怪盗の贈り物 |
時計の針が昼の11時を指し示す頃、新一は漸くベッドから起き出した。 只今黄金週間、連休の真っ最中。 常なら補習だ事件だと慌ただしい生活をしている名探偵も、この時ばかりは休日を堪能している。 …というのは名ばかりで。 ここ数日、工藤邸の電話も携帯も鳴りっぱなしであった。 終いには面倒になって電話のコードを抜いてしまった新一である。 幾分寝ぼけた頭でもそもそとベッドから這い出ると、いつもの習慣で携帯の着信を調べる。 警視庁からの呼び出しが、万が一入っていたりしては大変だ。 さすがにマナーモードにしてしまったが、電源を切るわけにはいかなかった。 けれど、着信履歴を見て新一は嫌そうに盛大な溜息をつくのだった。 20件全てが見事に、西の探偵と倫敦帰りの探偵、幼馴染みとその親友で塗り潰されていたのである。 たった4人が代わる代わるかけてきていたという事実。 「ったく、なんだってんだよ…。」 新一の口からは心底嫌そうな文句が零れる。 と、そこへ見計らったかのように電話が掛かってきた。 表示された名前は服部平次。 このまま切ってやろうか、という魅力的な案に心を揺さぶられながらも、新一は仕方なく電話に出る。 いつまでも放っておくと、下手したら一日中コール音に悩まされそうだ。 「なんか用か。」 『工藤!漸く出よったな!昨日からなんべんもかけとったん、気付いたやろ?』 「うっせーな、用がないなら切るぞ。」 そこまで徹底して出なかったのだから、いい加減、無視しているのだと気付いて欲しい。 西の探偵が聞いて呆れるぜ、なんて思いながら。 気付いたところで諦める男ではないけれど。 服部は、新一の不機嫌を買ってしまったと気付くと慌てて用件を切り出した。 『今日休みやん?俺、丁度東京来とるから工藤と会われへんかなー、思て!』 勿論、偶然などではない。 今日が5月4日だからこそわざわざ東京まで出向いたのだ。 「なんでこの俺が貴重な休日にお前の相手しなきゃなんねーんだよ。」 『そないなこと言わんと…!』 「大体なんで今日なんだよ、どいつもこいつも。蘭や園子や白馬にしたって、それから……」 それから、アイツも。 脳裏に白い影が浮かんで、新一は思わず口を噤む。 その顔は心なし赤い。 新一の噤んでしまった言葉を知らない服部は、暢気に先を続けた。 『なんや、やっぱり解ってへんのか?今日が何か。』 「…何かあったか?」 受話器の向こうで服部の溜息と、あかんなぁ…なんて声が聞こえてきて、新一はムッとする。 平成のホームズと言われる探偵が、“あかん”などと言われてはその名が廃る。 「だからなんなんだよっ」 当然不機嫌な新一に、服部は苦笑しながら答えた。 『せやから、今日は工藤の誕生日やん!』 「へ…?誕生日…?」 『せや、ねーちゃんから言われとらんのか?』 毎年、誕生日を忘れている新一に思い出させてあげてるのは自分だと言ったのは蘭だった。 けれど今年は余りにうるさい電話のおかげで片っ端から電話を無視していたため、蘭からそれを聞くことはなかった。 『せやからな、俺も工藤の誕生日祝ったろぉ思て!』 そう朗らかに笑った服部。 なんたって彼は、新一がコナンだった頃からその正体を見抜き、手を貸し、更に組織の壊滅にも手助けしたのだ。 自分は新一の親友だと自負しているし、その彼の誕生日を祝ってやりたいとも思う。 増して、親友以上の感情を持ってる以上、大事な人の大事な日は祝ってあげたいのだ。 けれど。 「ヤダ」 受話器の向こうでは、服部の笑顔にヒビが入った。 携帯片手にそれはそれは嬉しそうな笑顔を浮かべていた彼が、目に見えて固まったのを、周りにいた人々は不審そうに見遣る。 もしかしたら断わられるだろうとは予測してた。 毎年幼馴染みの彼女と過ごしているのだろうから、それは仕方ない。 その時はただ“オメデトウ”とだけ言って、用意したプレゼントを渡せればそれで良い、と。 