それは、とても晴れた夜のことだった。 空には星たちが煌めき、もう少しで満月を迎えるだろう月もふんわりと優しい光を注いでいる。 これで寒ささえなければ、ついつい外へ出て月見酒でもしたくなるような、そんな夜。 その雰囲気をまず最初にぶち壊したのは、東の探偵こと名探偵、工藤新一だった。 「やぁ〜〜めぇ〜〜ろぉ〜〜っ」 地を這うようなうすら寒い声を吐きながら、目前に迫る色黒男の顔をぐいぐいと手で押しのける。 が、それにもめげない色黒男、西の探偵こと服部平次は、負けじと顔を近づけようと頑張っていた。 「キスぐらいえぇやんか!」 「良いことあるか!このボケ!」 「くぉのぉお〜っっ」 情けない懇願の声と、容赦ない罵倒。 そんな遣り取りを、もう幾度となく繰り返している。 ……とても晴れた夜のことだった。 |
Love or Loveless ? |
服部平次の様子をおかしいと殊に感じるようになったのは、つい最近のことだった。 もともとおかしな思考回路を持つ彼のことは常々理解不能だと思っている新一だが、最近ではそれに輪を掛けてひどくなっている。 件の服部平次曰く、「好きやから付き合ってくれ」らしい。 自分の何を以て好きというのか。 そもそも同性である自分に持つべき感情だろうか。 大体にして幼馴染みの彼女はどうしたのか。 色々な疑問が浮かぶが、言うまでもなく新一の返事は「イヤダ」であった。 それでもめげない(諦めが悪いとも言う)服部は、それ以来しょっちゅう東京に来ては工藤邸に襲撃している。 終いには隣家の雷が落ちやしないかとハラハラする新一を余所に、相も変わらず服部はしつこく言い寄っていた。 「つーかテメー、目的忘れてるだろ!?」 ここがどこだか判ってんのか!? 迫り来る色黒男の腹を右足で押しのけようとする新一。 両手は顔を押し戻すのに使用中なため、がっしりと肩に置かれた手は放置するしかない。 その一種異様な光景は、冬の寒い真夜中、そびえ立つ摩天楼の一角で繰り広げられていた。 新一の言う目的とは、今夜このあたりを旋回するだろう白い鳥を捕獲することである。 予告通りに無事宝石を盗み出せば、逃走経路にこの辺りを通るだろうと予想をつけた。 そしてそれがたまたま服部の上京と日付がかぶったため、連れて行けとうるさい服部を新一が仕方なく連れて来たのだ。 もちろん警部に連絡など取っていないが、事件には変わりない。 探偵であるならば真っ先に優先すべきことのはず…… なのだが。 「そんなん、俺の目的は始めっからキッドなんかとちゃう!」 「はぁ?」 「工藤と出掛けるんが目的や!」 新一のこめかみにピキッと青筋が立つ。 気の毒なことに、服部はそれに気付かなかった。 「工藤とふたりっきりになろ思て連れ出したんやんか!」 必死に口説こう(?)とする服部は、更に二筋ばかり新一の血管が浮き出したのことも気付かなかった。 何か意味不明なことをツラツラとまくし立てる服部に、とうとう新一の苛立ちが限界点を迎え、その黄金の右足を見舞ってやろうとした瞬間―――――― 服部がいきなり白目を剥いた。 その気味の悪さに咄嗟に新一が手を引っ込めると、支えのなくなった彼の体は重力に従って地面に沈み込む。 新一はそれを避けるようにして背後の壁に体をびたりと貼り付けた。 「…な…なに…っ」 「なに面白いことやってんのさ、名探偵。」 と、服部の影からひょっこりと姿を現したのは、捕獲する予定の怪盗だった。 よっ。とでも言わんばかりの気軽さで片手を持ち上げた彼は、白目を剥いて伸びている服部を靴の先でちょんちょんと突いてみたりしている。 新一は突然のキッドの登場に驚くどころか、思わず礼を言っていた。 「サンキュー、キッド!まじ助かったぜ!」 「ん?そう?」 「あーもー、何考えてんだ、コイツは…」 次いで盛大な溜息を吐く新一。 