[ If you wish to see everything about this world ] 〜 邂逅スペシャル!! 出会っちゃったら運命である! 編 〜 |
X. 一人エレベーターでコナンは下りてきた。その表情は始終笑顔だ。とても機嫌がいい。 「新一兄ちゃーん」 モニターの前にいる新一を見つけコナンはパタパタと駆け寄る。それを新一は優しい笑顔で向かえコナンの小さな身体を抱き上げた。 「楽しんでたみたいだな、コナン」 「うん! とってもワクワクしたんだ! すごかったよ、快斗兄ちゃん」 「あぁ、モニターで見てた。俺も相手してみてぇって思ったし」 快斗が聞いていたなら涙を流して喜んだであろう会話である。しかし快斗は未だ下りてきていない。彼のショックは相当根が深いようだ。 コナンの様子とまだ下りてこない快斗の様子から何事かを悟って新一は苦笑を漏らした。 「………あんまり苛めるなよ、コナン」 「えー、僕別に何もしてないもん」 それはもう天使と見紛うような微笑みでコナンは応える。 (直接何かをやってないだけだろうが) コナンの手口は知っている。彼の得意とする方法は『真綿で首絞め』だ。特にメンタル攻撃に秀でている。 新一が内心で呟いた言葉を、この目の前の聡い弟は判っているのだろう。その笑顔は満足気である。 「………コ、コナン君!」 その時ようやく持ち直したのか快斗が屋上から下りてきた。未だにその白い衣装を身に纏ったままで、いつもならさっさと着替えていることを考えると彼の焦りと動揺具合が伺える。 「あ、あのね………っ」 「僕ちょっと挨拶に行ってこなきゃならないから。後でね、快斗兄ちゃん」 「あ………」 取り付く島もなく、新一の腕から降りるとコナンはスタッフ達のもとへ走って行ってしまった。その時コナンが実に満面の笑顔であったことを、背中を向けられていた快斗は知らない。 楽しそうにしちゃって、まあ。とはその場にいた快斗以外の傍観者、新一、蘭、園子の感想である。 後には目標を見失った、縋るように伸ばされた快斗の腕だけが残された。 ヒュウゥと物悲しく寒々しい音を立てて一陣の風が快斗の背後を吹き抜けていく。力なく靡くマントが更に哀愁を漂わせる。まさに現在の快斗の心境を正確に表しているようだ。それを新一達は別次元の出来事のように眺めていた。 「……………っ! き、嫌われた………っ!」 頭を抱えて悲痛な声を上げる快斗を見て、何だか新一は可哀相な気分になった。見かねて思わず助け舟を出す。普段の彼ならばまず有り得ない行動だということは完全に意識外だ。 「気にすんなよ。アレ、あいつの好意の表現みてぇなモンだからさ。気に入った相手を苛める性質なんだよ、コナンは」 「そうよ、黒羽君。嫌われてなんていないから大丈夫よ」 「そーそー。あのガキンチョは天使なんて言われてるけど真実は小悪魔よ」 新一に続いてコナンをよく知る蘭と園子も快斗を慰める。コナンは愛想はいいが実は結構人見知りなのだ。そう思わせないのは人見知りの表現が相手に対する拒絶ではなく巨大な猫を被る行為に出るからである。それ故あんなに露骨に感情を表現して見せるのは久し振りだ。特にドラマが始まって以来、関係者では快斗が初めてである。 「けど珍しいな。コナンが感情を露わにしてみせるの。いっつも猫被ってるのに」 いかにも他人事のように新一が言う。 それはあんたも同じでしょ。とは彼の幼馴染達の心の声だ。ちなみに新一は猫を何匹も複数で被っている。 「……………俺、嫌われた訳じゃない?」 不安気におずおずと訊いてくる快斗に新一は笑った。 「大丈夫だって。それにコナンがあんな風に気を許すのなんてもっと珍しいんだぜ? お前よっぽど気に入られたんだな」 他人を気にかけてフォローしてる辺り、あんたも気に入ったんでしょ。とは彼の幼馴染達の以下同文。 コナンに嫌われた訳ではないと知った快斗はやっと胸を撫で下ろす。いろんな理由よりこれからも親しくしたいと思うコナンに嫌われたなんて、この先やってられないのだから。 チラリと隣の新一を見る。安堵すると現在置かれている自分の立場というものが気になった。 まだ新一とはそんなに親しくなっていない。口調こそタメ口になったが、そんなこと同年代だということを考えれば当たり前だ(快斗は新一の普段の猫被りを知らなかった)。このままだと快斗はコナンの一共演者という一括りの中に収められてしまう。彼に恋心を抱いてしまった今、そんなのまったく嬉しくない。 現状を打破せねば。自分の望む未来を現実とするためには、行動を起こす他手段はないのだ。 「あ、あのさ!」 意を決して切り出した。声をかけられた新一は首を傾げて快斗を見ている。それを見て呼吸困難を引き起こしそうになる自分の身体と密かに格闘だ。 「あの、新一って呼んでもいい? ホラ、工藤だとコナン君も工藤だし、コナン君はもうコナン君て呼んでるのに新一だけ工藤ってのは何か微妙に差別だし、工藤さんはたくさんいるし」 突然脈絡もない。しかも手順も何もあったものではない行動の起こし方である。言っている意味も、本人すらよく判っていないのかもしれない。 何より。許可を貰う前に既に名前を呼んでいる。 ただはっきりしていることは本人はかなり真剣だ。それはもう死にそうな程必死の表情である。 「だ、駄目………?」 