荒い呼吸を繰り返しながら、新一は自分の体の信じられない変化に混乱していた。
体中がとにかく熱い。ドクドクと高鳴る心臓は今や全身で脈打つかのようで、自分に覆い被さる男にまで聞こえてしまっているだろうと思えば、恥ずかしさで余計に熱くなる。
耳も、首も、胸も、腹も。どこもかしこも舐め尽くされ、最早彼の舌が触れていないところなどないというほどに舐め回され。同じ男に組み伏され、押し倒されて。
普通なら有り得ない、信じられない状況なのに、それなのに――反応してしまっている自分の体が一番信じられない。
快斗が言うように、新一には、厳密にはキスをした経験はなかった。まだコナンだった頃にやむを得ない事情で何度か蘭と唇を合わせたことはあったけれど、工藤新一として彼女とキスをしたことはもちろん、他の誰かとなどあるはずもなく。
それでも知識だけなら十分すぎるほどあったし、キスぐらいならと、嘗めてかかっていたのも確かだ。
それが、こんなことになるなんて。
快斗のキスは巧かった。最初は男同士でキスなんてと思っていた新一だが、実際はなんのことはなく、口と口、舌と舌の接触という点では男も女も大した違いはないのだと、あまり抵抗もなくキスを続けていたのだが。
五分ほど経った辺りからだったろうか。それまではどちらも主導権を握れずにいたのに、急に快斗が積極的に動き出したのだ。
舌を絡め取られきつく吸い上げられれば、頭の奥がジンと痺れた。舌を伸ばされ口蓋を撫でられればくすぐったいようなジリジリとした感覚が体の奥を這いだして。
そこからはもう快斗の独擅場だ。新一はやり返すどころか抵抗さえままならず、されるがままに翻弄されるしかなかった。彼の手が、舌が、肌を辿る度にあられもない声をあげ、引き付けでも起こしたかのように全身を震わせて。
そうして今、ようやく止んだ愛撫に呼吸を整えるだけで精一杯で、散々好き放題にしてくれた男へ罵倒の言葉ひとつ浴びせることができずにいた。
「しんいち……」
どことなく遠慮がちに声をかけられ、新一は宙に彷徨わせていた視線を快斗へと定めた。なんだかやたらと目の表面が水分過多なために視界がぼやけているが、それでも力の限りに睨みつける。
「て、め……気が済んだかよ……」
唇が震えてうまく喋れない。未だ快感の波は冷め遣らず、新一の脳を掻き回している。
快斗は言葉を選びそこねているようで、なにかを躊躇うように一旦口を閉じたけれど。
次の瞬間、信じられない行動に出た。
「はっ? なに――!」
「……このままだと辛いだろ? 楽にしてやるよ」
そう言って快斗が触れてきたのは――下肢。快斗の愛撫で熱を持ってしまったその場所を、スラックスの上からやんわりと撫でられた。 たったそれだけの動作が、けれど信じられないほど気持ちよくて。
「あぁ……ッ」
またもや声を上げて、背を逸らせるハメになった。
快斗は形を確かめるように二度、三度と指先で撫で上げる。触れるか触れないかという微かな感触なのに、それが逆にもどかしくてつい腰が浮かびそうになる。
「しんいち、気持ちいい……?」
「る、せ……! この、――ふァッ」
怒鳴りつけてやりたいのに、口から飛び出すのは情けなく上擦った嬌声ばかり。
しかも勝手な男は、
「やべえな、おまえのその声……すげー、クる」
などとほざき、耳を澄ませようとでも言うのか、覆い被さるように上体を屈めてきた。
その間もマジシャンの器用な手は止まらず、新一を追い詰める。
自分でもそこに熱が集まっていくのが分かった。最早隠しようもなく勃ち上がったそれはスラックスを窮屈そうに押し上げている。もしかせずとも下着は濡れてしまったに違いない。
新一は泣きたくなるほどに悔しくなって、この怒りをどうにかしてぶつけてやろうと――快斗の耳に思いきり噛みついた。
