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パーティ会場はビバリーヒルズにあるホテルだった。
ビバリーヒルズは多くの大富豪や映画俳優が集う高級住宅街であり、このホテルでも毎年映画関連の授賞式や式典が行われている、俗に言うセレブが集うホテルだ。
内輪だけで集まるパーティのためにその会場を借りるなど、庶民の感覚からはとても考えられない。
だがそれも、パーティの主賓があの工藤優作だと言われれば納得してしまう快斗だった。
快斗と新一は現在、それぞれタキシードをきっちりと着込み、リムジンの後部座席に腰掛けながらホテルへと向かっている。
向かい側には同じくフォーマルスーツを着込んだ優作と綺麗にドレスアップした有希子が座っている。
更に言うなら、後続のベンツには白牙、メイ、志保、ベルモットの四人も乗っていた。
パーティの主催者であるアイザック・アシュフォード氏にどのように許可を取り付けたのかは分からないが、優作は快斗だけでなく守護者全員の招待状を受け取っていたのだ。
勿論、身元の怪しい二人――白牙とベルモットは偽名で、だが。
とは言え、新一の安全度が上がることに文句があるはずもなく、快斗としても非常に有り難かった。
しかし、当の新一はと言えば、どこか浮かない表情で窓の外を流れていく景色をずっと眺めている。
眺めていると言っても別に景色を楽しんでいるわけではない。
ぼんやりとした目は過ぎていく景色の何にも興味を持たず、映り込む景色より更に遠くへと彼の意識は飛んでしまっている。
だが、それは今に始まったことではなかった。
数日前から新一は何かを思い耽るようになった。
常に新一の隣にいた快斗は勿論、工藤夫妻も彼のそんな様子に気付いている。
けれど快斗に思い当たることと言えば先日の告白くらいしかなく、それについて思い悩んでいるのかなどと、快斗には恐ろしくてとても聞けなかった。
――自信を持て。
そう言ってくれた新一には悪いけれど、自信など持てるはずもなかった。
ずっとずっと隠してきたのだ。
ずっとずっと、叶うはずなどないのだと、希望など持ってはいけないのだと、自分の気持ちを押し殺してきたのだ。
彼が探偵だからとか、同性だからとか、そんな理由ではない。
彼のためなら人も殺せる自分を自覚した時、そしてそんな自分を止めるためなら自分を殺してでも止めてくれると彼が言った時、分かったのだ。
自分は、彼を破滅させる存在だ、と。
罪を許せない彼。
けれどそれ以上に、誰かを救うためなら許せないはずの罪を自ら犯してでも手を差し伸べずにはいられない彼。
罪にまみれ、罪を犯すことでしか彼を守れない人間が、どうして彼の隣に並び立つことができるだろう。
欲望と願望は別物だ。
彼を欲しいと望む心とは別に、決して彼を穢したくないと願う思いが常に存在する。
それでも、そんな自分をここに繋ぎ止めているものは――彼を守り彼を救う使命を負った、白き罪人としての運命。
その細すぎる蜘蛛の糸に必死にしがみつくしかない今の快斗には、新一を振り向かせる自信など、とても持てそうになかった。
まだ主賓の到着していないパーティ会場は、徐々に集まりだした他の招待客で既に賑わい始めていた。
内輪、とは言うものの、顔が広く各方面に多くの人脈を持つ優作だ、知人を除いた友人だけでも百人近い招待客が集まっている。
これでもかなり絞ったというのだから、流石は世界的推理作家である。
主催者のひとりとして客に口上を述べて回っていたアランは、いよいよ今夜彼≠ノ会えるのだと、密かに胸を高鳴らせていた。
彼――工藤新一は、所謂アランの初恋の人≠セった。
一般に美形と呼ばれる工藤優作と、文句なしの美女である藤峰有希子の間に生まれた子供なのだから、顔の造作に関して非の打ち所がないのは当然なのだろうが……