肺の中の空気を全て吐き出してしまうんじゃないかというそれに、キッドは苦笑を浮かべる。 「なに、西のに言い寄られてんの?」 「……見りゃ判ンだろ。何を間違ったんだか、俺のこと好きだとかほざいてんだよ。」 「ふーん。」 名探偵ってばモテモテだねー、なんて呟いているキッドを新一はぎろりと睨み付けた。 こんな男にモテたところで全然ちっともほんの欠片でさえ嬉しくない。 大体にして男に惚れられること自体何かが間違ってる。 新一のその無言の怒りに、けれどキッドはひょいと肩を竦めてみせただけで、掴み所のないこの怪盗にはさすがの名探偵も敵わないようだった。 「ところで、なんでコイツがココに居るのさ?」 のびたまま一向に起きない服部を指さしながらキッドが問う。 首に刺さった針をおそらく怪盗の使っている麻酔だろうと判断した新一は、放置を決め込んでいた。 「連れて行けっつーから連れて来た。」 「ふーん。まあ良いけどさ。珍しい奴がいるから何かと思えば、痴話げんかだもんなぁ。」 「バーロッ、そんな鳥肌立つよーな言い方、冗談でもすんじゃねぇっ」 新一は思いっ切りしかめっ面をすると、体を抱き締めるようにして自分の両腕をさする。 そこまで言われる服部君も気の毒だなぁと言うキッドは、けれど少しも同情などしていなかった。 新一との貴重な時間を削られるのはたまったものではない。 キッドと新一は、犯行後によくこうしてふたりで逢ってはとりとめもない会話をして帰る、ということを繰り返している。 いつからとも言えないほど自然に、二人の天才は互いを“特別な存在”と認めていた。 そうしてキッドをただの犯罪者だと括れなくなった新一は、普段は決して事情聴取にも付き合わないと言うのに、こうして彼の話には付き合うようになっていった。 けれどそれは犯行のあった夜のことだけなので、そこに現われた邪魔者である西の探偵をキッドは問答無用で昏倒させてしまったのだが…… 「西のに言い寄られてるとはねぇ。名探偵も罪だね、ホント。」 「知るかっ。俺は全くその気ねぇ。」 「こういう奴は案外しつこいかもよ?振っても振っても諦めなかったりして。」 「……」 不意に黙り込んでしまった新一に、キッドがまさかと問いかける。 「………諦めないわけ?」 「…………………ああ。」 有らぬ方向を見つめながらぽつりと返した新一に、そりゃあ溜息も吐きたくなるだろうとキッドも乾いた笑いを浮かべた。 振っても諦めない奴ほど始末に困る人間はいない。 思わず頭を抱えそうになった新一に、けれどキッドが「そうだ!」と言いながらポンと手を打った。 なんとも古くさい表現だが、まあレトロな怪盗なのでそれも有りなのかも知れない。 「じゃあさ、恋人がいれば良いわけだ。」 「…居れば、な。残念ながら居ねぇよ。」 「いやいや。何もホンモノの、とは言いませんよ、名探偵。とにかく服部君を納得させられれば良いのですから。」 急に紳士の口調に戻ったキッドを胡散臭そうに見つめる新一。 けれどキッドはニッ、と口端を持ち上げると。 「ここに変装の名人がいマス。」 「!」 「服部君が負けたー!と思うような恋人、演ってやろうか?」 悪戯な子供のように楽しげな表情。 対する新一はというと、あまりにもオイシスギル話に思わず目が輝いていた。 「良いのか!?」 「面白そうだし、構わねーよ?」 「やった!さんきゅっ!」 変装の名人というなら、この怪盗をおいて他にはいないだろう。 二人は早速、伸びた服部を放ったらかして、彼を騙すための算段を始めた。 これで解決できる♪と喜ぶ新一。 楽しくなりそうな週末に、キッドもまたこっそり微笑むのだった。 * * * 「で?その恋人とやらは、どこにおんねんな。」 