新一の瞳では、どちらかというと妖艶と言った方が近い。
 艶やかに笑う新一に、快斗は抗う術を持たなかった。

 かみつくようにキスを仕掛ける。
 それまでの触れるだけだったキスが、嘘のように激しくなる。
 唾液も、吐息も、声ですら。
 全てを奪い尽くす勢いのそれに、新一の意識はどんどん引きずられていく。
 角度を変えては、激しく。
 何度も重なり合っては、より深く。
 漸く唇が離れた頃には、互いの呼吸はすっかり上がっていた。
 どちらのものともつかない銀糸が二人の唇を繋ぐ。

 快斗はゆっくりと新一の唇を舐め上げた。


「全部、俺のものにしちゃうよ…?」
「…ああ。その代わり、お前は俺のモンだぜ?」
「光栄だね」


 顔を見合わせてクスクス笑う。
 欲しいモノは、すでにお互いの手の中にあるけれど…。
 まだまだ、それだけじゃ足りない…。



 と、快斗が急に出しっぱなしになっていたお湯を止めた。
 浴槽の半分ほど溜まりかけていたいたが、まだまだ浸かれるほどほどではない。
 どうしたんだ?と言う顔で新一が快斗を仰げば、快斗はにやりと笑って新一を抱き上げた。


「わあ!…快斗?」
「……ベッド行こうぜ?新一」
「!」


 その言葉の意味するところを理解して、新一は体が熱くなるのを感じた。
 つまりは、そういうことをしよう、と。
 風呂場での戯れ程度では満たされないのだと言うこと。

 答えない新一を抱きかかえ、快斗はさっさと室内へと戻ってしまう。
 体も拭かずに、水を滴らせながら。
 まるで拭う時間ですら惜しいのだとばかりに。

 新一はぐんぐん上がっていく自分の体温を感じながら、制止の声をかけた。
 強がって見せても、新一には経験はないのだ。
 まして男同士。
 躊躇いがないかと言われたら嘘になる。
 つい先日男に組み敷かれたからと言っても未遂だったのだ。


「快斗、体濡れてるってっ」
「気にしない」
「ベッドが濡れたら寝れないだろっ」


 せめて、腹を括る時間ぐらいくれても良いだろうと必死に言い募る新一。
 が、快斗は見事に一刀してみせた。


「なら、俺の部屋においでよ。何も問題ないだろ?」


 口角を吊り上げ、ニッ、と男臭く笑う。
 それがひどく決まっていて、新一はそれ以上何も言うことが出来なかった。
 反則だ、と思う。
 普段飄々としているくせに、そんな目で求められたら、断れるはずもない。

 同じことを、快斗が新一の笑顔に思っているとは知らずに。
 新一は肯定の合図にゆっくりと快斗の首に腕をまわした。
 二人、濡れたままの体でベッドに倒れ込んで。
 快斗は再び新一へと唇を寄せていった。

 既にふたりも何も身につけていなかったので、快斗は構わず新一の肌に指を這わせる。
 柔らかい肌の白さを眩しく思いながら、漸く通じた思いに酔いしれる。
 今、この手の中に居るのは、紛れもなく己の欲した人。
 その人が、自分と同じ気持ちを返してくれるという…幸福。


「大好きだよ、新一。…愛してる」


 囁きながら喉元を唇で辿る。
 指の愛撫に翻弄される新一が微かに震え、喉を反らした拍子に紅い刻印を刻みつけた。
 全ての痕を己のものへと変えながら、自分だけの印を付けていく。
 その度に新一の体が跳ね、震える吐息が耳に心地いい。
 だが、新一の声は聞こえては来なかった。
 快斗が胸元へと辿り着いた時ふと新一を見上げてみると、新一が右手の自分の指を噛み締めているのに気付く。


