キスをする。
 瞼や額、頬や鼻先、それから手の甲……
 忠誠を誓うため、親愛を示すため、様々なキスがあるだろう。

 ただひとつ、唇にするキスは。
 時に優しく、時に激しく、唇と唇を重ね合わせる時だけは……
 それは切ないほどの情愛と溢れんばかりの情熱を込めて、有りっ丈の心を相手に贈る方法となる。





「…まだ、好きになってはもらえない?」
「……まだ、だよ…」

 
---------------それは、98回目の、キス。










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‥ 101回目のキス ‥
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 いつからだったか、そんなことも忘れてしまうほど自然に、黒羽快斗という人間はいつも新一の隣にいた。
 話し上手で聞き上手、人懐こくて自由奔放。
 そのくせ人の感情にひどく敏感で、触れて欲しくないところはさらりと避けてくれる。
 新一にとっての黒羽快斗はそんな男だった。

 知り合った切っ掛けは至極単純。
 ある事件で犯人を追跡中に新一が接触事故を起こした相手、それが快斗だった。
 負傷した新一が、自分を乗せて犯人を追跡しろと言ったのが始まり。
 出逢いは何とも最悪な形だったが、いつの間にか快斗は誰より新一の近くにいる存在となっていたのだ。

 それがある出来事を皮切りに、ふたりの関係は急激な変化をすることになる。





「新一って彼女いたんだ?」

 いつものように家に来た快斗が読書に勤しむ新一を余所にテレビゲームをしている時、唐突に快斗がそう切り出した。
 その台詞に、新一は今日の出来事を快斗が知っているのだと悟ったのだった。

 今まで新一は結構な数の告白を受けているが、その全てを断わってきた。
 理由のひとつは、蘭がいたから。
 けれど彼女には今、空手部の先輩の恋人がいる。
 だからこそフリーとなった新一に告白をする子が大勢いるのだが、新一の心を動かせる人は誰ひとりとしていなかった。

 蘭が他の男を恋人にしてしまったのは、新一を待つことが出来なかったからだ。
 長い休学期間を経てようやく戻ってきたかと思ったのに、事件とあれば新一はすぐに駆けつけてしまう。
 恋人との約束よりも事件を優先してしまう新一。
 一度や二度、百歩譲って百度事件を優先してしまったとしても、その中でたった一度でも自分を優先してくれたなら、蘭は新一を選んでいたかも知れない。
 けれど新一は、百度事件が起これば百度とも事件に向かってしまうのだ。
 だから彼女は自分と新一のため、不満が口をついて出てしまう前に……新一を振った。

 それからの新一に、噂されるような人はいなかった。
 新一にとって蘭ほど自分を理解してくれる女性はいないのだ。
 その蘭ですら待てなかった自分を、他の誰が待てるというのだろうか。

「別にあの子はそんなじゃねーよ。」

 新一がこの日告白を受けたのは、なかなか美人でなかなか性格の良い、同じ学校の下級生。
 けれど彼女も新一の心を動かせるほどの人ではなかった。
 ただひとつ違ったのは、見かけに寄らず随分と積極的な子だったらしく、強引に新一にキスを仕掛けてきたのだ。
 彼女は新一の恋人というわけではなく、あれはただの事故のようなもので、だからこそ新一は気にすることなくそう言ったのだが。

「…彼女でもない子とキスするんだ?」

 珍しく少し非難めいた台詞が快斗の口からこぼれ、新一は目を瞬いた。
 いつもの快斗なら、もっと柔らかく当たり障りのない言い方を選んでいるはずだ。
 その、彼らしくない口調に興味を引かれた新一が本を閉じてしまったのが悪かったのか。
 会話をする体勢を整えた新一に合わせるように、快斗もコントローラーを手放した。

「キスっていうか…あれは事故みたいなもんだろ。」
「止めようと思えば止められたハズじゃん。新一、嫌がってるようには見えなかったけど?」
「女の子を突き飛ばすわけにもいかねーだろ…」

 快斗はなぜかしかめっ面で、子供のように唇を尖らせている。
 何が彼の機嫌をそんなに損ねたのだろうかと、見当外れなことを新一は考えていた。
 それが顔にも出ていたらしく、快斗がさらに苛々した口調で言う。

