Even a chance acquaintance is part of one's DESTINY.
偶然に知り合う人でさえ、その人の運命である







The Chance











はぁ はぁ……

 月は厚い雲に覆われ、けばけばしいネオンの光は路地裏までは届かない。ましてや、廃ビルの中にまで訪れる明かりなど皆無である。
 足元すら確認できない暗闇の中、手探りで出口を探す。広くはない空間にこだまするのは己の呼吸音のみ。
 胸が上下するほど呼吸しても、酸素が足りない気がして更に恐怖心が増してくる。パニックになりそうな自分を叱咤して、探りながら足を踏み出す。









『現代日本に蘇えったJACK THE RIPPER !!』

 連日、ワイドショーが騒いでいる。今、東都を震撼させている殺人事件だ。
 1週間前の早朝、第一被害者の遺体が発見された。有名ミッション系女学校に通う女子高生だ。咽喉と腹を鋭い刃物で切り裂かれていた。それから立て続けに今日まで、計3人の女子高生が殺害されている。みな、体中を切り裂かれ、内臓が引きずり出されると言った残忍極まりない犯行の犠牲者である。この3人は別々の高校に通っており、共通の知人などもいなかった。一見、何のつながりもない無差別猟奇殺人と思われたが、聞き込みをしていくうちにある共通点があることがわかった。

 テレビの中、マイクを向けられた女子高生の胴体の映像と人工的に変えられた声がリポーターの質問に答える。

『アノコ、結構裏では派手でぇ、エンコーとかもやってたよね』

『え、うちら?うちらはやってないけどさぁ、食事だけならアリって気もするぅ』

『アノコはエッチも入ってたもんね』

 同じ制服を着ていた少女が殺されていると言うのに、インタビューを受けている少女たちは時折くすくすと笑いながら話した。
 新一はテレビを見ながら苦い顔をした。死者を侮蔑し、わが身を顧みないその無神経さに。
 少女たちは知らないのだろうか。JACK THE RIPPER 第三の犠牲者は、自分の身に降りかからないと思っていたエリザベス・ストライドだったということを。

 ただ単に、連続猟奇殺人だからJACK THE RIPPER と騒がれているのではない。殺された女子高生、3人が3人とも援助交際をしていたという共通点があった。
 1888年英国、8月31日から同年11月9日までに5人の女性が連続して残忍な手口で殺害された、世界の犯罪史に残る事件。この5人の被害者も売春婦であった。

 19世紀始めにガス灯が発明され、英国中に普及していたとはいえ、この事件の舞台であるイーストエンドのホワイトチャペル・ロード周辺は貧民街。街灯の1本すらまれで、夜になると一歩先すら見えない暗闇だった。
 第一の殺人はメアリー・アン・コリンズ 娼婦。咽喉と陰部から腹にかけて2回ずつ切り裂かれていた。第二の殺人はそれから8日後。被害者はアーニー・チャップマン。やはり娼婦。首は裂かれ辛うじて胴体とつながっている状態で、切り裂かれた腹からは内臓が投げ出され子宮と膀胱は持ち出されていた。
 さすがに自警団も結成され、娼婦たちにも警戒が促されたが、誰もその恐怖がわが身に降りかかるなどと思っていなかった。そうして、9月30日、第三と第四の殺人が行われる。エリザベス・ストライド、キャサリン・エドウッズ。エリザベスは咽喉を2回掻き切られていたが、腹は裂かれていなかった。それが彼を欲求不満にさせたのか、そのあとすぐキャサリン殺害が行われている。当時、警官は 15分間隔で巡回を行っていた。その間を縫った犯行で、やはり首と腹を裂き、鼻と右耳を切り取り、子宮と左腎臓を持ち去っている。そして逃げざま、ウェントワース・ストリートに「ユダヤ人はゆえなくして非難されるわけでない」と落書きした。
 そして、ジャック最後の被害者メアリー・ケリー。彼女も娼婦であった。11月9日、25歳の彼女は借りていた自室で、被害者の中で最も残忍な殺され方だった。首が落ちそうなほど深く咽喉を切られ、左腕は皮一枚で繋がっていた。顔は判断できないほど削がれ、肉塊はテーブルに積み上げてあった。
 短時間で人間を解体し、子宮を持ち去ったことから最も有力な容疑者として医学に携わった経験のある者が数人上げられていた。
 飢饉で流れてきたアイルランド人や、宗教的迫害を逃れてやってきたユダヤ人、日雇い労働者たちが急増し、増えすぎた人口に環境がついてゆかず、治安は極端に悪化していた当時の英国。辛い現実を忘れるため、下層階級のものたちはジンに溺れアルコール中毒となっていた。その時代背景からも多くの警察関係者が、犯人は外国人かユダヤ人とも考えていたが未だに真犯人は明らかとなっていない。