「…新一。指、噛んじゃ駄目だよ」
「…だっ、て……」
「声、殺さなくて良いよ?」


 それでも外そうとしない新一の口からそっと手を奪った。
 見てみるとすでに鬱血して、血が滲んでいた。
 が、そこに今出来たばかりではない傷を見つけて……。


「新一、この指…前も噛んだんでしょ。ひどい傷になってる…」
「だって…気持ち悪かったから……」
「…俺も?俺のも気持ち悪かった?」


 不安そうに覗く快斗に、なんて顔してやがんだ、と思う。
 そんなんじゃないのに…。


「お前のは…声、出そうだったから…だよ」


 と、途端に嬉しそうに笑う快斗。
 ひどく現金な奴だな、と思いながら、それでも快斗が笑ってくれたことに嬉しく思う。


「出して良いよ?ていうか…新一の声、聞きたい…」
「んな恥ずかしい真似出来るかよ」
「なんで?感じてくれてる証拠でしょ?俺だけ気持ち良くなるのなんてヤダし」
「だって…なんか、変な声出そうだし…」
「良いよ、全部聞かせてよ」


 新一のことなら、全部見たい。
 なんでも知りたい…。

 快斗は傷付いた新一の手をそっと取ると、血の滲んだ部分に口付ける。
 口内へと誘い込んで、丁寧に舌で舐め上げた。
 新一はチリとした痛みと疼くような感覚に翻弄される。
 新一をちらりと見上げながら、快斗は大事に大事に舌を這わせる。


「……こら。やらしい舐め方すんな」
「感じちゃった?」
「…ばーか」


 照れ隠しなのか小さく悪態をつくと、新一は自分の手を握る快斗の手を引き寄せて口付けた。
 それに一瞬きょとんとした快斗だがすぐに気を持ち直すと、再び愛撫を再開する。
 今度は噛みつけないように、新一の指に自分の指を絡め押し倒しながら。
 片手で新一の脇腹を辿り、顔は胸元へ埋めて。
 びくりと新一の体が跳ねるたび快斗は嬉しくなる。


「…、っ…」


 まだ声を出そうとはしない新一。
 吐息だけが伝わってくる。
 が、快斗の舌が胸の突起を舐め上げると…


「……ぁ、っ…」


 新一の喘ぎ声が聞こえた。
 微かな声だったけれど、衣擦れ以外に何も聞こえない空間では妙に響いて。
 甘く掠れた、熱に浮いた声。
 新一は恥ずかしさに頬を染めたが、快斗は嬉しそうに笑って新一の唇にキスをひとつ。


「すっげー可愛い声。…もっと聞きたい」
「…っ!何言って…ゃぁっ…」


 胸の突起を口の中に含み、舌先で転がして。
 空いた右手でもうひとつの突起を弄る。
 突然の痺れるような感覚に、新一は声を抑える間もなく煽られ続ける。
 執拗なくらいの愛撫を受けて、意識はどんどん白濁としていく。
 焦れったい、丁寧すぎる愛撫。
 どうしようもない熱が中心に集まり…


「や、ぁ…っかぃ、と……っ!」


 快斗の手が下肢へと伸びて、やんわりと新一を握りこむ。
 細くしなやかな指が絡められ、扱かれる感覚に、新一はもう声を抑えることは出来なくなった。
 新一の紅い唇から漏れ出る甘い喘ぎに、快斗は嬉しそうに聞き入って。
 それでも手を休めたりはしなかった。


「…ぅ、んっ…も、……ぃと…っ」
「新一、一度イく?」
「も、…もたな…ぃっ」
「良いよ、イって…」


 うっすらと汗の浮いた肌を唇で辿り、快斗は頭を下肢へとずらしていく。
 辿り着いた先に、快楽に震える新一を見つけ、熱い口内に導き込んだ。
 途端、それまでとは違う痺れが体を走り抜け、新一の背がしなる。


「あ…っ!や、快斗……!」
「我慢しないで?新一…」
「あぅ…ん………」


 口内に含まれたまま喋られ、新一はびくびくと震える。
 それすらも快楽へとかわって…。
 銜えられたまま熱い唾液に絡められたり、線を辿るような舌の動きに翻弄された。
 ある一点で新一の体が大きく跳ねると、快斗はそこを執拗なまでに刺激する。