けれど新一からの返事は、お断りではなくて拒否だった。 それはもうキッパリとした、しかもたった二文字の。 思わず動揺してしまった服部のどもった声が響く。 『…っ、ね、ねーちゃんと先約があるんか?』 「違ぇーよ。」 『なら、何でなん?』 「……蘭じゃねーけど、先約があるんだよ。」 なんでそこで蘭が出てくるんだよ、と言う新一の憮然とした声に。 再び服部は固まった。 蘭じゃない先約とは誰だろうか、と。 今日という日に新一に約束を取り付けるぐらいなのだから、当然新一の誕生日を祝うつもりなのだろう。 けれど服部には蘭以外に新一との約束を取り付けられる人が居るとは思わなかったのだ。 沈黙してしまった服部を不審に思いながらも、新一は反応が無いので切るぞ、と言って切ってしまった。 携帯をベッドの上に放り投げて。 「今日…俺の、誕生日か。」 まさかそれを知ってて、あいつは今日、俺に約束を取り付けたんだろうか? そう、彼なら有り得なくはない。 自分の誕生日を知っていたとしても。 服部は知らない(と言うより気付いてない)が、組織の壊滅にはもうひとり、多大な力を持った協力者が居た。 自分の敵対する組織と関わりがあるからと、頼んでも居ないのに関わってきた男。 戦いの矢面に立ち、彼らの目を惹きつけ、新一が行動しやすいようにと動いてくれた。 白い装束を身に纏い、闇の世界に生きながら…決してその闇に染まらない彼。 その彼に興味を抱いたのは必然。 なぜか自分を助けてくれて、時間があれば暇つぶしと称して探偵の家に足を運ぶ彼に、興味が好意へと変わったののもまた必然。 その彼が現われたのは、一週間前。 その日はキッドの予告日で、嫌と言うほど空は晴れていて。 白い下弦の月が眩しいその夜に、彼がここに現われるだろうとは予測していた。 こんな風に月の綺麗な夜は決まって彼は現われる。 カタン、という微かな音に、殊更ゆっくりと振り向く。 もし勢いよく振り向いたりしたら、彼が来るのを心待ちにしているとバレてしまうかもしれない…。 それは何だか癪で。 いつも呆れた顔で出迎えるのが習慣。 「こんばんは、名探偵。今夜もお邪魔しますよ。」 「…キッド。」 背中に広がる白い羽を仕舞うと、するりと部屋の中へと入り込む。 …すでに鍵はかけていない。無駄だと知っているから。 初めてそうと知ったときの怪盗は、なぜかひどく嬉しそうな顔をしていた。 「今夜も駄目だったのか?」 「うん、結構良い線いってると思ったんだけどね。」 「そっか…。」 「またにこっそり返しに行かなきゃ。」 普段の冷たくて気持ちいい気配から、暖かくて安心する気配に変わる。 こういうときは、暖かい顔で笑ってるんだと知ってる。 普段の月のようなキッドも好きだけど、こんな太陽のようなキッドも好きだった。 補習をしていた新一の邪魔をしないように、キッドは静かにベッドへと腰掛ける。 けれど、キッドが居るのだから新一は補習などとっくに眼中になかった。 …気になってそれどころではない。 この男の一挙一動を、一挙手一投足を、全て目に焼き付けたいと思う。 どこの誰かもわからない彼と、唯一接触出来るこの時に。 新一は振り返って、椅子の背もたれを肘掛け代わりに跨るようにして座った。 話をしようとする体勢にキッドは苦笑する。 「補習は良いの?」 「…それよりお前のが興味あるし。」 「興味、ね。」 キッドがクスクス笑う。 そんな、妙に子供っぽいところも気に入ってる。 他の奴ならからかわれてる、と腹を立ててしまいそうなことでも、不思議と彼にはそんな気が起きない。 からかってる訳ではないと知っているから。 「でも、名探偵は聞かないよね。俺のこと。」 「………。」 聞かないんじゃなくて、聞けないんだ。 つい漏れてしまいそうな言葉を呑み込んで。 新一はただ、秘密は聞くもんじゃなくて見つけるもんなんだよ、と返した。 組織との戦いに勝手に関わってきたキッド。 