最後のキスは タバコのflavorがした ニガくてせつない香り 明日の今頃には あなたはどこにいるんだろう |
-------------- First Love -------------- |
「結婚、するんだって?」 カラン、とグラスの中の氷が小さく音をたてた。 「あぁ」 ぐいっとグラスを仰いで、ただ、それだけを言った。 「そっ、か。オメデトウ」 「…ありがとう」 お互いの顔も見ずに、会話は進んでいく。 少しだけ距離をとって、一つのソファーに二人で座って。 たた、指先だけは固く結んだまま。 伝わる温度が、熱をもつ。 「それじゃ、逢うのは今夜で最後だね」 「…そうだな」 淡々と告げる快斗に、新一は結んだ指先に力を込める。 「しんいち?」 怪訝そうに呼ぶ快斗の声は、普段と変わらない。 これから、二人は別々の道を歩くのに。 まるでこれからもずっと一緒に歩いていくのだと、その声だけで錯覚しそうになる。 それが、ほんの少しだけ、せつない。 「どうしたの?」 「…なんでも、ない」 ふ、と快斗はタバコの煙りを吐いた。 いつの間にか、快斗はタバコを吸うようになった。 新一との別れを決意した日から。 まるで、誤魔化すように。 「新一」 快斗はタバコを灰皿に押し付けて、そっと新一の頬に手を伸ばした。 ピクリと反応する新一に、優しげに笑って。 「しあわせに、なるんだよ?新一」 新一は弾かれたように、快斗を見た。 その瞳に宿る想いに、泣きそうになる。 『しあわせにするよ、新一』 かつて、快斗が新一に言った言葉。 快斗と誓った、言葉。 快斗としあわせになるのだと。 何時までも快斗と同じだけの想いを抱えて、生きていくのだと。 誓った、はずだった。 だけど新一は、疑問に思ってしまった。 快斗との関係に。 …これで、いいのか、と。 彼が好きで、彼も自分が好きで。 お互いが、大切で。 それだけで、いいと思っていた。 だけど、新一は何か違うと感じていた。 何かが、ズレていた。 そのズレが何なのか分からなくて、ずっと悩んでいた。 そんな新一の思いを快斗は敏感に察していた。 笑っていても、一緒にいても、晴れない新一の表情。 快斗は、耐えられなかった。 新一が悩む姿を見たくなかった。 だから、快斗は新一から離れた。 恋人のようで、恋人じゃない、そんな曖昧な関係を続けていた。 それも、今夜で終わる。 新一は幼なじみの彼女と、結婚するのだ。 コツン、と快斗は新一と額を合わせて。 「新一が例え、誰かと一緒になっても。もう逢えなくなっても。俺はずぅっと、新一を想うよ」 「…−−−快斗」 「だから、新一はしあわせになって?そうしたら、俺だってしあわせになれるから」 儚く快斗は笑う。 「…愛してる、新一」 「…ッ!」 心が離れた訳じゃなかった。 ただ一緒にはいられなかった。 好きだと、愛しいと、心は叫び続けているのに。 二人の時間は、今夜で最後。 「しん、いち………」 そっと瞼を閉じた快斗に、新一は同じように瞼を閉じた。 微かに香るタバコの匂いが、最後の彼の匂いだった。 「…あれ?新一って、タバコ吸うの?」 蘭はソファーに座ってタバコを吸う新一に、首を傾げた。 明日は、いよいよ結婚式だ。 蘭は最後の打ち合わせの為、工藤邸を訪れていた。 新一は「あぁ、前からな」と苦笑しながら、灰皿に押し付けた。 |
明日の今頃には わたしはきっと泣いてる あなたを想っているんだろう |
END TOP |
--------------------------------------------------------------- ▼管理人のコメント 月鎖さんからご厚意で頂いてしまいました〜vv 宇多田ヒカルの歌「First Love」インスパイアの小説ですv この歌、静かで切なくて大好きです。 その雰囲気そのままのお話で、とっても切ない……でも好きv このハッピーエンドともアンハッピーエンドともとれる曖昧で絶妙な雰囲気、真似できません。感服! ちなみにこの後に快斗と青子ちゃんも結婚するそうです。 そしてお互いの子供同士が恋人に……という裏設定があるそうなのですが、その時の快斗と新一の会話とかもぜひ見てみたいですねー! やっぱり切なくて苦しくなっちゃうんでしょうけど、二人の愛は永遠だと信じています。 月鎖さん、素敵なお話をどうも有り難う御座いました!! |