現在世間で一番人気のあるドラマと言えば? この問いに99%の確率で返されるであろうドラマは『DETECTIVE』(…)である。 ある高校生名探偵が小学生になってしまい、数々のトリックと難事件を解き明かしながら悪の犯罪組織と戦うというストーリー。結構なファンタジーだが老若男女問わず人気はズバ抜けて高い。 何故か? それは出演者が何と言っても超豪華だったからでる。 主人公江戸川コナンこと工藤新一。本当に警視庁より依頼を受け数々の難事件を解決している高校生名探偵であり、ドラマ設定そのままの超有名な両親から受け継いだ優秀な頭脳と類稀なる美貌を以て、第一回目の放送にしか出ていないにも関わらず、人気はコナンと同率でトップなのだ。 そして主人公コナンは新一の実の弟である。演技力抜群の彼は普段はとっても愛らしい少年で、兄の新一にこの上なく懐いている。二人の仲の良さがメイキングで知られ、ドラマでの絡みはなくとも人気を引き上げる要因となった。 そして最高の極めつけは。 ドラマ『DETECTIVE』が始まる以前、あらゆる記録を塗り替えたドラマがあった。今でこそ一番人気の『DETECTIVE』だが、世間への質問を「今までに放送されたドラマで一番人気のあるドラマは?」に変えると、これまた99.9%の確率で返されるドラマがある。 それは『Kid the Phantom thief』(笑)。 天才マジシャンの高校生が謎の世界的大怪盗になって、父親の仇の組織と戦ったり警察を翻弄しながら宝石を盗んだりする、マジックアクションドラマ(何じゃそりゃ)である。代役・合成・CGを一切使わない本格的なマジックとアクションが爆発的な人気を生んだ。 最高瞬間視聴率75%(そんな数字あるのか?)をマークしたという伝説は今尚人々の記憶に新しい。 その『Kid the Phantom thief』出演者の『DETECTIVE』出演が決定したのである。放送日は遥か先だというのに拍車のかかった人気は上昇しっ放しだ。特に『Kid the Phantom thief』で一番人気だった主人公黒羽快斗こと怪盗キッドがコナンのライバル的存在で登場するという、 とってもオイシイ設定なのである。既に人気は止まることを知らない。 総出演者が一般の素人であるにも拘らず、この二つのドラマは不動の地位にいた。 しかしそんな彼等とてまだ高校生だったり小学生だったり、ごく普通(?)の少年少女なのである。 これはドラマという舞台の裏に隠された彼等の日常を描いたストーリーなのだ。 ドラマでしか知られていない彼等の本当の素顔が今明かされるのである。 それを垣間見た時、果たして貴方はどう思うのだろう。 |
[ If you wish to see everything about this world ] 〜 邂逅スペシャル!! 出会っちゃったら運命である! 編 〜 |
T. それは一本の電話から始まった。 ある日曜日のことである。 学校の授業には消極的だがマジック技術の向上・開発には何よりも積極的な高校生天才マジシャン黒羽快斗は、長年日課として続けているマジックの基礎をやはり今日とてなぞっていた。 そんな黒羽家に鳴り響いた一本の電話。 「……………」 とりたくない。快斗は瞬間的にそう思った。 自分の中の何かが告げている。これは面倒を運ぶ電話だ。嫌な面倒か嬉しい面倒か知らないが、とにかくとてつもない面倒事であることに間違いはない。プロのマジシャンになるべく培ってきた鋭い感性が、その時確かに快斗へと伝えてきたのだ。 この電話は「始まり」である。 今までの生活すべてが崩れ、新しい生活の始まりを告げる合図だ。 それが良いことなのか悪いことなのか、さすがに計り知れないが。 快斗は僅かに眉を寄せた。 今の生活は何も知らなければ満足できるものだ。何もわざわざ良いものか悪いものかも判らないようなものに手を出して崩すこともないだろう。 確かにひょっとしたら今まで以上に素晴らしい生活が待っているかもしれない。その可能性はあることにはある。 しかしそんなもの、知ることさえなければ始めからないも同然。