その呪いを解くのは、愛――















Pirates of the Caribbean















 カリブ海に面する港町、ポートロイヤル。
 その街の中心は今、賑やかな民衆の声に包まれていた。


「白馬提督。昇格おめでとう。」


 少し恰幅の良い丸い体に白い髪を生やした阿笠総督は、本日大尉から提督へと昇格した白馬にそう祝いの言葉を贈った。
 すでに50を越した阿笠総督に比べ、まだ年若い提督は自信に満ちた笑みで応える。


「有り難う御座います、総督。」


 阿笠の差し出した剣を受け取ると、白馬は見事な剣捌きを披露して見せる。
 納得したのか、白馬が剣を鞘へおさめると、二列横隊で向き合った軍人達はそれぞれ手にした銃を天に向かって撃ち放った。
 その爆音を聞きながら、端でその様子を見ていた快斗は嫌そうに眉を寄せる。

 あの剣は快斗が打ったものだ。
 幼い頃に母を亡くし父親のいなかった快斗は、鍛治屋を営む寺井のもとで生計を立てている。
 快斗自身寺井に負けない凄腕の職人であり、最近では年齢的に無理の出てきた寺井に代って快斗が剣を打っている。
 だから、阿笠に頼まれ祝いの品として白馬の剣を打ったのだが……


「あの自信満々の笑みが気にくわない。」


 快斗は白馬のことが嫌いだった。
 軍人としての彼は確かに腕も立つのだが、自分をエリートと信じて疑わないその態度が気にくわないのだ。
 そしてなにより気にくわないのは、他のことであった。


「こんな公の場でそんな発言すると、絞首刑にさせられるわよ。」


 と、隣から聞こえてきた愉しげな声に、快斗は口端をクイと持ち上げる。


「俺がそんなヘマするわけないじゃん。ちゃんと使い分けてるだろ?――ご令嬢。」
「ええそうね。貴方はとても頭が良いもの。」
「お褒めにあずかり光栄ですよ。」


 ニッ、と鮮やかに笑ってみせると、快斗は志保の手を取って軽く口付ける。
 その紳士然とした態度は、容姿の端麗さも手伝ってかまるで貴族のようであった。


「あいつ、まだ志保ちゃんに婚約迫ってんだろ?」
「ええ。もう何度目かなんて数えるのも馬鹿らしいけど。」


 白馬を全く相手にしていない志保は、ただ肩をすくめてみせただけだった。
 快斗が白馬のことを厭う最大の理由は、この志保への縁談のせいだ。
 快斗と志保は幼い頃からの幼馴染みである。
 総督の娘と鍛治屋の養子ではまるで身分が違うが、お互いに非常に頭が良いという共通点から、ふたりは自然と隠れて共に過ごす時間が多くなった。
 快斗にとって志保は大事な友人であり、志保が承諾しているならまだしも断り続けているというのなら、未だ婚約を迫っている白馬は鬱陶しい存在でしかない。


「彼より貴方の方がずっと強いというのにね。」
「当たり前だよ。あんな成り上がりの軍人なんかと一緒にされたくないね。」
「ふふ…彼のことを“成り上がり”だなんて言えるのは貴方だけだわ。」
「あいつと俺じゃ覚悟が違う。」

 こんなちっぽけな港を守って満足しているような男と、この俺を一緒にされたくないね。


 不適に笑う快斗の実力が決して脚色されたものではないと知っている志保もまた、愉しそうに笑うのだった。
 そう。
 なぜならこの男は、世界に出て行こうとしているのだから。


「それじゃそろそろ行くわね。」


 コルセットできつく締めつけていながら、それを平然と着こなしている志保は颯爽とした足取りで踵を返す。
 それに快斗も手を振るだけで応えて、提督の元へと向かった。
 形ばかりの口上を述べに。





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映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」のパロですvv
キャラの性質的に見たら、ジャック=快斗、ウィル=新一と見られるようですが……
あたしにはジュニーは受けにしか見えません(笑)
だって可愛いもん!
だからジャックが新一なんです♪