姿形ではない。もっと深い、彼の本質とも言うべきものに魅了されたのだ。
初めて彼と会った十二年前、ただでさえ実年齢より幼く見える東洋人で、その上中性的な顔をした新一を、アランは少女と勘違いした。
紹介されてすぐに男であることを知ったが、まだ恋も愛も知らない子供に、性別など関係なかった。
一日にも満たない短い時間の中で、瞬く間に惹かれていった。
あれから十二年が経ち、常識もモラルも身につけた今は同性が恋愛対象にならないことをきちんと理解しているが、過去は過去だ。
あの時確かに新一に恋していたことを恥じたことは一度もない。
アランはただ、ただの友人で構わないから、彼との繋がりを断ちたくなかった。
その時、会場の入り口の辺りからざわめきが聞こえてきた。
おそらく主賓が到着したのだろう。
迎えは父に任せて招待客の接待に勤しんでいたアランだが、居ても立ってもいられずに、主賓、もとい新一を迎えようと小走りで入り口の方へ向かった。
――そこに、新一はいた。
十二年前と少しも変わらない涼しげな立ち姿。
成人前だというのに男性特有のむさ苦しさなど欠片も感じさせない、それでいて女性のような円かさや艶やかさとは無縁の、無性的な顔立ち。
漆黒のタキシードに身を包み凛と佇む姿は、思い描いていた以上に格好いい。
自慢の友人だ。
けれどアランは、どうにも声を掛けることができずに立ち止まってしまった。
そしてそれはアランばかりでなく、他の招待客たちも言葉を忘れ、彼と彼を取り巻く者たちに魅入っていた。
今日のパーティの主賓である工藤優作とその妻有希子、そして息子である新一を取り囲むようにしてずらりと並んでいる五人の男女。
深紅のマーメイドドレスを纏った栗色の髪の美女は、笑みの欠片もない、北欧の冬を思い起こさせるアイリッシュ・グレーの瞳でつまらなさそうに一瞥を向けている。
それとは対照的に、彼女の隣に立つ豪勢な金髪を無造作に背中に流した長身の美女は、ざっくりと背中の開いた漆黒のホールタードレスを纏い、面白そうに会場を見渡している。
アイザックと談笑を交わす優作の隣、有希子と並んでいるのは、金髪碧眼の愛らしい少女を抱きかかえたとても背の高い東洋人の男性だ。
遠目にも分かるほど整った顔に、均整の取れた体。
スーツ越しにも分かる鍛え上げられた胸に、軽く力を込めれば壊れてしまいそうな少女を抱き上げた姿は、ひどくアンバランスだった。
そして一際人目を惹くのは、工藤新一の隣に立つ、彼と瓜二つの少年。
確か、黒羽快斗といったか。
彼とは対照的な純白のタキシードに身を包みながら、彼にも劣らない独特の空気を放っていた。
彼と同じく中性的な顔立ちは、けれど涼しげな彼とは全く異なる激しさを孕んでいる。
工藤新一をひっそりと夜に輝く月と称するなら、彼はまるで全てを容赦なく照りつける太陽のようだ。
その、この世にふたつとない稀有なる芸術が、こうして並んでいる奇跡。
まるでその一角だけがこの世から切り離されてしまったかのような錯覚に陥り、アランを含む誰ひとりとしてその錯覚から抜け出すことができずにいた。
「やあ、アラン君。この度はお招き頂き、どうも有り難う」
と、未だ夢から覚めやらぬアランに、優作がなんでもないように声を掛けてくれた。
おかげで硬直の解けたアランは、どことなく浮ついた気持ちのまま漸く現れた主賓に笑顔で右手を差し出した。
「こちらこそ、お忙しい中いらして下さって有り難う御座います。ノミネートされた作品、あまりに巧妙なトリックで、もう三回は読ませて頂きましたよ。流石は優作さんです」
「いやいや、まだノミネートされただけだからね。受賞する前に賛辞を頂くわけにはいかないよ」
はは、と笑って手を握り返す優作にアランも思わずくすりと笑ってしまう。