無い物強請りをする程快斗は愚かではない。 だからこの電話も無視してしまえばいいのだ。 そう、なのだが。 快斗は悩んだ。電話は鳴り続けている。既にコールは十五回を超えた。敵は中々しぶとい。 快斗は恐る恐る受話器へと手を伸ばした。まるでリングの貞子からの電話をとる主人公のような心境である。 「………もしもし」 『あー快斗君? お久し振りですー、阿部ですー』 「………阿部、さん?」 聞こえてきたのは『一週間後、うんたら』というおどろおどろしい声とはかけ離れた明るいものであったが、快斗は何となく似たような電話を受けた気分になった。 阿部は快斗が『Kid the Phantom thief』に出演していた時のマネージャーである。ドラマが終わってもう関わりのない人になった筈なのに、今更何の用だと思わず身構えてしまう。 快斗にとってあのドラマには余り良い思いではない。なんせ主役であったため忙しくて大変だった。台詞の暗記は何の苦にもならなかったが、所詮素人。演技指導やら打ち合わせやらマジックの準備やらで毎日がてんてこ舞いだったのだ。撮影終了時など終わったという感慨ではなく、これで開放されるという安堵しか快斗は感想を持ち得なかった。 「あ、あの………どうかしましたか?」 できれば聞きたくないと強く思いながら尋ねる。 『うん、あのねー。実は快斗君にキッドとして出演依頼したくてー』 「……………………は?」 耳を疑うとはまさにこのことだ。快斗はどこか遠くでそう思った。いまいち阿部の言葉に上手く反応できていないらしい。その言葉が意味することを理解するのに十秒はかかった。 キッドとして出演依頼。つまりは快斗にもう一度ドラマに出ろ。早い話がそういうことである。 「なっ、何で………っ!?」 「はい、大丈夫ですよ。勿論喜んで受けさせて貰います!」 「はっ!?」 見ればいつの間にか受話器は自分の手から奪われている。横を向けば幼馴染でありドラマ共演者である青子がにこやかに話している。しかも当事者の自分を押し退けて話を進めている。 「おい! 青………」 「じゃあ明日そちらへ伺えばいいんですね? 判りました。………いえいえ、全然そんなことないですよー。………はい、じゃあ失礼します」 「あ………」 ガチャンと電話は快斗の前で無常にも切られた。 快斗は思う。確か自分の出演うんたらの話をしていたのではなかっただろうか。それなのに何故自分が関わらないうちに話が進められてしまったのだろう。しかも自分が望まない出演決定という方向に確実に向かって。 そこまでぼんやりと考え、快斗はようやく我に返った。 「……………っ、何勝手に決めてんだよ、このアホ子!! 俺は絶対嫌………」 「あんたこそ何言ってんのよ、このバ快斗!! 絶対出るのよ、あの『DETECTIVE』に出演できるんだから!!」 「………『DETECTIVE』? 何だそれ?」 青子の言った聞きなれない単語に快斗は首を傾げる。 『DETECTIVE』。訳せば『探偵』である。探偵もののドラマに自分が出演。 あぁ、ナルホド。快斗は納得した。 「俺は敵役か」 思わず憮然としてしまう。仕方がないだろう、素人なのだから。どんな役でも素直に従う俳優でも何でもない。悪役だと思うといい気はしないものである。 しかしそんな快斗を青子はこれ以上ないというくらいに目を見開いて見つめていた。口をパクパクさせているが言葉はない。所謂絶句状態である。 「………どうしたアホ子」 「………あんた『DETECTIVE』知らないの!? 日本国民99%が知ってるあの超人気ドラマを!?」 信じられないと叫ぶ青子に快斗は怪訝な眼差しを向けた。 「何だよ。俺はドラマに興味なんかねぇんだよ。しかもアレだ。国民99%っつーことは日本人口プラスαで約1億3000万人、100人に1人知らねぇ確率だから単純計算して130万人は知らねぇ………」 「その馬鹿と何とかは紙一重な返答やめなさいよ」 そんなことを言われながら快斗は頭をはたかれ、続けようとしていた言葉を中断させられた。 見れば青子は半眼で快斗を嫌そうに見ている。 