「つまり、好きでもない子とキスしても、新一は平気ってことだろ?」

 あからさまに皮肉を込められた言葉に、新一の眉間に少し皺が寄る。
 鋭い快斗はそれに気付いているだろうに、それでも止めようとはしなかった。

「告白されてたんだろ?断わろうって相手に、よくそんなコトさせるよな。」

 眉間の皺が更に深くなる。
 けれど快斗も止めれずに。

「そんなだから新一、蘭ちゃんにも振られたんじゃ
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「…ッザケんな!!」

 眉間の皺を深く刻みながらも黙っていた新一だったが、その言葉にはカッとなった。
 新一はまだ蘭のことを振り切れずにいるのだ。
 恋心は今や親愛に変わってはいるけれど、それでも振り切れずにいるのだ。
 それを指摘され、さすがに黙っては居られなくなった。

「お前に何が解る!?俺のことなんか何も知らねぇくせに、何でンなこと言われなきゃなんねーんだよ!」

 ふざけるな、と繰り返す新一に、快斗も負けじと言い返す。
 泣きそうな顔に見えたのは、気のせいか。

「そんなの…っ、そんなの、好きだからだよ!!」

 怒鳴り返してやろうと、ありとあらゆる罵詈雑言を思い浮かべていた新一は、思わず声を失った。
 開いた口が虚しく閉会を繰り返し、結局声には成らずに黙り込む。
 それから探るような視線を快斗へと向けた。
 快斗は勢いに任せて吐き出してしまった自分の失言に唇を噛み、けれど覚悟を決めたとばかりに新一を真っ直ぐに見つめ返して。

「だって、…仕方ないだろ!?好きになっちまったもんは!」
「…好きって、…俺を?」
「そうだよ!だから、彼女なら仕方ないかもって思うけどっ。彼女でもない子とお前がキスするなんて嫌なんだよ!!」

 半パニックに陥りつつある新一は、額に片手を押し当てると黙り込んでしまった。
 新一は別に同性愛に偏見を持っているわけではないが、それはあくまで自分とは関わりのない世界でのことである。
 それがいきなり友人だとばかり思ってた人から告白されれば、大抵の人なら新一同様軽い混乱状態に陥っても仕方ないだろう。

 黙り込んでしまった新一に居たたまれなくなった快斗は、そっと手を差し伸べる。
 快斗の手が新一の二の腕に触れたが、快斗を見つめる新一の瞳に拒絶の色は浮かばなかった。
 そのままそっと掴んで引き寄せる。

「ほんとは、ずっと好きだったんだよ…」

 吐息に混ぜた声はひどく切なく、そこにどれだけの思いが籠もっているのか、空気を伝ってそれは新一へと届いた。

「知らないくせになんて、言わないでよ…」
「…」
「お前に笑ってて欲しいから、しんどい思いさせたくないから、…ずっと隠してたんだぜ。」

 けれどもう、隠せない。
 知られてしまった気持ちを忘れさせることは出来ないし、溢れてしまった気持ちを抑えることも、きっともう出来ない。
 初めからうまくいかないことなど解りきっているけど。
 障害の多すぎるこの感情の行く末など、決まり切っているけど。
 それでも一緒にいたくて、快斗は有りっ丈の思いを籠めて新一を抱き締める。

 やがて、絶望を伝えるだろうと思っていた唇が、けれど思わぬことを呟いた。

「…なら、好きにさせてみろよ。」

 ごめん、とか。
 悪いけど、とか。
 おざなりな言葉で切り捨てられるのだろうとばかり思っていたのに、新一の口から出たのはそんな言葉で。
 不意に芽生えた微かな希望を必死で押し潰し、快斗は新一の言葉を待った。

「蘭に振られてから…“好き”って感情が解らなくなっちまった。今じゃ、ほんとに蘭を“好き”だったのかも解んねぇ。だから、俺に“好き”だと思わせてくれるような奴ならって、思ってた。でも皆違ったんだ。」

 今までは気のない返事で断わってばかりいた。
 けれど新一は全てに真剣に考えた上で返事をしてきた。
 自分に問いかけるのだ、この人ならばこの心を動かしてくれるだろうか、と。
 けれど答えはいつも決まって“違う”と返ってくる。

「でも……お前は今までの奴とは違うような気が、するんだ。…よくわかんねぇけど…」
「しんいち…」

 快斗は暫く茫然と新一を見つめていた。
 呆気なく振られて終わってしまうのだと思っていた想いが、もしかしたら叶うのかもしれない。
 儚い夢かも知れないけれど、それでも今まで必死に押し潰していた希望が顔を出して。