その隣の有希子も笑顔でアランを迎えてくれた。
「久しぶりね、アラン君」
「はい。先日は有希子さんとお会いできなくて残念でした」
「ふふ。男の子って、ちょっと見ない間にすぐ大きくなっちゃうんだから」
同じロサンゼルスに住んでいるといっても、ここはカリフォルニア最大の都市だ。
その上、大学に通いながら父親の事業を手伝っているアランはとても多忙で、こうしたパーティやセレモニーの席でならまだしも、プライベートで顔を合わせる機会は滅多にない。
有希子と会うのは実に一年ぶりだった。
「それから、これが息子の新一よ。十二年ぶりだけど覚えてるかしら?」
と、黒いタキシードを着た少年が母に背を押され一歩前へと歩み出る。
――新一だ。
アランは緊張のあまり自分の心臓が早鐘のように鼓動を打つのを感じながら、精一杯普通を装って新一に右手を差し出した。
「こんばんは。改めて自己紹介しておくよ。アラン・アシュフォードです、宜しく」
「どうも、工藤新一です」
何かを思い出そうとしているのか、新一はアランを見て少しだけ目を眇めた。
もしかして自分を思い出してくれるのだろうか、そんな期待も虚しく、新一は昔より余所余所しい仕草でアランの手を握り返しただけだった。
予想していたことではあるけれど、やはり自分のことを忘れられていることに少なからぬショックを受けつつも、アランは会場の中へと一行を案内した。
「もう皆さん大方集まられてます。六時になりましたら父が挨拶を行いますので、優作さんにはその時に何かお話し頂いても宜しいですか?」
「ああ、アイザックから聞いたよ。大したことも言えないが、折角集まってくれたんだ。ぜひ喋らせて頂くよ」
「有り難う御座います。立食ですので、どうぞ皆さんおくつろぎ下さい」
中へと進めば、それまで遠巻きに眺めていた招待客たちに、主賓である優作はあっという間に囲まれてしまった。
ナイトバロニスとしてアメリカのお茶の間を賑わせている有希子も、ファンや友人に囲まれて楽しそうに笑い声を立てている。
付き添いとしてやって来た基本的に部外者であるはずの志保やベルモットまでもが囲まれているのは、おそらく彼女たちの美貌が芸術方面の職に就いている者にとっては恰好の餌だったからだろう。
無駄に大げさな口上とともに繰り出される名刺攻撃にも慣れたベルモットは爪の先で軽くあしらい、志保は氷の視線で有無を言わせず黙らせていた。
中身はどうあれ黙って立っていればいい男に違いない白牙と、同じく黙っていれば上流階級で育った箱入り娘にしか見えないメイは、ご婦人方の妙な迫力の前に四苦八苦している。
そして当の新一はと言えば――
「薄情な奴だな、シン! 日本に行ったきり連絡も寄越さないで!」
「ニュース見てましたよ。世界で大活躍の名探偵!」
「最近は見ないけど、もう探偵はやめちゃったの?」
ロスに住んでいた頃の友人の質問攻めに、ただただ苦笑を返すばかりだった。
「悪かったよ、フランク。俺がずぼらなのはよく知ってるだろ? それに世界≠ヘ言い過ぎだ、リチャード。海外の事件なんて数える程しか扱ってねーよ。それから、キャシー、この俺が探偵を辞めると本気で思ってんのか?」
みんな数年ぶりとは言っても、中身は全然変わっていない新一に嬉しそうに笑みを浮かべている。
そこに入っていけない自分にアランは一抹の寂しさを感じていた。
新一には十二年前にアランと知り合った記憶がない。
アランを襲った強盗団からアランを救い、その時に頭を打って記憶を失ってしまったのだ。
その時のことをアランは鮮明に覚えている。
機関銃を手にした男たちにあっという間に邸内を占拠され、アランは人質として男のひとりに拘束されてしまった。