杯戸に建つどでかいショッピングモールに、不機嫌と言う文字を顔に張り付けた服部と、その原因を作った新一の姿はあった。 地下一階に立ち並ぶ飲食店。 時刻はちょうどお昼時の12時で、親子連れや恋人同士が行き交う中、その店々の中央にぽっかりと設けられた広場のベンチに腰掛ける彼らはある意味目立っていた。 ハッとするほど鮮烈な存在感を持つ新一は否が応にも人目を惹くし、まるでどす黒いオーラでも発しているのではないかという服部は別の意味で人目を惹く。 今、服部の機嫌が最高に悪いのは、言うまでもなく“新一の恋人”の所為である。 いつの間にそんな人ができたのか、そもそも自分というものが有りながらなぜ他に恋人がいるのか。 服部はその話をにわかには信じられず、今でもいつかは新一が振り向いてくれると信じていた。 「なぁ。もう12時3分やで。遅刻するやなんて、そんな奴やめた方がええんちゃうん?」 「お前だって遅刻魔じゃねぇか。」 「…工藤、どんな奴かも言うてへんやん。ほんまに恋人なんておるん?」 「うるせぇな、黙って待てねぇのかよっ」 ぎろりと新一に睨まれ、服部は少しばかり体を縮ませると仏頂面で押し黙る。 新一を怒らせればもれなく超高校級の蹴りを頂いてしまうので、それだけは避けたかった。 なにせアレは喰らった人なら知っているだろうが、信じられないほど痛いのだ(←体験済み)。 まあ、これからここに現われようという怪盗には軽くかわされてしまいそうだが。 それにしても。 (……遅い。) と、さすがの新一も感じていた。 まだたかだか5分の遅刻だが、これから騙そうという服部に疑われてしまっては元も子もない。 よもやキッドがすっぽかす訳はないと思う新一だが、あの、時間に正確な怪盗が5分も遅刻する理由は何だろうかと心配になってしまう始末だ。 それがストレートに表情に出ていたのか、それとも野生のカンか。 心配げな新一の顔に服部の不機嫌は更に降下していくのだが―――――― 「ごめんっ、お待たせ!」 聞こえた声に、服部はピシリと固まった。 見事に石化したた服部は気付かなかったが、隣ではちゃっかり新一も固まってたりする。 「ごめんな、新一。途中で俺のファンだって子に掴まっちまってさ〜。」 俺。 そう、俺。 当然、それっぽく見える女の子に変装してくるだろうと思った怪盗は、けれどなぜか男のナリをして出てきたのだった。 それもどことなく新一と似ているのはどういう理由だろうか。 とにかく、突然現われた“恋人”は、親しげに新一の体をぎゅうっと抱き締めた。 そうしてこっそりと耳打ちする。 「マジで遅刻してごめんなさい。」 「バーロ!なんでオメー、男なんだよ!?」 「いや〜色々考えたんだけどさ〜。西の探偵君はきっと、そんじょそこらのオンナノコ相手じゃ諦めてくれなさそうだな〜って。」 「だからって、これじゃ俺の恋人は男ってことになっちまったじゃねーかっ」 「いやいや、ただの男じゃありませんよ?新進気鋭の若手マジシャン、黒羽快斗と申します。」 キッドは人差し指を口の前に持ってくると、パチリと片目を瞑ってみせた。 怪訝そうに瞳を眇めていた新一はその台詞に目を見開く。 「おま…っ、まさか、それが素顔ってわけじゃ…!?」 「当ったりー♪」 気障な仕草から一転して、にぱっと子供じみた笑顔になったキッド。…もとい、快斗。 いきなり何の前触れもなく“怪盗キッドの秘密”を手に入れてしまった新一は、開いた口が塞がらないという状態だった。 「宜しくな、名探偵。」 そう耳元で囁いたのを最後に、快斗は抱き締めていた新一の体を離す。 そうして未だに固まっている服部に向かって手を差しだした。 「初めまして。俺、黒羽快斗。そっちは探偵の服部クンだろ?」 「…せ…せや!…工藤とおんなし探偵やっ」 漸く石から人間へと戻った服部は、そのまま快斗に噛みつくように答えた。 