「…ほんと?俺は、…違う?」
「……たぶん。」
「たぶんでも良いや…」

 なんだか不意に泣きたくなって、けれど必死にそれを抑えた。
 変わりに泣き笑いのようなものを返す。
 そんな快斗に、でも、と新一は付け加えた。

「でも俺、お前の気持ちに応えられるかわかんねぇぞ。」
「それでも良いんだ、側にいたいだけだから。」

 新一の視線が彷徨う。
 快斗はふっと笑みを深くした。

 快斗は新一が思っている以上に新一のことをよく解っていた。
 優しい探偵が、快斗の気持ちを思って躊躇っているだろうことも、よく解っていた。
 もし新一が快斗の気持ちに応えられなかった時、不用意な言葉で期待させてしまい、余計に快斗を傷付けることになるかも知れない。
 新一の瞳を見るだけで、快斗にはそれがよく解った。
 だからこそ快斗はこの提案をしたのだった。

「だったら、俺に執行猶予を与えてよ。」

 執行猶予?と小首を傾げる新一に構わず快斗は続けた。

「キス100回。」
「はぁっ!?」
「俺はこの100回に有りっ丈の“好き”を込める。新一に好きになって貰えるように。で、100回目のキスの時。新一に好きになって貰えてなかったら……潔く、諦めるから。」

 そうして、キス100回という執行猶予が認められたのだった。





 軽く触れ合うようなキスの後、快斗は唇を離さぬままにそれを深いものへと転じた。
 気を付けなければ2回とカウントされてしまう。

「……99回目、だな?」

 けれど赤く濡れた唇は無慈悲な言葉を紡ぐ。
 そうして快斗は、いつの間にか習慣となってしまった言葉を返した。

「まだ好きになってはもらえない…?」
「まだだよ。」

 新一が返す言葉もまたお決まりとなってしまったもので、今日はそれに意地の悪い笑みまで付け加えられてしまった。
 自然、快斗の笑みが苦笑に変わる。
 新一はさっさと快斗の腕の中から逃れると、不意に窓の外を眺めながら呟いた。
 日は既に暮れており、空には星と月が輝いている。

「次が100回目だな…」
「うん。」

 あっさりと頷いた快斗に、新一は器用に片眉をくいと持ち上げた。

「なんだ、余裕だな?…それとも諦めの境地か?」
「違うよ。ただね……100回目は、特別なんだ。」

 新一の恋人になれるか、それとも潔く諦めるか。
 その分かれ道となるのだから当然特別なのだろうけれど、なんだかいつもの快斗ではないような気がして、新一はじっと快斗を見つめる。
 けれどそこからは何も見出すことが出来ず、そのうちに快斗が帰ると言いだした。

「じゃあね、また明日。……明日の約束、覚えてる?」
「ああ、オールナイトの映画に付き合えってヤツだろ。」
「覚えてるなら良いんだ。それじゃおやすみーv」

 言うなりこめかみにひとつ口付けて、快斗は笑いながら工藤邸を後にした。
 快斗の姿が見えなくなった頃、新一が小さく呟く。

「ちくしょ…。今のもカウントしちまうぞ、あのバカ…。」

 黒羽快斗は謎の多い男だ。
 長く付き合えば付き合うほどに、その事実はどんどん浮き彫りになっていく。
 新一を好きだと言った快斗。
 キスを100回贈る間に好きになってもらえなければ、潔くその心を捨てると言った快斗。
 けれど……一度としてその謎を新一に明かそうとはしなかった。

 好きだと言うくせに。

「あと一回…あと一回で、執行猶予は終わりなんだからな…」

 誰にも届くことなく消えた声にはどこか寂しさが滲んでいて、うっすらと紅い目元とは対照的に、瞳には哀しい蒼が揺れていた。









* * *

 ざわつく会場の入り口付近にもたれ掛かりながら、なかなか姿を現わさない快斗に新一は落ち着けずにいた。
 今夜、この映画のナイトショーを見ようと言いだしたのは快斗だ。
 昨日の別れ際に約束を確認して来たのも快斗なのだから忘れているということはないだろう。
 待ち合わせは映画が始まる30分前。
 すでに約束の時間から15分以上経っているから、もう10分もすれば映画が始まってしまう。
 それなのに来ないということは、急用が出来たのか、それとも……

 良くない方向に思考が傾きかけた時、まるで新一を安心させるように携帯の着信音が鳴った。
 すぐに取り出せばそこには“快斗”と表示されていて、新一は安堵の溜息を吐く。