「バ快斗の頭の中が四六時中マジックのことしかないのは今更だもの、よく知ってるわよ。でもソレとコレとは話が別よ! あんたがいくらドラマに興味なかろうがマジック馬鹿だろうが、この仕事だけは絶対引き受けるのよ! あの人達と言葉を交わすチャンス、ううん、知り合いになるチャンスなんだから。こんな機会滅多にないわよー!!」 握り拳で熱演である。快斗は思わず顔を引き攣らせて身体を引いた。 「あ、あのなぁ。んな俳優と知り合ったところで近所付き合い始めるんじゃねんだから、そんなマジになんなくても………」 「俳優じゃないわよ、何言ってんのよ! あたし達と同じ素人がドラマに出てんのよ!」 「素人ぉ? だったら尚更知り合ってどーすんだよ。何の得にも………」 「馬鹿! もうこの馬鹿馬鹿馬鹿バ快斗! 工藤新一と知り合いなんて、そんじょそこらの芸能人と知り合いよかすっごいことに決まってんじゃない!!」 そこで再び快斗は怪訝な目を青子に向けた。また知らない単語である。更に今度は人名だ。 「クドウシンイチ?」 その快斗の反応を見て青子も再び目を瞠る。口をパクパクさせてやはり絶句状態だ。 「………あんた工藤新一まで知らないの!?」 「んだよ! ドラマ見てねぇし相手素人だろ、俺が知ってる訳ねぇだろが!!」 「ドラマ以前の問題よ! どんな難事件も鮮やかに解決する高校生名探偵じゃない! 今や『日本警察の救世主』とまで言われてる人じゃない!」 先程から叫びっ放しの青子である。よく声が嗄れないものだとどこかスレたことを頭の片隅で思いながら、快斗は青子の言葉の中の一つの単語にピクリと眉を動かした。 「………高校生探偵ぃ〜?」 語尾が右上上がりである。そこには嫌そうな響きが隠されもせず含まれている。 彼にはその単語に過剰に反応する理由があった。原因は彼のクラスメートにある。ドラマにも共演したそのクラスメートはやはり高校生探偵で、ドラマ内でも現実でも(快斗は認めていないが)ライバルなのだ。 白馬探。快斗に言わせれば嫌味ったらしい気障でいけ好かない高校生探偵である。 もとより快斗は容姿端麗、成績優秀、運動神経も抜群(スケートは除く)で、学校で彼を知らない者はいない程人気者でもあった。そんな快斗をプライドの高い白馬がライバル視しない訳がない。何かに付けて突っかかってくる白馬は、快斗にとっては鬱陶しいことこの上ないのだ。 更に快斗がドラマの主役に抜擢され(本人は決して1ミクロンも望んでいない)白馬のライバル視は拍車のかかる一方だった。例えIQ400というふざけた頭脳の前にまったく太刀打ちできていなくとも。 「けっ。白馬の同業者かよ。どーせアイツみたいに嫌味で気障であーだこーだって難癖つけてまわるのが趣味の、ちょっと頭がイイだけのガキなんだろーよ」 先入観とは実に厄介なものである。既に快斗の中で探偵という生き物はすべてそういうものだという固定観念ができあがっているようだ。ちなみに自分も同い年だというのにガキ扱いである。 「何言ってんのよ! 工藤君を白馬君なんかと一緒にしないでよね! 彼は全然違うんだから!」 「……………」 青子の言葉に快斗はほんの少しだけ白馬に同情した。自分もあそこまで言ってはいるが、普段誰にでも優しく人懐っこい青子にまで「なんか」扱いである。 「てか快斗! あんた新聞すら読んでないの!? あんなに難事件解決したって紙面に大きく取り立てられてるっていうのに!」 再び信じられないと叫ぶ青子に快斗は憮然とした眼差しを向ける。 「別にいーだろが。難事件なんかにゃこれっぽっちも興味ねぇんだよ。んなモン適当にニュースで概要知ってりゃ問題ねぇんだから」 新聞紙上で専ら快斗の興味がある欄は鳩の散歩に影響する天気予報だけである。 話を聞いて青子は呆れた。幼馴染は普通とはちょっと違うことなど疾うの昔に知ってはいたが、ここまで世間からズレているとなると問題である。頭を抱えても誰も文句を言うまい。その原因である快斗以外は。 「何だよ何だよ! 別にいーじゃねぇかよ! 大学受験に出る訳じゃあるまいし!」 