快斗は新一が吐き出したモノを飲み下すと、口の端についていた残滓までもをぺろりと舐め取った。お世辞にもうまいとは言えなかったが、新一のモノだと思えば不思議と抵抗を感じない。そんな己の心中にこそ快斗は戸惑った。
当たり前だが、新一はやはり男だった。あまりの艶めかしさに一瞬本気で性別を疑った快斗だが、いざ下肢を剥いてみれば、そこにはしっかり自分と同じものがついていて。
それなのに、やはり快斗はそこに手で触れることも、それどころか口で銜えることにさえも全く躊躇いを感じなかった。
新一のそこは、勃起していても涙を流していても、なぜかグロテスクには見えなかった。色素や体毛が薄い所為かも知れない。或いは、明らかに女を知らない幼気な屹立が清らにでも見えたのだろうか。他の男のものなど自分のを含めて絶対に御免だが、彼のものなら、萎れてしまった今でももっと虐めてもっと追い詰めてやりたいと思う。
それに。
(マジやべーって……なんだよ、新一のこの顔……)
既に理性さえ吹き飛んでいそうなほどとろけきった新一の顔。上気した頬に、熱に浮かされた目。口の端からは溢れた唾液が一筋、喉へと細い道をつくっていて。
快楽に落とされた探偵がこれほどの色気を放つなど、誰が想像できようか。犯人を追い詰める時の肉食獣のような鋭い眼差しが、己の愛撫ひとつでこんなにもとろけてしまうなんて。
これよりも先に進めば、いったいどうなるのだろうか。
不意に湧き起こった好奇心に突き動かされるまま、快斗は後孔にそろりと指を這わせた。
男にとっては排泄器官でしかないそこは、当然、綻びることも濡れることもなくただひっそりとそこにある。だが、男にもこの奥に前立腺なるものが存在し、そこを刺激してやれば女のように感じることを快斗は知っていた。
この中に己の雄を突き刺し、揺さぶれば、彼はどんな顔を見せてくれるのか。どんな声で啼き、どんな痴態を見せてくれるのか。
まだ誰も見たことがないそれを、自分だけが見ることができるのだ。そう思えば、既に十分すぎるほどの熱を持っていた下肢が更に熱くなった。
――見てみたい。
欲求のままに、快斗は新一の体をひっくり返した。俯せにし、腹の下にクッションを突っ込んで、力の抜けた腰を高くあげさせる。
「なに……?」
もうまったく思考が追いつかないらしい新一はされるがまま、それでも突然の奇行を訝るように力の入らない首で懸命に振り返る。
快斗はそれには答えずに、固く閉じている新一の後孔へ――舌を這わせた。
「な――!」
新一が息を飲み、一瞬にして体が強張る。知識だけは無駄に詰まっているのが探偵だ。経験はなくとも快斗がなにをしようとしているのか気づいたに違いない。
硬直が解けると、次には盛大に暴れ出した。流石は工藤新一、快楽にとろけさせられようとも、女とは比べようもないほど強い力で抵抗してくる。
それでも快斗には敵わなかった。現役怪盗は蹴りつけようとする暴れん坊の足を軽々と捕らえると、無理矢理開かせ、無防備に晒された急所にするりと指を絡ませた。敏感になっているそこはそれだけでぴくりと反応を返し、更にもきつく扱きあげてやれば、あっさりと新一の足から力が抜けた。
「や、あ、あ……っ」
新一は両腕を折り曲げてカーペットに顔を擦りつけ、快楽に耐えるようにぎゅっと眉をひそめながら、口からは甘い鳴き声を零した。ふるふると震えている白く細い柳腰が殊更いやらしい。
快斗はそのまま新一の雄を扱きながら、再び後ろの孔へと舌を伸ばした。
脂肪の柔らかさとはほど遠い、上質な筋肉で引き締まった尻をやんわりと揉みしだきながら、快斗は唾液を流し込むように後孔を舌で丹念に愛撫する。まるで小さな隙間に溜まった蜜でも舐め取るように、舌先を尖らせて抉るような動きを繰り返す。
すると初めは頑なに快斗を拒んでいたそこも、徐々に解きほぐれてきた。快斗の舌の動きに合わせるように、慎ましやかに恥じらいつつも口を開く。やがては中の肉が見えるほどに収縮を繰り返し、もっと奥に来てと、快斗の舌を誘い込むのだ。
あまりの光景にくらりとした。
既に新一の雄は固く張り詰め、止めどなく溢れ出る蜜で快斗の右手はしとどに濡れている。指を滑らせる度に鳴り響く水音と零れ落ちる嬌声は興奮を助長させ、快斗の理性をじりじりと焼き焦がしていく。
(ああ、くそ……早く挿れたい……!)