「イ――ッ!」
「ン――ッ」
痛みに呻く快斗と、驚いた拍子に下肢を掴まれて呻く新一。
報復のはずが自身もダメージを食らってしまったが、お陰で不埒な手の動きを止めることには成功した。
「ってえな、なにすんだよ、新一!」
「それはこっちの台詞だ! 調子に乗ってんじゃねーぞ!」
涙目で耳を押さえている快斗と怒鳴り合い、睨み合う。こんな格好で真面目に喧嘩するのもどうかと思うが、真面目にイかされるよりはずっとましだと思う。そんなことになった日には羞恥のあまりもう顔も合わせられない。
だと言うのに、目の前の男はふと半眼になって口角を吊り上げたかと思うと。
「いい度胸じゃねーか。こうなったらとことんやってやるぜ」
そう言った次の瞬間には、下半身を剥かれていた。
新一は最早言葉もなかった。
ずり下げられたスラックスと下着が、わざとだろう、膝の辺りで引っかかっているために、新一は思うように身動きも取れない。そうでなくともあまりの格好である。カッ、と顔に血が上った。
けれど悪態が口を吐く前に剥き出しのそこを握り込まれて、新一は息を飲んだ。
既に雫を垂らしていたそこに指を絡められ、軽く上下に扱かれる。先走りの雫を塗り込めるように扱かれれば、クチクチと、耳を覆いたくなるような卑猥な音が漏れた。それだけでも堪らないのに、快斗は更なる刺激を与えようと弱いところばかり攻撃してくる。
しかも快斗の攻撃はそれだけに留まらなかった。なんと快斗は――そこを銜えたのだ。
「う、そ、だろ! かい――っ!」
引きつったように中途半端なところで声を止めた新一は、そのまま息をも止めた。
体の中で一番敏感な場所が、熱いくらいの口内に包み込まれている。信じられない。だってそこは、お世辞にも綺麗とは言えない場所で。
最早新一の限界を超えていた。
「ヒ――ァッ」
他人の口が、舌が、信じられない場所で蠢いている。下から上へと舌で辿られれば、ビクビクとそこが震えた。窄めた唇で扱かれれば、ズクズクとした快感が全身を這い回った。舌先で先端を割り開くように虐められれば、一際強い感覚に今にも押し流されそうになって。
同じ男だ、どこが感じるかなど快斗には手に取るように分かるに違いない。更にまずいことに、人より淡泊な新一は滅多に自分でも処理しないので、こういう刺激にあまり免疫がなかった。初心者がいきなりセックスに臨むようなもので、だから全く対処法も分からず、ただ快感に悶えるしかない。
「ああっ、あっ、……も、はなせ、って……!」
新一は狂ったように頭を振った。
もう自分がどんな状態かも分からない。
いつの間にか下着もスラックスも抜き取られ、一糸纏わぬ下肢に男の頭を埋められて。力が入る度に閉じようとする足を無理矢理広げられ、ピチャピチャと湿った音を立てられて。 (だめ、だって……だめだってのに、……もう……!)
恥ずかしい。気持ちいい。怖い。気持ちいい。死にそう。
混濁する頭で必死に考える。
このままではまずい。
熱が、波が、襲ってくる。
逃れようもないほど大きな波が、呑み込もうと迫ってくる。
ここから逃げ出さなきゃいけないと思うのに、もうまともに考えることもできず、ただただ波に呑み込まれる瞬間を待つしかない。
(もうだめ……、もうだめだって……!)
その上、口から出るのは意味を持たない言葉ばかりで。
「アァ、ァ、アァアア――…ッ」
ビクン、と。一際大きく痙攣し、新一は折れそうなほどに背中を反らせた。
熱い迸りとともに爆発しそうな快感が溢れ出し、全身をビリビリと震わせている。快感の波は小刻みに何度も押し寄せ、その度に下肢からはトロリと蜜が零れて。
その全てを飲み尽くそうとでもするように、快斗は何度もそこを吸い上げた。
解放の余韻に震える新一はされるがまま、ただ喘ぐように呼吸を繰り返していた。 |