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...黄昏時の蜃気楼...
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 だんだんと沈んでいく夕日を見つめていた少女がぽつりと溜息を吐く。
 その身に纏う衣装は美しく鮮やかで、ただでさえ凛とした美貌を持つ彼女の存在を更に彩っていた。
 蒼や緑の絹糸が可憐な花を本物と見紛うほど繊細に描き出し、散りばめられた細かな宝石が幻想的な輝きを放つ。
 どこから見ても“姫”と呼ばれるに相応しい少女。
 けれど、その顔に浮かぶのはどこまでも哀しげな憂いばかりだ。

「姫さま。あまりお体を冷やされてはお体に毒ですよ?」

 黒い制服をびしりと着こなした栗色の髪の長身の男が、窘めるようにそう言った。
 片時も目を離さないようにと目を光らせる彼だったが、けれど振り返った彼女の顔を見て思わず息を呑む。

「…お気を遣わずとも、逃げませんよ。」

 口許にそっと浮かべられた微笑が、どうしようもなく切なくさせる。
 男は思わず、これが仕事と知りつつも居たたまれなくなって目を伏せた。
 彼女の哀しみはわからなくもない。
 けれど、この国のためを思えば、致し方ないのだと自分に言い聞かせるしかないのも事実。

 再び外へと向けられた眼差しが何を見るのか
――――――






 その、ほぼ同時刻。
 オレンジ色からだんだんと紫色へと変わり始めた空の下、快斗はとぼとぼと人混みを掻き分けて歩いていた。

 あれから5日が過ぎた。
 シンとの夢のような出逢いから5日、快斗は彼を捜すともなく捜している。
 あの時は、沈みゆく夕日が見せた蜃気楼かと本気で哀しんだけれど、それでもこの胸の高鳴りは本物であったはずだ。
 掴んだ手も、抱き締めた体も、何もかもしっかりとした暖かさを持っていた。
 幻ではないのだと体が覚えている。
 だから余計、態度の急変してしまったシンのことが気掛かりで、諦めることが出来ずにいた。

「…ただいま。」

 塒にしている廃墟へと足を踏み入れながら快斗が呟くように言う。
 入り口には戸らしきものはなく、ただの布で雨風を凌いでいるだけだ。
 それでも屋根があるだけ有り難いと思えてしまうあたり、遊郭のような暮らしが板に付いているらしい。

「おかえりなさい。収穫はあったのかしら?」

 と、相棒の少女からの声が返って、快斗は苦笑を浮かべながら首を横に振った。

「いや、残念ながら。」
「…それはどっちのことを言ってるの?」
「どっちもだよ。」

 そう言ってゴロンと横になると、少女はそれ以上は口を開こうとしない。
 珍しくも落ち込みが顔に出ている自分に気を遣ってくれてるのだろうかと、そんな彼女のちょっとした優しさに快斗はこっそり微笑んだ。

「流れてる噂の真偽については確かめようがないみたい。大抵の奴は知ってるけど、どいつもこいつもその噂の出所は知らないって言うし。」
「そう…。一週間駆けずり回って収穫なしじゃ、そろそろ潮時かもね。」
「うん。」

 寝転がったまま頷いて、灯篭の微かな光の中で本を読んでいる彼女に向き直る。
 幼い、まだ10にも満たないような少女。
 赤みがかった茶髪にはふわりとしたウェーブがかかり、子供とは思えない知的な瞳は鋭く冴えている。
 暗闇の中でもそうと解るほどに白い肌に、薄い桃色の唇。
 どこをとっても、まるで“彼女”とそっくりな容貌。
 ……この国の“姫”と。
 ただひとつ違うのはその年齢だが、グレーの双眸がその幼さの全てを裏切っていた。

「…哀ちゃんさ。ほんとは志保って言うんでしょ。」

 快斗の言葉にぴくり、と哀の肩が揺れた。
 それからチロリと感情のこもらない瞳が見つめてくるが、快斗はそれを綺麗に受け流す。
 哀ももとより承知のことなのか、ふうとひとつ溜息を吐くと。

「…そうよ。この国に来てバレないはずがないわよね。」
「うん。お姫様の肖像画、哀ちゃんにそっくりなんだもん。吃驚したよ。」
「そうでしょうね。」
「でも、それより吃驚したのは――――――