新一と同じ探偵。 暗に、自分にはお前にはない新一との繋がりがあるのだと強調しているのだろう。 大体にして、新一との約束に遅刻してくるなど図々しいにも程がある、と服部は憤慨していた。 「俺も工藤も、時間にルーズな奴は好かんのや。」 「ああ、ごめんね。でも俺としては大事なファンを蔑ろにはしたくなくてさ。」 「あんたのファン?」 「そう。俺、これでもマジシャンでさ。」 「はっ、マジシャンやて?また胡散臭いやっちゃな…」 服部や新一とそう年の変わらない快斗は、どう見てもまだ駆け出しの新人マジシャンにしか見えない。 まだ大した技術も持ってないヒヨッコだろうと思った服部だったが…… 「服部。…快斗はその筋ではかなり有名なマジシャンだぜ。」 「へ?」 「黒羽盗一の息子ってだけでなく、コイツの実力は既に世界クラスだ。」 漸く諦めのついたらしい新一が快斗に助け船を出した。 黒羽快斗としてのマジックの腕前は知らないが、怪盗キッドとしてのマジックの腕前は確かに世界クラスと言っても良いだろう。 服部はというと、“黒羽盗一”というあまりに有名な名前に目を瞠っていた。 世界的に名の知れたマジシャン・黒羽盗一を知らない者はまずいない。 その息子である快斗が一部の有権者に知れていても不思議ではなかった。 半分ヤケクソ状態の新一は、まるで見せつけるように優しく快斗の手を取る。 そうして不適な笑みを浮かべながら、すっと口元へ持ち上げ口付けた。 「でも、俺が惚れたのはコイツが有名マジシャンだからって訳じゃねぇぜ? 人を歓ばせるのってすごく大変なのに、コイツはいつも楽しそうに魔法を魅せるんだ。」 ……そこにどれほどの苦しみがあるのかなんて、計り知れないけれど。 それらを全てポーカーフェイスでくるりと覆った怪盗は、警察を相手にいつもひとりきりのショーをするのだ。 いつだって不適な笑みを崩さずに、そうして捕まえなければならないはずの警察ですら感嘆させてしまう。 あんな魔法は、本当にマジックを好きでなければ、マジックに魅せられる人が好きでなければ、きっと真似できない。 心底からの笑顔を浮かばせるということはひどく難しい。 それを、あんな風に楽しそうに笑顔を咲かせていく彼は純粋に凄いと思う。 それに。 「…たまに心配になっちまうぐらいお人好しでさ。」 天敵であるはずの探偵の、こんな面倒事に手を貸してくれて。 あまつさえ正体までバラしてしまうなんて、どこまで人が好いのだろうか。 「ずっと側で見ててやんねーと、俺が心配なんだよ。」 …それは、嘘の中にあるほんの少しの真実。 だから。 「先入観だけで人を判断するような奴、俺は絶対好きにならない。」 服部の顔が苦しげに歪むが、新一は今の言葉を覆すつもりはなかった。 フォローしてやる気も毛頭無い。 真実、マジシャンというだけで胡散臭いと言った服部が赦せなかった。 たとえそれが快斗に対する嫉妬からくるものだとしても。 快斗は確かに犯罪者だけれど、自分のマジックには、それを人に魅せる瞬間には、れっきとしたひとりのマジシャンとしての誇りを持っている。 その誇りを問答無用で手折るような発言はどうしても赦せなかった。 「快斗、行こう。」 「あ、ああ…」 新一は快斗の手を握ったまま、服部をその場に残してさっさと歩き出す。 いつもならベッタリとついてくるはずの彼も、新一の怒りを感じたからだろうか、さすがに追いかけようとしなかった。 「名探偵。」 「…」 「おいってば。」 「…」 「めーたんてーっ」 「…」 「…新一!」 握られていた手をぐいと引っ張り、一向に歩を緩めない新一を無理矢理に引き戻す。 「なに怒ってんだよ。」 引き戻され、振り返った新一は無遠慮に快斗を睨み付けてくる。 どうして新一がこんなに怒っているのか判らない快斗は首を傾げるしかない。 