「そんな問題じゃない! ドラマといい工藤君といい、知らないなんてあんた日本人じゃないわよ、似非国民よー!!」 「そこまで言うかテメェ!!」 青子は決めた。この機会に快斗を世間に追いつかせるのだ。ドラマ出演さえすれば快斗もこの人気ドラマを嫌でも知ることになるし、工藤新一のことも知るだろう。何より自分が彼等に会うことができる。最後の理由に最もベクトルが傾いていることは見ない振りだ。 そうと決まれば後はこの幼馴染を逃がさないことである。なまじ相手はズバ抜けた天才。本気で逃げられたなら青子は絶対に捕まえることはできないだろう。 「………快斗。あんた明日逃げるんじゃないわよ」 「けっ、知るか。俺が約束した訳じゃねぇし、そっちが勝手に決めたことだろが」 逃げる気だ。悟った青子は早々と最終兵器を持ち出すことにした。それが一番労力を要せず手っ取り早いと知っているからだ。伊達に長年幼馴染なんてモノをやっている訳ではない。 「………快斗。あんた逃げたらどうなるか判ってんでしょうね」 「………何だよ」 青子の言葉は既に疑問形ではない。嫌な予感がヒシヒシである。 「別に逃げたきゃ逃げてもいいわよ」 「………何だよ!」 快斗は青子が何を持ち出そうとしているか悟った。こちらも伊達に長年幼馴染をやっている訳ではないのだ。行動パターンは大体熟知している。後はどういった形式で『アレ』を自分の前に出してくるかが問題なのだ。下手をすれば自分はこの先生きていけない。 ゴクリ。生唾を飲み込む音が大きく聞こえる程の緊張感がその場を支配している。両者真剣な顔つきで、片や据わった目にニヤリとしたどこまでも意地が悪い悪代官のような笑みを浮かべ、片や据わった目に冷や汗どころか既に脂汗をダラダラと滝のように流している。 「………逃げたら」 「………たら?」 「あんたの視界に常に魚が入るようにしてやる」 「……………っ!!!!」 勝負あり、である。 「き、き、ききききききき汚ぇぞ青子ーっ!! んなモン持ち出すなんて卑怯だーーっ!!」 「ふん。『アレ』が弱点のあんたが悪いのよ」 たかが『アレ』の単語一つに大いに狼狽えまくりの快斗に青子は無慈悲な言葉を投げかけた。とにかくこれで青子の野望は約束されたのだ。未だにうえうえと泣き続けている快斗に、青子はにっこりと優しい、しかし快斗から見ればこの上なく悪魔な微笑を浮かべて見せる。 「じゃ、快斗。明日迎えに来るからね。逃げたきゃ逃げてもいいのよ」 微塵もそんなこと思ってもいない上快斗が逃げられないと判っていながらそんなことを言う青子を、快斗はこれ以上にない程恨めし気に睨み付ける。そんな視線すら受け流して青子は隣の自分の家へと帰って行った。 こうして黒羽快斗のドラマ『DETECTIVE』出演は、本人の意思をまるきり無視したところで決定したのだった。 後に快斗はこの話を持ってきた阿部と自分を追い込んだ青子にこの上なく感謝することとなる。 TOP * NEXT |
----------------------------------------------------------- ミコトさまのコメント▼ 第一話目です。……すみません、続き物になってしまいました……! 書いているうちに何だか収拾がつかなくなってしまって……; しかも快新なのにまだ快斗(と青子)しか出てきてないし。訳判らん話だし。 あーもう本当に申し訳ないです。すみません、クロキさん……。 続きはなるべく早くお届けできるように頑張ります。もう少しだけお待ち下さいませ; ミコト |
----------------------------------------------------------- ▼管理人のコメント ミコトさん、どうも有り難う御座います〜vvv もう、続きもの大歓迎ですよ!というか続き、すごく楽しみにしてます! すごく面白いです。 今まで読んだことのない新鮮な設定、そしてミコトさんの文章に魅了されましたvv 今回はまだ快斗と青子だけですが、新一との対面がどうなるのか、 コナンや白馬がどう絡んでいくのか、非情に楽しみにしております! 有り難う御座いました! |