抗いがたい衝動を無理矢理抑え込み、快斗は新一の蜜で濡れそぼった指を後ろに宛った。
つぷりと、まずは中指を差し入れる。すると、意外にも第二関節くらいまではすんなりと入った。舌での愛撫が功を奏しているらしい。
しかしそれ以上はなかなか進めず、じりじりとしながらも快斗は傷がつかないように慎重に指を進めた。
「い……っ、……!」
苦しげな声が新一から漏れる。先ほどまで快楽に歪んでいた顔も今は苦痛に歪んでいる。
それでも快斗に止める気はなかった。というか、もう止まらなかった。
苦痛に歪んだ顔でさえも艶めかしいなんてどういうことだ。痛みを耐える新一を見ていると、慰めてやりたいと思う気持ちと同じか或いはそれ以上の強さで、もっともっと虐めてやりたい、虐めて虐めて虐め抜いてやりたい、なんて危険な衝動が湧き起こる。
泣かせてやりたいのだ。それも、自分の与える甘い痛みで。
快斗は伸び上がって新一の背中に覆い被さると、耳殻を嬲るように舌で舐め上げながら囁いた。
「しんいちのイイとこ、すぐ見つけてやっから。もうちょい我慢してくれな」
「んん……っ! んなもん、いらね……!」
いいから抜けと、可愛くないことをほざく口は耳への愛撫で黙らせる。そうすれば彼の口から零れるのは可愛い啼き声ばかりになる。
快斗は中指の抽挿を繰り返して解しつつ、前立腺を探して熱い内壁を刺激し続けた。
根気強く刺激し続けた甲斐あって、もう中指だけなら根本まで容易く銜え込めるほどになっていた。
「すげえな、しんいちのココ。めちゃくちゃ熱い」
「る、せ……ッ」
「熱くて、きつくて。俺の指、うまそうに銜えてる」
「おま……っ、もう死ね!」
快斗の戯れ言に、新一の全身が桜色に染まり上がった。涙の滲んだ目で睨みつけてくる、その色香のなんと凄絶なことか。
煽ったはずが逆に煽られて、快斗の下肢が一段と重くなった。
「てめ、この、煽りやがって……! 無理矢理突っ込まれてーのか!」
「なにを勝手な――っ」
悪態を吐こうとした声が不自然に途切れる。ヒュッ、と息を飲んだかと思うと、快斗の中指をきゅうと締め付けてきた。なにかを耐えるようにきつく目を閉じる新一の背中に、ぶわ、と汗が浮かび上がる。
その変化を、快斗が見逃すはずがなかった。
食いちぎる勢いで締め付けてくる内壁に抗い、そろりと中指を動かす。関節の動きだけで目当ての場所を探り当てると、ビクンッ、と背中を反らせ、新一が悲鳴をあげた。
「ひっ――アァん!」
その声は鼓膜を打ち破り、心臓を直撃した。一瞬にして脳髄を沸騰させ、思考の全てをさらわれる。
――やばい。
そう思いながらも快斗の指は止まらない。ただ触るだけなど物足りないと、ねっとりと抉るように指先に力を込めて擦り上げれば、新一はまたも悲鳴をあげながら、きゅうぅぅ、と快斗の指を締め付けた。
「ヒァッ、や、アァァ――ッ」
いったいどれほどの快感を感じているのか。玉となって浮き出した汗が背中を伝い落ちる。
快斗は逃げ出そうともがく腰をがっちりと押さえつけ、思わず舌なめずりをしながら、執拗にそこを責め立てた。
「やめっ、かいっ、やめろっ!」
「だめ。ココがイイんだろ? 食いついて放してくれねーし」
「アァ――ん!」
「ほら、すごくイイ声」
新一は最早錯乱状態だ。もう自分がどんな状態なのかも分かっていないのだろう。
抜き差ししやすいようにと腰を高く抱えられ、開かされた足の内股を先走りの蜜がぽたぽたと伝って。可愛く啼き続ける唇は閉ざされることなく、くたりと伸びた赤い舌がひどく扇情的で。
その全てが、快斗を煽っていた。
全身で誘っていた。
――食べて、と。
(もう、無理)
いつの間にやら三本に増えていた指で嬲り続けたそこは、気づけばすっかりほぐれていた。
快斗は放すまいと食いついてくる口からゆっくりと指を引き抜いた。
「ふ……ぅ……」
ようやく止んだ攻撃に、安堵なのか失望なのか分からない声で新一が呻く。
けれど当然、これで終われるわけがなかった。
快斗は震える新一を抱き起こすと、体の向きを変え、その唇を貪った。
もう散々に触れ合った後だ。キスぐらいならばと、新一も大した抵抗もなく受け入れてくれる。その隙を逃す快斗ではない。
快斗は新一がキスに夢中になっているのをいいことに自然な動きで押し倒すと、その上に覆い被さった。そのまま足の間に体をねじ込み、ズボンの前をくつろげる。