「やっ、やめ…!…ん、ぁ…っ」
「出して…新一の、飲みたい…」
「ゃ、んんんっ……!!」


 ぶるりと震え、快斗がきつく吸い上げた途端に新一は熱を解放した。
 白濁した熱を快斗が垂下する。
 ごくり、と喉を鳴らした快斗に、新一は羞恥に染まった顔を向けた。
 まさか飲み下すとは思ってなかったのか、信じられない、とその顔には書かれている。
 解放の余韻に震える新一を極上の笑顔で見つめ、快斗は一言。


「ごちそうさまv」
「……っ!!このっ、バカッ!」
「え〜?なんで??新一の、すげー美味しかったけど?」
「ンなもんウマイわけあるかっ」
「んー、でもイく瞬間の顔、最高にオイシかったぜw」
「…!!!!」


 快斗のあまりの発言に絶句している新一。
 真っ赤に染まったその顔が愛しすぎて、たまらず口付けた。
 啄むようなキスを、徐々に深くしていき…
 諦めたのか、新一も少しずつそのキスに答えてくれる。
 文句を言いながらも受け入れてくれる恋人に、この上なく嬉しくなった。
 そして快斗は口付けたまま、未だ誰にも開かれたことのない秘部へと指を宛う。
 ツ…と肌を滑る指に新一の体が跳ね、侵入してきた指に強張る。


「…ん、んん…っ…」
「大丈夫。力抜いてて、新一…」
「でき、な…っ」
「全部俺に任せて」


 再び愛撫を再開して、体の緊張を解していく。
 肌を滑る指の動きが快楽へと誘い、次第に快斗の指が苦痛以外の感覚を運んでくる。
 傷つけないように丁寧に蠢き、なおかつ新一の弱いところを探り出す。
 解れだしたそこに新たな指が入り込み……


「か、ぃと…っ!やぅ、んっ…」
「ここ…弱いみたいだね、新一」
「ひゃっ、あっ!!」
「可愛い……」
「駄目…っ、かぃ…とぉっ」


 甘い嬌声に、快斗の下肢も次第に熱さを増していく。
 ずくん、と腰にダイレクトで響く声。
 お互いがお互いに煽られ、煽っていく…。
 時間をかけて抜き差しを繰り返していたおかげで、新一の秘部は大分解されていた。


「新一…入れていい?」
「バ…ロ……今更、聞いてんじゃねーよ…」
「…うん。痛かったら言って?途中でやめるから」
「い、から…っ…やく、しろ!」
「……了解」


 理性の限界に挑戦してでも、新一の体を傷つけたくないから、了解をとったつもりだったのだけど。
 熱に浮かされた蒼い瞳はとろとろに蕩けていて、そんな瞳でハヤクなんて言われては。
 さすがにちょっと自身のない快斗だった。

 快斗は指を引き抜くと、そこが閉じてしまう前に自身を宛う。
 びくりと強張った体に気を遣いながら、ゆっくりと腰を進めた。
 が、かなりきついそこはなかなか思うように快斗を呑み込まない。
 口では大丈夫だと言いながらも新一も大分きつそうだった。
 一旦行為をとめて、快斗は新一を撫でながらそっと呟く。


「新一、ゆっくり息を吐いて…息、止めちゃだめだよ?」
「…かいと……ぃと…っ」
「大丈夫。無理はしないから……ね?」
「は…は、ぁ……」


 促されるままに深呼吸を繰り返す新一。
 背中を撫で、落ち着くまで…正直辛かったが…快斗は動かなかった。
 新一の体の緊張が漸く解れてきた頃、再び快斗はゆっくりと腰を進める。
 呼吸の仕方を覚えたからか、今度はあまり抵抗はなかった。





 所在なさげにシーツをつかむ新一の腕を快斗自分へとまわす。
 新一は快斗の首に腕をまわすと、しっかりとしがみついた。
 密着する、肌と肌。
 間近に感じる、お互いの吐息。
 自然に唇を寄せて、キスをしながら快斗は自身を新一の中へと埋め込んだ。


「かいと…、かいと」
「新一。…愛してる」
「…あぁっ!!」


 すっかり落ち着いたところを見計らって、快斗は腰を動かし出した。
 ゆっくりとした律動で、あくまで新一の体を気遣うことは忘れない。
 溢れる愛液を潤滑油にして、埋め込んだ自身を一旦引き、再び奧深くへと差し込む。
 初めての行為に苦痛は消えなかったが、快感もともに体を蝕んでいく。