 犯罪マニアの間でもっとも人気のある事件のひとつであるJACK THE RIPPER。
 新一は今回の連続猟奇殺人はそういった犯罪マニアの模倣殺人ではないかと睨んでいた。警察にそう助言し、警察もその線で捜査を進めていたが、新一の介入は許されなかった。
 理由は簡単。今回は余りにも凶悪な事件であるため。たとえ日本警察の救世主であっても、高校生を関わらせるにはこの事件は残忍すぎた。
 目暮警部の立場もわからないでもないが、次々犯される殺人を指を咥えて眺めることもできない。
 そこで互いの妥協策として、新一は現場へは赴かないかわりに、捜査状況は逐一報告してもらった。しかし、未だ何の進展もなかった。
 目撃者もなく、犯人の遺留品もない。
 進まない捜査と加熱する報道に新一は苛立って、テレビの電源を切った。









 最後の殺人が起こってから1ヶ月。新たな被害者は現れなかった。
 あれだけ残忍、残酷と騒がれていたのに、世間はすでにそんな事件があったことすら忘れたかのようだ。ワイドショーは人気絶頂タレントの熱愛を取り上げ、報道番組は最新のニュースでいっぱいだ。凶悪犯罪はなにもその件だけではない。休む間もなく、大小関係なく事件は起きている。
 新一も気にかけながらもその他の事件・雑事に追われ、「JACK THE RIPPER 事件」について考える時間は日々短くなっていった。



 その日、新一はサッカー部の打ち上げに顔を出していた。警察に頻繁に呼び出され、練習に出る機会の少ない新一ではあるが、部員たちには慕われていた。
 超高校級のサッカーテクニックでチームのエース、という理由ばかりではない。人目を惹くその面貌は類稀なものがあった。シャープな印象を与える顎は英語圏の人種に共通するものがあり、色素が薄いのか肌は白い。通った鼻梁と大きすぎない口がバランスよく収まった顔は同年代の、いやその他の年代の女性すら羨ましいと溜め息をつくほど。
 そして何より人を惹き付けるのがその希少な蒼い瞳の放つ光である。その光は強く、厳しい。
 自分に厳しく、他人にも厳しいが後のフォローもしっかりできるその人格が、瞳に表れている。しかも真面目一辺倒ではなく、自分から破目を外すこともある。それが彼が慕われる何よりの理由だった。

 勘定を済ませ、幹事が出てくるのをみんなで店の外に出て待つ。
 そのとき、一人が「あれ?」とおかしな声を上げる。首を捻りながら目を凝らして人ごみを眺めている。

「どうしたんだ?」

「あ、いや……。
 工藤、兄弟とかいたっけ?」

「いねぇけど?」

「いや。……すっげぇ工藤にそっくりな奴が歩いててよぅ」

 不思議そうに話すチームメイトに、みなが見間違いだの、こんな顔がこれ以上あるかだの、ドッペルさんだの囃し立てる。
 新一は彼らの好き勝手な言い草に苦笑をしたが、幹事が出てきたのを見計らって話をまとめた。

「小林、酔ってんじゃねぇのか?
 んじゃ、時間もちょうどいいし、ここで解散とするか」

 繁華街のど真ん中ではあるが、みな帰る方向はまちまちである。全員、少々酒が入り赤い顔をしているが、ここではたいして珍しいことではない。「未成年の枷」が緩い空間。

「みんな絡まれねぇようにな。補導員に捕まんなよ」

「新一こそ、悪いおじちゃんにかどわかされないようにな」

「バーロー。俺は女じゃねぇ」

「いや、俺新一だったらお持ち帰り」

 テンションの上がった面々は口々に「俺もぉ」と言い新一を半眼にさせる。

「おめぇらごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと帰れ!!」

 友人を蹴るフリで追い立てて、見送る。
 何度も振り返って手を振る友人たちが見えなくなったのを確認して、新一はふうっと息を吐いて空を見上げた。
 久しぶりに過ごした、ただ笑うだけの時間。推理に明け暮れるのもわくわくして楽しい。しかし、推理する、ということは事件が起こっているということ。事件意外にも推理のネタはあるが、最近は事件の比率が圧倒的多数。つまり、推理の裏側には誰かの涙が隠されているという事実に、推理に胸を躍らせると同時に心を痛めてもいた。
 見上げた夜空は厚い雲で覆われていたが、新一の心は少し晴れたようだった。