その力は強大で、彼なしでは組織の壊滅は出来なかっただろうと思う。 そしてその力を受け入れたのは新一自身。 だから、今度は自分もキッドの力になりたいと思った。 けれど。 彼に自分の力が必要なのだろうか? それは自分の独りよがりじゃないのか? もし、彼に受け入れて貰えなかったら? 自分の力なんて高が知れている…。 そう思うととても、力になるから自分のことや組織とのことについて教えてくれ、とは言えない新一だった。 暫く何とも言えない沈黙が降りた後、先にそれを破ったのはキッド。 「今日ここに来たのは、名探偵にお願いがあってさ。」 「お願い?」 「5月4日、俺のために空けといて欲しいんだ。」 「なんかあるのか?」 5月4日と言えばゴールデンウィークの中日。 勿論自分の誕生日だなどということは欠片も思い浮かばずに、何か特別な日だったっけ?と小首を傾げる新一。 そんな新一にくすりと笑みをこぼして。 「…駄目?」 「え…いや、別に…駄目ってことはないけど。」 「じゃあ、4日にまたここへ来るから。」 「…?ああ。」 「雨でもなんでも絶対来るから。待ってて?」 「わかった。」 なんだか嬉しそうな怪盗に、こいつが嬉しそうだからまぁ良いか、なんて思って。 よくわからないうちに承諾して。 その後はいつもみたいに下らない話をして、日付が変わった頃に怪盗は帰っていった。 あれから一週間、今日が約束の5月4日。 きっと彼のことだから夜になって月が出た頃に来るだろうと思ったけど、なぜか今日は誰とも会う気になれずに、新一は一日家の中で過ごすことにした。 もとよりゴールデンウィークだというだけあって今日の人出はすごいはず。 人混みの嫌いな新一がわざわざ外に出る理由はない。 何よりも、キッドが待っていてと言ったから。 だから、自分は間違いなく彼を待っていなければならないのだ、と。 すっかり冷めてしまった頭で、朝食を摂らなくてはと考えたがその気にならずに、取り敢えずコーヒーを飲むことにした。 常々お隣の科学者二人に、食事代わりにブラックを飲むのは健康に悪いからやめろとは言われているが、長年続けてきた習慣を変えるのは難しい。 高校生男児の栄養摂取量の平均とはかけ離れている新一は、味には煩いが食に執着がない。 それどころか人間の三大欲求すべてに疎いのだが。 取り敢えず寝間着から私服へと着替えて、新一はコーヒーをいれて一息ついた。 相変わらず電話のコードは抜いてあるし、携帯電話も電源を切ってしまった。 いくら警部と言えど、今日ばかりは呼び出されたくなかった。 いざとなれば家に直接駆け込んでくるだろうと思い、それ以外の用事は一切受け付けない体勢を整える。 (せっかく約束らしい約束したんだ。今日ぐらいは、な。) 言い訳めいた言葉で自分を慰めて。 新一は読みかけの推理小説で時間を潰すことにした。 一度読み出してしまえばとことんのめり込む新一だが、なかなかその時間はとれないのだ。 久々の休日らしい休日を堪能するのも悪くない。 そしてざっと200ページほど読み進んだ頃。 唐突にインターホンが鳴り響いた。 深く沈んでいた新一の意識は一気に浮上する。 時計を見れば、漸く12時を過ぎた頃。 まさか本当に目暮警部が押し掛けてきたのだろうかと、新一は慌てて玄関へと向かった。 そして彼にしては珍しく、外に佇む人物が誰であるのかを確認する前に扉を開けてしまった。 はい!と良いながら外に出ると、そこに立っているのは自分と大差ない年齢の少年。 新一は瞳を瞬いて、人違いだと気付くと慌ててすみません、と呟いた。 「すみません、人違いしちゃったみたいで…何かご用ですか?」 少年がにこりと笑った。 人懐こくて暖かい、まるで太陽みたいな笑顔。 陽光を受けて光る彼の瞳は紫紺で、ふわふわの癖毛が気持ちよさそうに風になびいていた。 見たところ手ぶらであるその人が、人懐こい笑みをひっこめると。 口端をクイと引き上げ、不適に笑んで見せた。 