最後に舌を吸い上げてから唇を解放してやれば、新一は悩ましげな吐息を漏らした。
その額に唇を押し当て、快斗は言った。
「痛かったらごめんな、新一」
「え……?」
なにも分かっていない顔で見返す新一に笑い返し、快斗は熱く滾った下肢を後孔へと押し当てる。
その瞬間、それがなにかを悟った新一の目が見開かれた――恐怖で。
「かっ、快斗! 冗談だろ!」
「冗談じゃねーよ。優しくしてやるから、大人しく抱かれろ」
我ながら勝手なことを言いつつ、快斗は這い上がろうとする体を、腰を掴んで縫い止める。先走りの蜜が入口を濡らし、クチ、と小さな水音を立てた。
新一はいっそ青ざめながら、自分の中に侵入しようとする異物をどうにか拒もうと試みる、けれど。
「うそ、そんな……っ、くゥッ」
新一の意志に反し、すっかりほぐされたそこは快斗の雄を嬉しそうに飲み込んでいく。スムーズに、とは言えないが、収縮する度に奥へ奥へと誘い込む。
先を飲み込んでしまえば、後はもう突き進むだけだった。熱い粘膜が快斗を包み込む。
「ん……き、つ……」
「いた、いたい……かいと……ムリだって……っ」
「ごめん、それこそ無理……。もう止まんないって」
張り詰めていたはずの新一の前も、痛みのためにすっかり力を失っている。可哀相だとも思うが、ここで止められれば自分こそが可哀相だ。快斗はなるべく衝撃が少ないようにと心を配りながら、小さく抜き差しを繰り返して奥へ奥へと進んだ。
道程は決して平坦ではなかった。それでも到達することはできた。
快斗の腹と新一の尻がぴたりと合わさるほど、今や二人は深く繋がり合っていた。男同士で、決して番うはずのない体で、それでもこうしてぴたりとはまっている。
「……は。サイコー」
なんだか感動さえ覚えてそう呟けば、涙目の新一が、ギッ、と睨みつけてきた。
「信じらんねえ……普通、ここまでするかよ」
「んだよ、最初に言っただろ? とことんやるって」
「本気にするわけねーだろ!」
可愛くない口だ。当たり前だが、新一は今まで抱いたことのある女のような反応は返してくれない。
――さっきまではあんなに可愛かったくせに。
お仕置きとばかりに腰を揺すれば、途端に新一はしおらしくなった。
「あッ、や、ばか、動くなっ」
ぎゅっと目を閉じ、喉を逸らせて衝撃を逃がそうとする。この反応は非常に可愛らしい。
快斗はあまり人の好くない笑みを浮かべると、わざとゆるゆると腰を動かした。
「うあ、このっ、動くなっての、にっ」
「む、り。新一、自覚した方がいいぜ。おまえ、エロすぎ」
「はあっ? 俺のどこが!」
「こういうところが」
そう言って少し強く引き抜き、ぐっ、と奥まで貫いてやれば、堪えきれずに新一が啼いた。
「ほら、その声とか。ヤバすぎ」
もちろんやばいのは声だけではない。この顔も非常にまずい。快楽にとろけきった顔も、痛みを耐える顔も。その上、感じやすいこの体だ。慣れた後ならまだしも、初めてで、それも男の体で、こんなにも感じるはずがない。新一は明らかに素質があったのだろう。
快斗は不意に心配になった。
新一と顔が似ていると言われる快斗だが、この整った顔も快斗のあけすけで天真爛漫な性格では格好良く見られるらしく、女にモテても男にモテたことはない。それに比べて新一は、ずぼらな内面に反して隙がなく見られるらしく、探偵として振る舞う時の凛とした佇まいなどは格好いい反面、凡人には手の届かない高嶺の花のような印象を抱かせる。そのためか、女はもちろん男の視線をも惹き付けてしまうのだ。 探偵なんて因果な商売をしていれば逆恨みだってされるだろうし、そうでなくとも現実と妄想の区別がつかない馬鹿はどこにでもいる昨今、どんな変態に付け狙われないとも限らない。
(ここはやっぱ、俺がきっちり教え込んでやるしかねーよな)
そしてできれば、男も女も、他の者など目にも入らないくらいに自分に溺れさせてやりたい。
そこまで考え、ハッ、と快斗は頭を振った。
(なに考えてんだ、俺。流石にそれはねえって)
溺れさせるもなにも、相手はあの工藤新一。怪盗キッドの最大の天敵にして、最高の好敵手だ。有り得ない。
馬鹿な考えを振り払うように、快斗は新一の体へと手を伸ばした。 |