「てめぇ、自分から約束しといてどういう了見だ。」

 開口一番悪態を付いてみれば、案の定焦った声が返ってくる。
 その声は弾んでいて、快斗が走っているのはすぐに解った。

『ごめん!もうすぐ着くからさ!それよりお願いがあるんだけどっ』
「なに?座席なら指定席だぜ?」
『違う違う、そんなことじゃなくて。』

 それ以外の頼みとはなんだろうと新一は小首を傾げたが。

『今からさ、ちょっと屋上まで来れるかな?直ぐ上だし大丈夫だと思うんだけど…』
「はあ?何言ってんだ、映画始まっちまうじゃねぇか。」
『お願いしますって!』
「まぁ…構わねぇけど。」

 しぶしぶと言った感じで了承した新一に快斗は嬉しそうに有り難うと応えて、すぐさま電話は切れてしまった。
 新一は、せっかく買ったふたり分のチケットがもしかしたら無駄になってしまうかもしれないと溜息を吐く。
 けれどそれをポケットの中に突っ込むと、非常階段を使って屋上に上がった。





 会場は最上階にあるため、屋上へは一階分上がるだけで良かった。
 従業員以外立ち入り禁止と書いてある紙に悪いと思いながらも扉を開ける。
 途端にびゅう、と頬を掠めた風に、今夜は風が強いのかなどと取り留めもないことを思った。
 自らを“晴れ男”と豪語する快斗の言葉通り、今夜も文句のない快晴だ。
 昨夜より気持ち程度太さを増した月と、周りに散りばめられた星々。

 意味もなく夜空を仰いでいた新一の視線の先を、ふと白い何かが掠めた。
 点にも満たない微かなそれを目に留めたのは、或いは偶然ではなく必然かも知れない。
 新一は目を凝らしてその点を見つめていた。
 すると点は風に舞う紙切れとなり、紙切れが白い鳥となり、白い鳥がやがて世間を賑わせる魔術師となって。

「怪盗キッド!?」

 いつかの邂逅の時のように、夜の静寂を崩さぬよう、音もなくふわりと降り立つ。
 風にマントが翻り、白い衣装が眩しいほどに月光を弾く。
 不意に目が眩むような錯覚に陥り、新一は瞳を眇めた。
 月を背にした怪盗の表情は解らない。
 ただ、いつものように冷涼な気配はそこにはなかった。
 あるのは、突き刺さるほどの苛烈な視線だけ。

 その、普段の怪盗とは思えぬ様子に戸惑う新一が何かを言おうとして。
 けれど何を言う前に、新一の口は塞がれたのだった。

 新一の唇へと重ねられたのは、他でもない怪盗のそれ。

「…キッ…っ」

 はね除けようともがく体を力でねじ伏せ、開いた口に無理矢理侵入する。
 逃げる舌を熱い口内へと導かれ、湿った音を響かせながら口内を蹂躙されて。
 唇から頭、頭から腰、腰から足へと走り抜ける、何か。
 頭の奧に霞が掛かり、新一の力はどんどんと抜けていき……終いには自分の体ですら支えられなくなっていた。

 幾度となく交わした中で最も熱く、最も激しく、最も強い想いの籠もった、キス。

 数分間はしていたんじゃないかと思うほどに長いキスのあと、キッドの唇が名残惜しげに離れていく。
 力無く寄りかかる新一の体を力一杯抱き締めて、そっと耳元で呟いたのは。

「私の秘密を貴方に捧げます。」

 熱い腕から解放される。
 その腕がそのままシルクハットにかかる。
 掴んだ手が微かに震えていることを、新一は意識の端で捉えていた。
 シルクハットが外され、放り投げられたそれがくるくると転がる。
 すると、すぐに収まりの悪い癖毛が見えた。
 新一より些か色素の薄い茶色の髪は見慣れたもので。

 それだけで彼が誰かなんて明確だというのに、その手はすぐにモノクルへとかけられた。
 新一とキッドを隔てる唯一の壁となった片眼鏡。
 それがゆっくりと取り外されると、見慣れた、どこか自分に似た少年の顔が顕わになる。
 新一は、黒羽快斗が怪盗キッドであると、それを告げるために呼び出されたのだと悟った。