途端、その場の空気までが冷たくなって…… 「おや、残念ですね…私を待っていて下さったと思ったのですが。」 恭しく腰を折ると、新一の手を取って軽く口付けてみせる。 普段新一の前ではあまり気取って見せない彼が、今は“少年”の姿で“キッド”を演じている。 目の前にいるのが“怪盗キッド”なのだと解らせるかのように。 「お前っ、キッド!?」 「こんにちは、名探偵。真昼にお邪魔するのは初めてですね?」 驚いて目を瞬いている新一を楽しそうに見遣って、キッドはくすくすと笑った。 「なんでお前…っ」 「今日お邪魔するって約束したでしょ?てっきり俺を待っててくれたと思ったんだけど?」 「あ、それは…お前を待ってたんだけどっ」 「覚えててくれたんだ?」 「あ、当たり前だろっ」 当たり前だ、一週間きっちり数えて待ってたのだから。 新一は未だキッドに握られたままの手に気付くと、慌てて奪い返した。 鼓動が早くなるのを感じる。 「俺はてっきり。夜来ると思ってたんだけど。」 「夜だなんて一言も言ってないよ?」 「…それよりなんなんだよ、その格好は。」 どういう変装だ? 目の前に立っているのは、自分によく似た怪盗の姿。 髪型や瞳の色こそ違うけれど、端から見たらそっくりさん状態。 「取り敢えず、中に入れてくれない?」 「…今更俺の許可貰わなくたって、いつも勝手に入ってるじゃねーか。」 「うん、まあ。そうだけどさ。」 紫紺の瞳が、真っ直ぐに蒼の瞳を射抜く。 「今日は玄関から、名探偵に入れて貰いたかったんだよ。……黒羽快斗としてね。」 ドクン、と。 心臓が鳴ったのが、自分でも解った。 聞き慣れない名前。 聞き慣れないのに、妙に心に残る名前。 ク ロ バ カ イ ト 。 新一はニコニコ笑っているキッドの腕を掴むと、家の中に引っ張り込んだ。 * * * 目の前に、砂糖をたっぷり入れた既にコーヒーと呼べないコーヒーを、美味しそうに飲んでいる怪盗が居る。 その光景を、未だ信じられないという目で新一は見ていた。 取り敢えず、と自分にそっくりな顔をした怪盗を家に引きずり込んで、一服とばかりにコーヒーを勧めた。 さっきの言葉がどういう意味なのか、あの名前はなんなのか。 聞きたいことは山ほどあって、けれどそのどれもが喉に詰まって言葉にはならなかった。 聞いても良いことなのか、それすら新一にはわからなくて。 その葛藤を必死のポーカーフェイスに隠した新一は、ただ無言でキッドを眺めていた。 コト…と飲み干されたカップがテーブルに置かれて。 にこにこ顔の怪盗が不意に口を開いた。 「今日、なんで俺が名探偵に会いに来たか解る?」 「…なんとなくなら。」 「うん。今日が名探偵の誕生日だから。」 おめでとう、と言って。 差し出されたモノを、新一は無言のまま受け取った。 手の中に収まったのは、クローバーの飾りが揺れる、携帯電話。 「名探偵には迷惑かも知れないけどさ…俺からのプレゼント、受け取って?」 「…携帯?」 「うん。俺が名探偵にあげるのは……俺の秘密。」 携帯に向けていた視線を、弾かれるようにキッドへと向けた。 そこにはバツが悪そうな、困ったような顔をした怪盗の顔。 「俺の勘違いだと…自惚れだと思ったら、返してくれても構わない。ただ、名探偵はいつも俺のこと、知りたそうにしてるけど何も聞いてこないから。」 「だって…迷惑、じゃ……ないのか…?」 「俺、一度でもそんなコト言った?それは名探偵がそう思ってるだけだよ?」 カタン、と。 同じ型をした携帯電話が出される。 「その携帯はね、この携帯にだけ繋がるんだ。そしてこの携帯はそれにしか繋がらない。ちなみにこの携帯は俺のね。」 「え…?てことは、キッドと連絡とれるのか…?」 「そう♪工藤新一の為だけに造ったんだよ。」 困惑した表情の新一に、キッドはクスリと笑みをこぼす。 「貰ってくれる…?俺の秘密を。」 「そんな大事なモノ…貰って良いのかよ…。」 