親父へ 元気ですか?俺は元気です。 親父が残してくれた天使のおかげで、俺は幸せな毎日を送っています。 親父、俺頑張るから。 だから安心して下さい。 俺には天使が傍にいるから、もう悲しくありません。 黒羽快斗 |
-------------- 天使■■■ -------------- |
雲一つない蒼い空。 快斗は今、屋根上にいる。 ごろんと横になって無限に広がる空を見つめた。 「かいちょ!!」 ぼーっと空を見ていると、下から舌足らずの幼い声が聞こえた。 「し、新一っ!」 快斗は慌てる。 新一と呼ばれた幼い子供が、んしょんしょ言いながら屋根に上ってきていた。 すかさず手を伸ばし、小さな身体を抱き上げる。 「危ないだろ、新一」 注意しても、新一はにっこり笑うだけ。 「ヘーキだよ、これぐらい」 快斗の腕から抜け出すと、トテトテと危なげなく屋根上を歩く新一に快斗は苦笑した。 そう、この子供は普通の子供とは違うのだ。 外見は五歳程度だが、知能数に運動能力が異常に高い。 「かいちょ、おてがみかいてたの?」 新一は置かれていた便箋を手に取ると、快斗を振り返った。 「そ、親父にね」 「とーちに?」 新一は便箋を快斗に返し、蒼い空を見上げる。 「とーち、おそらから、かいちょをみてりゅ」 「そうかな?」 「うん。やしゃしいおめめでみてりゅよ」 新一の蒼い瞳が、蒼空を映す。 その瞳に映るのは蒼い空―――… 新一と出逢ったのは一年前。 盗一の隠し部屋を見つけた時に、その部屋の中で眠っていた。 『はじめまちて、かいちょ。ぼく、しんいちっていうの』 そして、天使の笑顔を向けてきたのだ。 何故、ここにいるのか。 今まで、ずっとここにいたのか。 盗一とはどんな関係だったのか。 快斗は色々と質問したが、新一の答えはどれも一緒だった。 『とーちとぼくだけのヒミツなの』 結局、教えてもらったのは成長が止まっていること。 そして、初代怪盗キッドだった盗一のサポーターだったということ。 「今回も違う、か…」 月へと掲げた宝石に求める色がないことに、キッドは大きくため息を吐いた。 「……きっど」 ポテポテと近づいてくる小さな影。 「新一」 「となりのびるにいた、あやしいひとたちたおちた」 下を見れば数台のパトカーが隣のビル前に停まっている。 こんな小さな身体で殺し屋と同等…いやそれ以上の力を持つ新一。 「…殺してないだろうな?」 「うん。とーちがつくった、ましゅいじゅうをつかったから」 キッドは新一を抱き上げるとフェンスの上に飛び乗った。 「さて、それではそろそろ帰りましょうか」 白い翼を広げ夜空に飛び立つ。 「きれい…」 空から眺める夜景は新一のお気に入りの一つだ。 キッドの腕の中で、キラキラと瞳を輝かせながら夜景を楽しむ新一にキッドは微笑んだ。 「とーちもね、こうやってきれいなよるをみせてくれたの」 「親父も?」 新一は時々、盗一との思い出を話してくれる。 自分の知らなかった盗一の話を聞くのは好きだが、新一が嬉しそうに話すのを見るのはあまり良い気分ではない。 誰だって自分の好きな人が他の男を想って嬉しそうな表情になるのは嫌なのだ。 盗一のことを話す時の新一は本当に嬉しそうで、そして少し悲しい表情で… 新一にこんな表情を作らせているのが盗一だということが気に入らない。 「…かいちょ。ぼく、かいちょもすきだからね」 「……うん」 人の心に敏感な新一。 そして、一番欲しい言葉をくれる。 「新一は俺にとって天使なんだよ」 翌日、快斗は新一と一緒に屋根上にいた。 「かいちょ?」 首を傾げる新一の頭を撫でて、快斗は昨日の昼間に書いた盗一への手紙を破いた。 「――!かいちょ、なにして…っ」 新一は慌てて止めようとするが快斗は気にせず細かく破っていく。 「新一、見てな!」 そう言うと、快斗は細かく破った手紙を蒼い空に向かって放り投げた。 はらはらと落ちていく手紙。 風が吹くと、そのまま風に乗って遠くに飛んでいった。 「こうするとさ、風が親父のとこに届けてくれると思わねぇ?」 快斗がニッと笑いながら振り向くと、新一の手が震えているのに気がつく。 「新一?」 「かいちょ、め!なのっ!しぜんはかいっ!おてがみ、いますぐひろってきなちゃいっ!!」 新一が叫ぶのと同時に背中に衝撃が走った。 「え……」 冷や汗を掻きながら新一を見れば、べーっと舌を出している。 可愛いなぁvvv ……じゃないっ!! 新一が快斗に向かって飛び蹴りをして屋根から蹴り落としたのだ。 「し、新一っ!お前―――っ!!!」 「おてがみ、ぜんぶひろわないと、いっしょにおねんねしないから!」 「何―――っ!?」 新一の言葉に快斗はショックを隠せない。 新一と一緒に寝るのは快斗にとって楽しい時間の一つなのだ。 