――――あいつらの馬鹿話もたまにはいいな

 特に試合があったわけでもないのに、いきなり打ち上げだと言い出した面々の顔を頭に浮かべ、おせっかいと文句をつけると同時に感謝した。

「さて、俺も帰るか」

 新一の自宅の最寄駅の線はこの近くに駅はないので、少し歩かなければならない。
 少し火照った頬に風を感じながら歩く。そして、そういえば、と足を止めた。
 繁華街を抜けると、そこは「JACK THE RIPPER 事件」の第一犠牲者発見現場のすぐ近くだった。
 少しの間躊躇ったが、新一は現場となった裏路地の廃ビルに向かって、細く暗い道に足を踏み入れた。

 目暮警部との約束で、新一は一度も現場に訪れなかった。
 約束を破り、一人でその現場に向かうことを後暗く思わないわけではなかったが、「もしかしたら何か掴めるかもしれない」という気持ちの方が勝ってしまった。
 明かりのひとつもなく、人が滅多に通らない路地。殺害現場と似たような寂れた建築物が林立していて視界もよくない。慎重に周囲に意識を張り巡らせて歩を進める。
 と、急に背後で人の気配がした。




「工藤新一くん、じゃないですか?」

 振り返った新一の顔を照らす明かりに新一は目を眇めた。暗闇になれた目は懐中電灯の明かりすら強く感じる。手を光に翳し窺い見る。どうやら警官らしい。制服を着ている。新一は知らない顔だが、一応新一は有名人の端に位置している。顔を知られていてもおかしくない。

「はい。……巡回ですか?」

「ええ。あんな事件もあったことですし。ここら辺は特に見て回るんですよ」

「ついて行ってもよろしいでしょうか?」

 頷く警官に、これで少しは言い訳の余地もできたかと、新一は頭に目暮警部を思い浮かべる。
 目的の廃ビルまではすぐだったが、警官は一方的によく喋った。しかも、新一についての話である。よくそんなことまで知っていると本人すら感心するほどだ。
 新一は同意を求める警官に曖昧に相槌を打ちながら、少し気味悪く感じだしていた。廃ビルに着くと、そのまま他を巡回すると思われた警官は新一に付いて廃ビル内も見て回ると言った。
 表通りの明かりも届かず、周りに街灯もない。ここに来る予定のなかった新一は照明の類を一切持っていなかった。懐中電灯を持った警官の申し出は確かにありがたいものだったかもしれない。
 連れだって廃ビルに入る。警官に懐中電灯を借り、新一が前に立って歩いていく。

 建物の中辺り。2階から3階へ続く階段の踊り場にさしかかったそのときだった。
 新一は風が動くのを感じ、身を翻した。
 それと同時に咽喉元に何かが走ったのを感じる。反射的に指で辿るとピリっとした痛みを感じた。滑る液体は見なくても血とわかる。
 上げた微かな明かりに照らし出されたのは、手にナイフを握る警官だった。

「逃げないでよ。ずっと君を待っていたんだよ。切り裂きジャックに興味があるんでしょ?
 こうすれば君に会えると思って、あの汚い女たちを殺したのに。君はいつまで経ってもここに来ないから、次の方法をいろいろ考えていたところだったんだ」

 夢見るように微笑む警官の顔に新一は寒気を覚えた。
 そうして警官は再び新一に襲い掛かった。その攻撃を交わそうとした新一の手から懐中電灯が落ちる。それは階段を転がっていき、明かりがなくなってしまった。
 男が闇雲にナイフを振り回している。新一はそっと男から離れ隅に身を寄せた。
 正気を失っている男を取り押さえようとしても危険なだけである。狭い階段を、彼を抜けていくこともできない。新一は手探りで階段を登ることにした。
 上のフロアに上がった新一は、とにかく階段から離れようと足元すら見えない闇の中を手探りで逃げる。
 狭い廊下に木霊する呼吸音が、より一層自分を追い立てる気がして新一は乾いた唇を舐める。落ち着くよう自分に言い聞かせながら慎重に辺りを探る。
 手にドアの武らしきものが触れた。
 何の部屋かわからないが、その中に入り息を潜める。廊下に神経を集中させた。

 多くの専門家や犯罪マニアはJACK THE RIPPERについて論じている。外科的知識を持ち女装をしていた。コナン・ドイルはそう推理した。その説を押すものも少なくない。子宮を持ち去ったのは女性に対しての激しい憎悪から。または羨望。そして、女装説には娼婦たちの警戒を解く手段として用いられたという考えもある。
 警官というだけで男を信頼してしまった自分のまぬけさに新一は舌打ちしたい気分だった。
 これではテレビの中の少女たちと変わらない。