まだ十歳の子供が鍛え上げられた肉体を持った大人の男に敵うはずもなく、何の抵抗もできずに男の腕の中で震えていることしかできなかった。
警備隊が突入してくるまでの数時間が永遠のように思えた。
――その時。
ふと見上げた視線の先、通風口から小さな顔をひょっこり覗かせた新一と目が合った。
手に手に銃を持った全身黒尽くめの男たちによって作り出された重苦しい空気の中、そこだけが別世界のように浮き上がっている。
アランは驚きのあまり声を出すこともできなかった。
そんなアランに向かって新一は――笑ったのだ。
まだたった六歳の少年が。
機関銃を構える男たちを前に、まるで何ひとつ不安に感じることなどないとでも言うように毅然と、そして悠然と。
あの時から、新一はアランにとってのヒーローだった。
けれど、どれほど彼に感謝していようと、新一にはアランを救ってくれた記憶がないのだ。
あの感動を共有できないことが、少しだけ寂しい。
「――アラン」
と、いつの間にか友人たちの相手を快斗に任せたらしい新一が、アランを静かに見つめていた。
彼の口から紡がれた自分の名前。
そんな些細なことがどうしようもなく嬉しくて、アランは微かに頬を紅潮させた。
けれど新一は微笑むどころか、なぜかひどく真剣な顔で言った。
「十二年前のことで聞きたいことがあるんだ。…教えて、貰えるだろうか」
目を瞠るアランの奥で、快斗の双眸が鋭く光った。
* * *
優作のスピーチが終わった後、アランの付き人だという男の案内のもと、アランと新一、快斗、それになぜか有希子とメイは、会場の近くの別室へと移動していた。
主賓である優作は流石に抜けることができず、代わりに有希子がついてきたのだが……
十二年前のことについて聞きたいという新一に全てを話すことを優作は許した。
最初は戸惑っていたアランも、新一が自分との記憶を思い出してくれればと、こうして場所を移したのだった。
「――そうか。それで俺は記憶を飛ばしちまったわけか…」
アランと有希子の二人がそれぞれの視点から過去の出来事を語っている間、熱心に耳を傾けていた新一は、二人が全てを語り終わった時、複雑な表情で溜息を吐いた。
これが普通の子供であれば何という命知らずな行動だろうと思うものの、我ながらその状況でその行動を取るであろう自分が容易に想像できてしまったのだ。
当時の優作が新一の入院の理由を「階段から落ちた」などと偽ったわけも、真相を隠匿するためだったのだろうと見当が付く。
けれど、全てを知った新一の顔は晴れなかった。
まだ記憶を取り戻したわけではない。
記憶の伴わない事実はただ知識として蓄積されただけだ。
それでは――駄目なのだ。
新一の焦燥は積もるばかりだった。
あの日、夢を見た。
夢の中、自分は確かに誰かを救おうとして泣いていた――瞳の中に命の炎を灯して。
そして新一は気付いてしまった。
それが夢などではなく、過去の記憶であることに。
なのに、新一の中にはその記憶がない。
誰を守りたかったのか、誰を救いたかったのか。それが分からない。
分からないことが、新一の心をひどく責め立てている。
何かとても大切なことだったような気がするのに。
「…ひとつ、教えてくれ」
静かに、けれど有無を言わせない口調で新一はアランに迫った。
「その時、俺は泣いてたか?」
「泣いて、って…?」
「貴方や、他の誰かが怪我をしたとか。銃撃戦になったってことは、死者が出たとか…」
「いや、あの手の事件にしては奇跡的に死者は出なかったし、新一のおかげで僕も無傷だった。…一番重傷だったのは、新一だよ」
当時のことを思い出しているのか、アランは辛そうに目を伏せた。
けれど新一にはそんな彼を気に掛ける余裕もなく、自分の思考に深く沈んでいった。
(彼が無傷だったということは、俺が救いたかったのは彼じゃないのか?)