「は、…あ、っ、か…ぃと…っ」
「新一…っ」
「ぁは、あ……っ、かい、と!…かいとぉっ」
「…ぃち……好き。…大好き。…愛してる…っ」
「…お、れも……っ」


 ぎゅっ、と首にまわされた新一の腕に力がこもる。
 ぐいと引き寄せ、埋めるように首元に顔を寄せて。
 耳にそっと聞こえる声で。


「…愛、して……る……っ」


 まるでそれが合図のように。
 快斗は自分のなけなしの理性が吹き飛ぶのを感じた。
 新一の中に埋め込んだ自身がずくん、と脈打って、快斗はより激しく新一を貫く。


「ぁっ、やぁ…っかい、と!…や、ぁあっ」
「新一っ、新一!」


 まるでそれしか知らないかのように、名前を呼び続ける。
 狂おしいほどの愛しさと切なさを込めて。
 呼んだだけで体が熱くなる。
 呼ばれるだけで体が熱くなる。

 ただその熱を解放したくて…。
 けれど手放すのはまだ惜しくて…。
 それでも止まらない本能に従って、快斗は一気に最奧まで突き上げた。
 一際高い声が上がって、新一は熱を解放すると快斗をきつく締め付けた。
 白濁した液が快斗の腹部へと飛び散る。
 快斗もまたそのきつい締め付けに逆らわず、己の欲を新一の中へと解放する。


「…ぁ……」
「しん、いち…」


 流れ込む熱に新一の体が小刻みに震える。
 二人は我慢できずに、そのままベッドの中へと沈み込んだ。
 新一の上に乗りかかるわけにもいかず、横向きに向かい合うようにして倒れる。
 すぐ目の前に互いの顔があり、二人は余韻に浸りながらそっと口付けた。

 もとよりあまり体調の良くなかった新一は今の行為ですっかり呼吸が上がってしまっている。
 新一の中は狭いがかなり居心地が良く、快斗は名残惜しかったがそっと自身を引き抜いた。
 それと一緒にトロリと流れ出す白い液。
 新一はそれが肌を伝う感覚にすら震えてしまい、快斗に抱きつくことによってやり過ごした。


「新一…大丈夫?」
「ん、平気…」


 心配そうに覗き込む快斗の鼻先に、ちゅ、とひとつキスをおとす。
 一瞬驚いて瞳を瞬かせた快斗は、次にはとても嬉しそうに笑っていた。
 新一からの…鼻先だったけれど…初めてのキス。
 その嬉しげな顔に新一は頬を染めながらも、満足げに笑った。


「新一。大好きだよ、愛してる」
「……ん」
「……新一は?」
「……聞かなきゃわかんねーのかよ?」
「ううん。でも…もう一回、聞きたい」


 熱に浮かされながらも、しっかりと告げてくれた言葉。
 その言葉を疑う訳じゃない。
 もちろん信じてる。
 だけど、こうして目を合わせながら…しっかりとした君の言葉で。
 言われたい。

 じっと自分の瞳を見つめながらひどく真剣な顔をしている快斗に、新一は余計に恥ずかしさが増す。
 勢いに任せて言ってしまうのならばまだ良いけど…面と向かって言うには、恥ずかしい台詞だ。
 それをいとも容易く言ってみせる快斗がすごいのだ。

 けど。
 ひどく自分を大切にしてくれるこいつのためなら。


「……愛してる、……快斗」


 自分でもどうしようもないくらいに顔が真っ赤になっているだろう。
 それでも、面と向かって言いたかった。
 嘘偽りのない、真実の言葉だから。
 …後になって恥ずかしさが込み上げてくるけれど。
 それでも…目の前のこの男の顔が。
 うん…と瞳を細めて嬉しげに笑うのを見ると。


(やっぱ、こういうのも…悪くねぇ……)


 そっとまわされた腕に素直に身を預け、新一は快斗に包まれながら眠りについた。






TOP

……………。
ノーコメントで…。
ただ、空色でのふたりはこんな感じです。
結局ラブ。