けれど、新一の怒りの矛先が今度は快斗へと向かったのだった。 「…お前が怒らないからだろ?」 「え?」 「え、じゃねーよ。なんであんなこと言われて怒らないんだよっ」 悔しくないのか。 キッドの、快斗の大好きなマジックを馬鹿にされて。 どうして怒らずにいられるのか。 「俺、すっげー腹立ったんだけどっ。お前のマジック馬鹿にされてるみたいで、すっげー腹立ったっ。」 「名探偵…」 「だって、お前のマジックは正直、…凄いから。見てて判るんだ。こいつはマジックがほんとに好きなんだって。大事にしてるって。 それを服部の奴、知りもしないクセに馬鹿にしやがって。 なのにどうしてお前は怒んねぇんだよっ」 見てるだけで判るぐらい、大事にしてるクセにっ 責めるように言い募る新一。 だと言うのに、快斗はなんとも気の抜けた笑みを浮かべていた。 そこがまた新一の怒りを助長させるのだが、気付いているのかいないのか、快斗はへらっと笑ったままこんなことを言うのだ。 「…名探偵にそう言ってもらえるだけで良いよ。」 「何が良いってんだっ」 「だってさ。嬉しいんだもん。」 俺のマジックに魅入ってくれただけじゃなく、俺の、マジシャンとしての気持ちにまで気付いてくれるなんて。 「それに名探偵、俺のこと知ってたんでしょ?」 「……黒羽快斗なら、知ってた。」 「うん。それに親父のこともね。なんか…それだけで嬉しかった。」 快斗がコツン、と新一の肩に頭を預ける。 普段なら容赦なく蹴り倒しているところだが、相手がキッドだということと今の状況から、新一が快斗を蹴倒すことはなかった。 キッドと黒羽快斗が結びつけば自然とわかることがある。 今のキッドが2代目であること。 初代怪盗キッドが黒羽盗一であること。 そして、彼ほどの男がショーの最中に不慮の事故を起こしていることから、おそらくそこに何らかの他者の思惑があっただろうこと。 そうしてそれによって導かれる、2代目怪盗キッドの存在理由。 「…なぁ。」 「うん。」 「復讐なんてやめろよ。」 「…」 「哀しみしか残らなねぇんだ。それでお前が得るものは何もない。」 「…うん。判ってるよ。」 かなわないなぁ、と快斗が呟く。 たったひとつ、正体をバラしただけなのに。 まるで今までのこともこれからのことも、全て見透かされているようだ。 「でも俺には、もうひとつステージが残ってるから。まだ衣装は脱げない。」 「…そっか。」 「うん。…でも…」 ありがとう。 ぽつりと呟かれた言葉に、新一は困ったような顔をするだけだった。 「あのさ。」 あれから、遅くなった昼食を取るために場所を近くのパスタ専門店へと移したふたり。 注文された和風きのこスパゲティの特盛りをぺろりと平らげた快斗が、まだカルボナーラと苦戦中の新一に言った。 「服部クンは俺が追っ払ってやるからさ。」 「ああ。」 「俺が、好きになっても良い?」 「――――――へ?」 新一のなんともマヌケな声が響く。 彼のその反応は予想済みだったのか、快斗は余裕の笑みを浮かべながら言った。 「俺も、無鉄砲でお人好しな探偵君をずっと側で見てないと心配なんだよね。」 犯罪者である怪盗を相手に、こんなに甘やかしてくれちゃったりして。 まさか全ての犯罪者に対してもこうだとは思わないが、その優しさを利用されないかとついつい心配になってしまう。 無鉄砲な名探偵殿は、事件とあれば、まさに火の中水の中だろうと飛んでいってしまいそうだ。 そんな彼をずっと側で見ていたいと思う。 「幸い、俺たちって恋人同士みたいだし。」 だから。名探偵のこと、オトしても良い? 怪盗の不適な笑みで、探偵を誘惑して。 好きになるか、ならないか。 怪盗に有利なゲームを、しよう。 「本気を出した俺は手強いぜ――――――新一。」 |