不自然に欠けた記憶、そして面識があるはずなのに見たこともない友人。
てっきり彼が、あの夢に見た自分が救いたかった人なのかと思ったのだが、怪我を負っていなかったのなら治癒するために涙を流す必要はない。
では、自分は一体誰の傷を癒したかったのか。
思い出せない自分が悔しくて、苛立ちを紛らわすように髪をくしゃりと掴みながら唇を噛み締めた。
「――新一」
と、いつの間にか背後に立っていた快斗が、背中から肩に腕を回して抱き寄せた。
すっかり体に馴染んだ気配は新一の研ぎ澄まされた感覚を乱すことなく、むしろそれを包み込むような優しさを以て、高揚した心を静めてくれる。
新一は暫くの間静かに自分を見つめてくる瞳を見返していたが、やがて気持ちを落ち着けるように浅く息を吐いた。
「悪ぃ、快斗…」
「いや。無理してるんじゃないかと思って。どうしても思い出さなきゃいけないことなのか?」
「…ああ…」
今更快斗を相手に虚勢を張る意味もないだろうと、新一は素直に頷いた。
その必死な様子から、ここ数日新一が何を思い悩んでいたのか、快斗も察している。
その目的が欠落した記憶を補完することなのか、それともそれを補完することによって別の何かを知りたいのかは分からなかったけれど。
一方、眼前で親しそうに寄り添う二人を見て、アランは軽く混乱していた。
会場に現れた時から常に新一の傍にいる少年。
確か優作の友人の息子で、特別血縁関係があるわけではないという話だったが……
彼らがどういう関係なのか、アランには巧く掴めずにいた。
最初はただの友人かと思っていた。
新一と同じ別荘に住まい、彼の父親のために開かれたパーティに揃って出席するくらい、家族ぐるみで親しく付き合っている友人なのだろう、と。
けれど、彼らがこの会場に足を踏み入れた時、気付いたのだ。
まるで工藤家の人たちを――いや、あれはただ新一を守るように、その周りを五人の男女がぐるりと固めていた。
談笑を交わしながら、招待客に囲まれながら、会場の端に佇みながら。
彼らの双眸は全て新一へと注がれていた。
そして――常に新一の傍らに立つこの少年。
彼に肩を抱かれた新一は、まるで無防備にその背を彼へと預けている。
心の底から信頼している様子が滲み出ている。
友人よりも深い、いや、もしかしたら血の繋がりや恋人などよりもずっと深い繋がりがあるのかも知れない。
二人の間にはアランは勿論、あの工藤夫妻でさえ入り込めない空気があるような気がした。
「――ミスター・アシュフォード」
と、その時、背後から声を掛けられ、アランは慌てて振り返った。
そこには先程この部屋まで自分たちを案内した、先月からアランの付き人として従事している男が無表情で立っていた。
「何ですか、ディオ?」
「そろそろ約束のものを渡された方が宜しいのでは?」
約束のものと言われ、アランは優作から頼まれていた宝石のことを思い出した。
新一と会える緊張やら興奮やらですっかり失念していた。
「そうですね。えっと…どこにやったかな…」
「ここにありますよ」
あたふたと辺りを見渡していると、自分と違ってしっかり者の付き人ディオが小さな木箱をすっと取り出した。
アランは自分の失態を誤魔化すように苦笑しながらそれを――月下白を受け取った。
この宝石をアランはとても気に入っていた。
不思議な銀色の光を称えたこの宝石を見ていると、なぜか胸が熱くなるような気がした。
アシュフォードの長子として芸術も嗜むアランの部屋には絵画や彫刻なども飾られているけれど、この宝石は特別だ。
管理や保存には充分気を付けながら、それでも目に見える場所から決して動かそうとしなかった。
それほど気に入っていたのだ。
その宝石をこうして譲渡することに納得したわけは、他ならぬ新一がこの宝石を必要としていると知ったからだった。
彼が望むなら、そしてそれが自分に叶えてあげられることなら、アランは自分の持てる力の限りでその望みを叶えてあげたいと思ってきた。
彼に守られ、彼に救われた命だ。
だから、それに報いられる「何か」を彼にしてあげたかった。
だから、この宝石を喜んで彼に贈ろうと思った。
ただ、彼の喜ぶ顔が見たくて。
けれど、アランが意気揚々と声を掛けようと口を開いた瞬間――
全ての照明が、落ちた。
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急展開――のはずが。
急展開は最後の一文だけになっちゃいました。アレ?
まあこのお話の最後の舞台にまでは辿り着けましたので!
次からアクションです。
うわー久々だ! 書けるかな、アクション!
08.06.19.