「貰って欲しいんだ、工藤新一に。そして出来れば……俺と一緒に闘って欲しい。俺にはお前の力が必要だから。」 ぎゅっと胸が痛くなって。 胸を押さえるのが手一杯で、新一は流れる涙を拭う術を持たなかった。 慌てるキッドに、大丈夫だから、と笑って。 「ごめん…。なんか嬉しすぎて。まさかそんなコト、言って貰えると思ってなかったし。」 ずっと言って欲しかったこと。 ずっと望んでいたこと。 キッドと共に闘いたい。彼の力になりたい。彼に必要とされたい。 「貰ってくれる…?」 「……返せって言われたって、絶対返さない。」 そう、欲しくてたまらなかったそれを、返してやるつもりなど毛頭無い。 ぐい、と涙を袖で拭って。 キッドに負けない、不適な顔で笑って見せると。 ガタン、と椅子が倒れて。 テーブルを乗り越えたキッドが、新一を抱き締めていた。 ぎゅうぎゅう締め付ける腕。 そこから伝わる熱。 驚いたのも初めだけで、緩まない腕の中が心地良いと感じてしまうなんて。 「ありがと…っ!すげー嬉しいっ」 「バーロ、俺の方こそ…サンキュ…。」 どちらがプレゼント貰ったんだかわからないね、と笑う怪盗に。 祝われる者しか幸せになれない誕生日なんていらない、と返した。 どうせなら、すべての人が幸せになれた方が良いに決まってる。 「俺の名前は黒羽快斗。名探偵と同じ高校2年生。全部の秘密を話すから…全部を聞いてくれる?」 「その、名探偵ってのやめたら聞いてやるよ。…快斗。」 「うん……新一。」 初めて呼んだ名前はとても新鮮で。 お互い、柄にもなく少し照れてみたりして。 「ねぇ、新一。俺のもう一つの秘密も、受け取ってくれる?」 「なに?」 「俺ね……。」 新一を抱き締める腕に力を込める。 痛いぐらいのそれに、だけど心地よさしか感じなくて。 されるがままの新一の耳元で、快斗は小さく、囁くように告げた。 “新一のことが、好きだ。” 熱のこもった、嘘のない言葉。 その、低く掠れた声に、新一の体が微かに跳ねる。 それでも尚、快斗は新一を離そうとはしなかった。 捕らえて離さないように。 「新一が好き。誰より好き。誰より側に居たい。側にいて、お前を愛したい。そして…お前に愛されたい。」 まるで、抑えていた気持ちを一気に吐き出すかのように、快斗の告白は止まらなかった。 快斗の服を掴んでいた新一の腕に力がこもる。 「俺…男だぜ?」 「それでも新一が良い。」 「それに…事件となったら周りが見えなくなるし…。」 「新一じゃなきゃ嫌だ。」 「それに…それに…っ」 言葉とは裏腹に、ぎゅうぎゅうと快斗の服を掴む新一。 快斗を抱き締めていた手を解くと、そっと新一の顔を包み込むように頬に手を添えた。 真摯な瞳がぶつかりあう。 「お前しか要らない。俺のことを第一に考えてくれて、俺が言い出すまで秘密を聞かずにいてくれたお前の優しさが、俺は好きなんだ。」 「………。」 「強さも弱さも、綺麗さも脆さも。全てを知りたいと思うのは新一だけだ。知って欲しいのもお前だけ。」 お前だけを、愛してる……。 「快、斗…ッ」 「…新一。」 「俺で…良いのか?…本当に?」 「信じられないなら何回だって言ってやるぜ?新一を愛してるって。信じられない?」 覗き込む紫紺の瞳に、嘘なんて欠片もなくて。 新一は綺麗に微笑むと、ゆっくりと首を振った。 「信じる。快斗。俺も、お前を…」 ゆっくりと重なった快斗の唇に、その先の言葉を奪われる。 重なったまま、呟かれた言葉は。 けれどしっかりと快斗の心に伝わって。 まるで神聖な儀式のように、二人はお互いの吐息を混じらせた。 吐息も。熱も。気持ちも。 全てを共有するかのように。 やがて、名残惜しそうに離れてゆくと。 嬉しそうな快斗の顔が、ほんのり赤くなっている新一の顔が見えて。 二人は嬉しそうに笑った。 平成のホームズがこの世に生まれた日。 平成のルパンに心を盗まれ、そしてルパンの心を貰ったのだった。 |