 快斗を凝視したまま沈黙してしまった新一に、居たたまれなくなった快斗が呟く。

「…100回目は、特別だって言っただろ。」

 その台詞に、昨日の言葉が意味していたことを理解した。
 快斗は初めから100回目にこうするつもりだったのだ。
 黒羽快斗という謎の多い男の明かされなかった部分を明かすつもりだったのだ。

 新一は額に片手を押し当てると俯いてしまった。
 快斗の瞳が哀しげに揺れるが、新一はそれに気付くことはなく。
 最後の希望を込めて、快斗が言った。

「こんな俺だけど。世間一般に言う幸せには、…なれないかも知れないけど。……好きになっては、もらえない…?」

 俯いてしまった新一には、快斗の今にも泣き出しそうな顔を見ることは出来なかったけれど。
 快斗もまた、俯いた新一の瞳に涙が滲んでいることを知らなかった。
 そうしてその口元が笑んでいることも。

 いつまでたっても顔を上げない、何も言ってはくれない新一に、やはり駄目なのかと快斗の胸に絶望が広がりかけた頃、漸く新一は顔を上げた。
 滲んでいた涙は拭ってしまったが、ほんの少し充血した瞳を見れば解る。
 なぜ新一が俯いてしまったのかなどということは。

「俺、決めてたんだ。」

 揺らぐことのない瞳は真っ直ぐに快斗を射る。

「ほんとはとっくに気付いてたけど、これだけはって、決めてたんだ。」
「……決めてたって、何を?」

「100回目までにお前が秘密を話してくれなかったら、応えてやらないって、決めてた。」

 新一が意地の悪い笑みを浮かべる。
 けれど被り切れていない探偵の仮面の端から、泣き出しそうな瞳が覗いていた。
 自分のことでいっぱいだった快斗は気付けなかったけれど、新一もまたギリギリの状態だったのだ。

「お前の正体なんてとっくに知ってンだよ。」

 俺を誰だと思ってる?

 世間に名探偵と呼ばれる頭脳は伊達ではない。
 その新一とほとんどの時間を共有していながら、快斗に隠しきれるはずもなかったのだ。

 新一は、快斗に対する自分の気持ちにそう時間をかけることなく気付いた。
 けれどすぐにそう告げることを躊躇ったのは、快斗に秘密があるからだった。
 長く付き合って、黒羽快斗という人間を新一はよく理解している。
 快斗とキッドを結びつければ、そこにただの犯罪ではない何かがあることなど明白だ。
 犯罪者だから、敵対する者だから、新一は躊躇ったわけではない。
 快斗の自分に対する気持ちを疑うわけでもない。
 ただ、秘密を明かすことも出来ない自分と一緒にいて、幸福になれるはずもないから。

「お前が言ってくれなきゃ、たとえ自分が苦しくても離れるつもりだったんだぜ。」
「……遅くなって、ごめん…」
「でも最後の最後で、お前は自分から明かしてくれたから。」

 泣きそうな快斗の顔を見て新一がクスリと笑う。
 新一も似たようなものだったけれど、涙は流さなかった。

(これから幸せになろうってのに、初っ端から泣いてられっかよ。)

 だって。
 自分たちは、ここからが始まりなのだ。
 下らない言い合いから始まって、駆け引きのような恋をして。
 そうしてここからは、一番大事な人との“愛”ってヤツで。

「話してくれたご褒美に、今度は俺がキスを100回してやるよ。」
「…100回、だけなの?」
「ばーろ。その後は…どっちからだって構わねーだろ?」
「うん、そうだね…」



 でも、とりあえず。

 今は君から、101回目のキスをして
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---------------- アトガキ --------------
50000 hit 有り難う御座いますーvv
サイト立ち上げ当初はこんな数字になるとは思いもしませんでした。
そのびっくりと歓びをくれた方々に感謝の気持ちを込めまくって、駄作ではありますがフリー小説を書かせて頂きました。
お気に召せば幸いです(><)

タイトル「101回目のキス」は、「101回目のプロポーズ」から。
タイトルだけすごく頭の中に残ってたので、このタイトルで何か書きたいなぁ、と思ってこうなりました。
にしても…とんだ駄作ですみません;;
文章力がないもので解りにくいと思いますが、最後の台詞は新一のもので、
結局101回目のキスは快斗から新一へ、ということであります。
これからはあまあまらぶらぶな生活でしょうか?
まあ後は勝手に幸せにやってくれ、ということで(笑)
改めて、日頃遊びに来て下さっている方々、有り難う御座いましたvv