微かに上目遣いで訊いてくる快斗を何だか犬みたいだなと新一は思った。そう思うと今度は垂れた耳と尻尾が見えてくるのだから不思議だ。クスリと小さく笑みを零す。 「別に構わねぇよ。好きに呼べばいい」 途端に快斗の顔は輝き出した。感情と行動がそのまま直結しているようだ。これで実は普段の快斗は常にポーカーフェイスを身上としているなんて言われても新一は信じないだろう。 「じゃあ、俺も快斗でいいから! てか快斗って呼んで! てか絶対そう呼んで欲しい!!」 「あぁ、判ったよ。快斗」 幻覚の尻尾をブンブンと振り回して言う快斗に新一は仕様がないというような、しかし優しい笑みを浮かべて見せた。「快斗」と早速言って貰った上にそんな顔を至近距離で目にした快斗は勿論撃沈である。 離れた位置では相変わらず彼等の幼馴染達がそんな様子を始終見守っていた。 「新一が初対面の人に名前を呼び捨てにさせるなんて………!」 「すごい、すごいわ! やっぱりひょっとしたらひょっとするかも〜ッ!!」 「バ快斗一目惚れしただけじゃ飽き足らず、今度は工藤君もオトしたの!? それってすっごいオイシイじゃない!!」 「あ、青子ちゃん。そこまでは………」 「何かしら、血が騒ぐわ! コレを使わないテはないわよっ!!」 「そ、園子。何する気………?」 「それにしても、ああしてるの見ると黒羽君って犬みたいね。それも大型犬ってイメージだわ」 「………言われてみれば。じゃれついて尻尾振ってるみたい。しかも結構血統の良さそうな………」 「ん〜、でも快斗って普段はあまり感情を表に出さないんだよ。あんな快斗、あたしも久し振りに見た」 「うーん、だったらレトリバーやピレネーじゃないわねぇ」 「愛想はいいし人付き合いも悪くないけど、快斗って深く踏み込ませないんだ」 「………じゃあ愛想はいいけど懐かないハスキーが唯一の飼い主を見つけたって感じ?」 「わぁ、蘭ちゃんうまーい!」 「イイわ、それ! 使えるわねっ!!」 「………だ、だから何する気………?」 何はともあれ、ドラマ特別スペシャルの撮影は無事終了である。 周囲のあちこちで「お疲れ様」の声が上がり撤収作業が始まっていることを、彼らはまだ気付かない。 その後コナンの撮影現場に時折快斗が訪れるようになり、新一とコナンと一緒に帰っていく姿が見られるようになった。 幼馴染達の証言によると、プライベートでも特に新一と快斗が共にいるところを目撃するらしい。 快斗が工藤邸に入り浸っていることは公然の秘密である。 〜 おまけ 〜 「なぁ快斗。俺お前が出てたドラマ見たことないから見てぇんだけど、ビデオとかある?」 「あるある!(母さんの命令で)全巻揃ってるしDVDもあるし。今度新一んちに持ってくよ」 「いやそんな悪ぃし、わざわざ………」 「どってことねぇよ。代わりに俺も『DETECTIVE』のビデオあったら見せて欲しいんだけど」 「あぁ、今までの分あるから貸してやるよ。………ところでさ。ひょっとしてお前の父さんって黒羽盗一?」 「え? うん、そうだけど。知ってんの?」 「そりゃ、あんだけ有名なマジシャン。それに盗一さん俺の父さんの友達だし」 「えっ!?」 「俺がガキの頃からよくうちに遊びに来てたから。最近じゃ今年の正月に挨拶に………」 「………………………」 「………快斗? どうした?」 「………あんのクソ親父―――ッ!! てことはずっと俺の知らない新一とコナン君を独り占めにーーーッ!!」 「………………………」 後に発覚。 このドラマ『DETECTIVE』で怪盗キッド登場の裏では、某超有名推理作家と某超有名マジシャンの思惑が色濃く絡んでいたらしい。 兎にも角にも、快斗はこの運命の出会いを天と神(信じていないが)と阿部と青子にこの上なく感謝し、後日青子に超特大デラックスパフェを奢ったのである。 |
Fin |
BACK * TOP |
----------------------------------------------------------- ミコトさまのコメント▼ これにてやっと、やーーーっと終了です。 長々とすみませんでした、クロキさん; そしてお付き合い下さいましてありがとうございました! ……ちゃんとリクに叶っているのでしょうか?; それだけが不安でございます; こんな拙い作品ですが、どうぞお納め下さい。 ふー、さぁ次をガンバルゾ!!(笑) ミコト |
----------------------------------------------------------- ▼管理人のコメント 最終話、五話目を頂いてしまいましたvv まずはミコトさん、このような素敵な地雷品をどうも有り難う御座いました! 連載モノ中毒な私は大喜びさせて貰いましたよ♪ 内容の面白さはもちろん、ミコトさんの茶目っ気たっぷりで笑わせて貰いましたvv コナン君。好きな人ほど苛めたくなる性格……ちょっと納得(笑)。 原作での彼もそんな感じですもんね!身内には素っ気ないというかなんというか… そして、このドラマには優作パパと盗一パパの策略が…! 名前だけの登場だというのにインパクトの強い彼らはさすがですね(笑)。 今後の彼らがぜひぜひラブラブになっていることを祈りつつ。 素敵な作品を有り難う御座いました! 次の作品も楽しみにしておりますvv |