それに、新一を抱きしめながら寝ないと眠れなくなっていた。 快斗は空中でバランスを取り、着地すると風に乗って飛んでいってしまった手紙を回収すべく走った。 「とーち、かいちょはげんきです」 手紙を追いかける快斗を見て新一は、苦笑しながら蒼い空を見上げる。 快斗が汗だくになって帰ってきたのは、日が完全に沈んでからだった。 新一は快斗がお風呂に入っている間に、破かれた手紙をセロハンテープでくっつけていく。 「できた!」 修復が終わると、窓を開けベランダに出て屋根に上る。 満天の星が広がる中、新一はある一点を見つめて腕を大きく広げた。 「とーち!!」 新一が呼ぶと、ある一点か眩い光が生まれ人型をとってゆく。 『やあ、新一』 やがて、その人型は黒羽盗一の姿となり、嬉しそうに見上げてくる新一を抱き上げた。 『久しぶりだね、元気だったかい?』 「うん!とーちは?」 『私も元気だったよ』 なんせ、今いるところは天国だからねえ。 くすくす笑いながら盗一は久しぶりに触れる天使の額に己の額をあわせた。 『ありがとう、新一。君のおかげで快斗も幸せそうだ。私も安心して上から見守ってられる』 「ひとをしあわせにするのが、ぼくのおしごとだもん!」 『そうだね、立派な君の仕事だ。そうだ、久しぶりにアレを見せてくれないかい?』 盗一が新一の背を撫でると、新一はコクンと頷く。 深く深呼吸をして背中に神経を集中させると、力の解放をイメージする。 「……んっ!」 力の込められた背中から何かがでてくる。 半ばほどまで来て、一度そこで息を詰めると勢いよくバサッと翼が広がった。 その翼は一見すると白にしか見えないが、よく見れば淡い蒼い色をしている。 小さな身体には不似合いな大きな翼。 『二翼しか出してくれないのか?』 「ぜんぶだしたら、かみちゃまがくるよ?」 新一は六対十二翼の翼を持っている。 けれど、余程のことがない限り全ての翼は出さない。 故に全ての翼を出してしまうと、新一の身に何かあったのではないかと、新一を溺愛している神様が心配して降りてくるのだ。 『ああ、確かにそうだな…』 納得だと盗一は苦笑しながら、新一の翼に手を添える。 ふわふわとしていて柔らかい翼。 力がありすぎるせいで、その膨大な力を制御するために成長を止めてしまった新一。 「とーち、これあげりゅ」 新一は快斗の書いた手紙を取り出すと盗一に差し出す。 『おやおや、これはまた……』 セロハンテープでくっつけられた手紙。 かろうじて文字は読める、それに盗一は瞳を細めた。 『ありがとう。そして、これからも快斗のことをよろしく頼むよ』 「うん!まかちて」 盗一の姿が薄くなり、光が消えていく。 「ぼく、とーちもかいちょもだいすき」 満面の笑みで言われた言葉に、盗一はありがとうと言って静かに消えた。 「かいちょっ!」 新一が部屋の中に戻ると、ちょうど快斗がお風呂から上がり部屋の中に入ってきた。 飛びついてきた新一を危なげなく抱きとめ、快斗はベッドに移動する。 「さぁて、寝るか!新一」 「うん!」 新一を抱きしめたままベッドに潜り込めば、擦り寄ってくる小さな身体。 「おやすみ、新一」 「おやすみ、かいちょ」 笑いあって、お互いのぬくもりを感じながら瞳を閉じる。 天使を抱きしめて眠れば幸せな夢が見れる。 快斗は夢の中で笑顔の盗一を見た気がした。 君は僕の天使 傍にいて 傍で笑ってくれるだけで僕は幸せになれるから END. TOP |
--------------------------------------------------------------- くるみさんのコメント▼ B104のクロキさんに捧げます。 クロキさんのサイトで地雷369968を踏んで書いたお話。 リクの「快新で、盗一パパを交えたほのぼの切な系」とは、かなりズレているような… 何で新一お子様?しかも天使?てゆうか、ほのぼの?切ない? 問題ありまくりなお話になってしまいましたが、書いてて楽しかったです(笑) クロキ様、このような駄文で宜しければもらってやって下さい。 地雷作品になりますので、クロキさんのみフリーとなります。 |
--------------------------------------------------------------- ▼管理人のコメント くるみさんから頂きました、地雷小説で御座いますvv 消化は遅いかも…と聞いていたので、予想外の速さに嬉しい驚きですvv 舌っ足らずな天使しんいちくん、可愛いですねーvv しかも十二翼のつばさ。さすが新一!激ツボ!笑 彼が盗一と出逢ったイキサツなんかも気になりますね(´∀`* くるみさん、お忙しい中素敵なお話をどうも有り難う御座いました! 記念すべき地雷ナンバーは369968でしたvv |