 廊下にコツコツと足音が響く。明かりがゆれている。懐中電灯を拾ってきたらしい。新一は気配が通り過ぎるのをじっと待つ。
 すぐソコまで迫った足音に緊張はピークに達する。明かりが部屋の中を這うように向けられるが、また室内は暗闇に戻る。男はさらに奥の部屋へと廊下を歩いていった。新一は壁とロッカーの間からそっと身を出した。慎重に壁伝いに出口まで来て、廊下の様子を窺う。男は角を曲がって行ってしまった。
 そっと部屋を出て、階段を目指した。
 視覚は全く利かず、気配のみを頼りに階段を探す。感覚を研ぎ澄ます。
 漸く階段に辿り着いて気が緩んだのか、今更酔いが回ったのか、新一は足元のバケツに躓いてしまった。バランスを崩した体を踏み留めようと足を踏ん張ろうとした。がそこは床がなく空間だった。そのまま新一は階段を転げ落ちた。ステンレス製のバケツがコンクリートの壁にぶつかり音が反響する。

「っっ痛……」

「そっちか!!」

 男も、今の音に気付いて駆けてくる。
 立ち上がろうとしたとき、左足首に激痛が走る。しかし構っている余裕はない。新一は足を引き摺りながら階下を目指した。
 だが、足音はどんどん迫ってくる。1階まで降り、壁伝いに出口を目指す。階段はフロアの中ほどにあるため、このままでは確実に追いつかれる。
 新一は暗闇の中、手探りで身を潜ませる場所を探る。
 どんどん足音は近付いてくる。新一は元は給湯室であっただろう狭い空間に隠れた。

 暫くじっとしていると足音は遠のいていった。どうやら気付かれなかったようだ。
 新一は腰を床につけたて立てた膝の間に詰めていた息を吐いた。
 緊張のため欠乏していた酸素を取り込むように、自然と胸と肩が上下するほど大きな呼吸をする。そうして鼓動も呼吸も落ち着いた頃、新一は給湯室からそっと頭だけ出して廊下を確認した。
 気配はない。
 ゆっくり給湯室から出て、出口に向かった。
 吹き込んでくる風を感じる。出口が近い。

「見ぃつけた」

 瞳孔が閉じていた目は急に顔に向けられた明かりに視界を奪われる。
 その隙をついて、男は新一に再び襲い掛かった。寸前で身を交すことはできたが、体を捻った拍子に左足首から全身に痛みが走る。それに耐えられず、膝を折ってしまう。

がっ

 蹴り上げられ、上半身まで地面についてしまった。そこに男が馬乗りになる。

「っく!! どけろ……」

 拳を振り出すが、胴体で反動がつけられない。俊敏さを失ってしまっては、細い新一の腕では威力は知れている。
 喰らった拳を気にも留めず男は口を歪める。笑ったつもりらしい。

「ずっと見ていたんだよ、君のこと。その、宝石みたいに蒼い眼を綺麗だとずっと思っていたよ」

 やっと僕のものになるね。言いながら男は新一の顔が浮かび上がるよう懐中電灯を置くと、咽喉を締め上げながらナイフの刃を当てた。

 そのとき、空気を切るような音がしたかと思うと、男の腕からナイフが落ちる。男の手にはトランプのカードが刺さっていた。
 新一は体を弾ませ、男を振るい落とした。そのまま俯いてげほげほと咳き込む新一に誰かが駆け寄る。その前に男は建物の置くに逃げていってしまった。

「おい、大丈夫か!?」

「……ああ」

 新一はそれだけを返すのがやっとだった。
 数度大きく息を吐く。そうして、転がっている懐中電灯に手を伸ばすと、立ち上がった。足元を照らす光の乱反射でお互いは顔を確認した。
 新一を助けたのは、新一と年恰好の似た少年。僅かに彼のほうが背が高く、精悍な印象を受ける。そして、おそらく同じことを考えている。その瞳に映る色は激しい怒りを表しているように、新一は感じたのだ。

「追うか」

 新一の言葉に、少年は頷く。だが、その前にもう一度確認した。

「あんた、本当に大丈夫か?」

 今度は新一が頷く番だった。




 緊張を強いられる中、なぜか、ついさっきあったばかりの名前も知らない少年を信頼している自分に、新一はそんな場合でもないのに感嘆する。
 背中を向けていても警戒しないでいい人間なんて、隣人と幼馴染みを除けば家族しかいない。それはもともとの性質なのか、探偵という家業ゆえかは定かではないが、他人を信じきれない自分に新一は嫌悪を感じることがある。

――――なんだろう、こいつ……

 こんなにも簡単に自分の中に入り込むなんて。まだ、何かを話したわけでもない。ましてや名前すら交わしていないのに。
 危機を助けてもらったからだろうか。だから、無条件で信頼してしうのだろうか……。

 頭の隅でつらつらと考えていたが、神経を張り巡らすことに手は抜いていない。かすかに人の動く気配を感じる。それは本当にかすかな気配で、おそらく普通の人間は気づかない程度。
 新一は隣の人物に、男が近くにいることを伝えようと顔を向けた。すると、驚いたことに、少年も気付いていたらしく、アイコンタクトを取ってきた。

 そうして、言葉を交わすことなく、男のいるであろう部屋に踏み込む。
 息を殺し、潜んでいた男は、自分が物音一つ立ててないにもかかわらず見つかってしまったことに動揺した。散々暴れまくったあげく、バランスを崩し、近くの窓に倒れこんでしまった。
 せめてガラスが残っていれば助かっただろうか。男は4階の高さから転落してしまった。




 通報により警察が駆けつけ、新一が親しい警部や刑事に説教を喰らい、無事を喜ばれている間に、ふと気付くと少年はいなくなっていた。

――――あ、名前聞いてねぇ

 それが、とても残念に思える。勝手にいなくなった彼に舌打ちしたくなった。
 だが、新一の顔はそれほど悲嘆してはいなかった。

――――次逢ったとき、聞けばいいか

 なぜか、もう一度逢えるという確信があったから。
 次の機会まで、楽しみにが増えただけである。




 珍しく出かけた繁華街の帰り、なぜだか胸騒ぎがした。何かに呼ばれているような、行かなければならないような気がした。
 直感にしたがって辿り着いた先に見たのは、自分と同じ年頃の少年に馬乗りになりナイフを翳す男。考えるより先に体は動いていた。トランプ銃を取り出し、引き金を引いていた。
 体を起こした少年は、懐中電灯の乱反射の微かな光でも息を飲むほどの面貌。彼なら暴漢に狙われるのも無理からぬ話だと納得すると同時に、暴漢に激しい怒りを覚える。
 自分も犯罪者の端くれではあるが、他人に危害を加えるのはまた別の話である。しかし、暴力を憎む以上に、何かしら説明のできない怒りが湧いてくる。

 「彼」を傷つけようとした。

 理由はわからないが、この収まりようのない怒りはそこに起因しているような気がする。

 快斗は、改めての帰り道、つらつらと先ほど関わったできごとについて考える。

 なぜか、あの少年が頭から離れない。
 駆けつけた警察に囲まれ、説教されたり身の安全をしつこいほど確認されていた。見ているだけで、彼がどれほど大事にされているのか伝わった。
 彼の身のこなしや集中力から只者ではないと思っていたが警察関係者だったとは。

――――やっかいな奴に関わっちゃったかな……

 だが、思うほど困ってない。警察関係者など、幼馴染みの父君だけで十分なはずなのに、彼にもっと関わりたいと思う自分を快斗は認めていた。
 そして、なぜだかこれが最初で最後にならないことを確信している。これからも、きっと関わっていくと。

――――次逢うまでに、名前、調べてみっか

 だけど、出会いは仕組んだりしない。偶然に。
 きっとナニカが二人を引き合わせるから。



















BACK

--------------------------------------------------------

たまきさんのサイト [ AAA ] にて踏ませて頂いた2000hitのキリ番小説ですvv
いや〜もうごっつ萌えさせて頂きましたよ〜!!
JACK THE RIPPERに絡めたお話。
映画「ベイカーストリートの亡霊」でも切り裂きジャックを取り上げられていただけに、楽しませて頂きましたvv
前半にジャックについての記述があるのでちょっとグロいかも知れませんが、管理人は余裕です!笑
犯人の「見ぃつけた」の台詞に異常者っぷりが出ていて、臨場感も満点。うひゃーっ
新一さん大好きな私には、標的が新一さん、という時点で鬼萌えでした!
しかもすかさず助けてくれるのが快斗♪もうもう、待ってました〜!
更に、快斗は新一のことをまだ知らないご様子。
これからどんどん離れられない運命になっていくのかと思うと、続編とか希望しちゃいそうです(←図々しい/笑)

たまきさん、素敵なお話をどうも有り難う御座いました!
普段キリ番など滅多に取れないというのに、たまきさんのサイトで踏めたことに感謝、感謝ですvv