 寝転がらせていた体を起きあがらせて、快斗は哀の瞳を正面からのぞきこんだ。
 時々自分以上にポーカーフェイスが巧いんじゃないかと思う少女が、けれど今は固い表情をしている。

「哀ちゃんがここに居るのに、なんで志保さまがほかに居るの?」

 快斗の糾弾するかのような瞳に耐えかねて、哀が僅かに目を伏せる。

「…私にも解らないわ。ただ解るのは、…彼女が居るなら私は必要ないかも知れない、ということだけよ。」

 悔しげに唇を噛みしめる哀。
 快斗はなにやら複雑そうな事情にただ肩を竦めることしかできない。



 快斗と哀は、快斗が気紛れにあちこちの国を渡り歩いている時にたまたま出会ったのだ。
 出会ったのはすでに3年も前になる。
 その時快斗は14歳だったが、不思議なことに哀の体は3年前から少しも成長していない。
 けれどそれに快斗が驚くことはなかった。
 ある程度の事情を聞いていたし、彼女のために快斗はもうひとつの仮面をかぶることで協力してもいる。
 確保不能、正体不明の盗賊――――――“怪盗KID”として。

 哀は3年前、ある不思議な宝石を手にした瞬間、突然体が縮んだのだと言う。
 何が何だか解らず、その宝石を幾ら調べてみても体は元に戻らなくて、このままここにいることは出来ないと哀は一も二もなく国を飛び出した。
 最初は半信半疑だった快斗も、7歳前後の子供にしてはしっかりした口調や驚くほどの知識量に信じざるを得なかったのだ。
 そして、何とか元の姿を取り戻そうとする彼女を放っておけずに、身軽な体を生かして盗賊の仮面を被った。
 色んな国を回ってはそれらしい噂に飛びつき、哀の体を戻すために曰く付きの宝石やら聖水やら指輪やら、あらゆるものを盗んで回って。
 けれどこの3年、それらしい成果はひとつも上げられずにいた。

 今まで快斗は敢えて詳しい事情を聞こうとはしなかったのだ。
 言いたくないことのひとつやふたつあるのは当然、と……
 けれど、まさか哀が姫であるとは。



「私が失踪した後、この国のことを気に掛けていたわ。父さまや母さまが心配していないか、国が騒ぎになっていないか…
 だけど、姫が失踪した、なんて情報はひとつも入ってこなかったの。
 それどころか、私が失踪した1ヶ月後に行われた私の生誕際には、私そっくりの“姫”がしっかりと出席してくれていたらしいわ。」

 哀が皮肉げに口端を持ち上げるのを、快斗は複雑な心境で見守る。
 哀の―――志保の偽物は、何の意図があってそこにいるのか。
 姫に成り代わろうと、不思議な宝石を使って志保の体を縮めたのか。
 それとも、突然いなくなった姫について騒ぎになってはならないと、偽物の姫が創り上げられたのか。

 けれどそれは、今こうして考えていても埒のあかないことだから。

「…確かめに行こうよ。」
「え?」
「今、噂になってる“望みを叶えてくれる宝石”ってやつの真偽と“偽物のお姫さまの正体”ってやつをさ。」

 どうせ今回の標的は王宮にあるのだ。
 その宝石を手に入れるついでに、彼女の正体を暴いてみるのも一興だろう?

「黒羽君…」
「だから、今回は君も一緒に行こう。…“志保”ちゃん。」

 微笑みながらしっかりと呼ばれた真実の名前。
 混乱を起こしてはならないと、灰原哀と名前を偽っていた。
 もしかしたら、もう呼ばれることはないのかも知れないとまで思っていたのに――――――

「…ありがとう。」

 そう言った哀もまた、久々に見せる微笑みを浮かべていた。






* * *






 カツン、と響いた虫の吐息ほどに微かな音。
 開け放たれた窓からはやわらかな月の光とひやりとした夜風が迷い込む。
 それとともに舞い降りた白い鳥は、カスミ色の薄い帳の向こうで寝息を立てているだろう“姫”の様子を伺った。
 今夜に限り同行している哀は素早くその腕から降りると、部屋の隅にある物陰へと隠れる。
 快斗はと言うと、いくらここが王宮の中心部だからとは言え、まるで無意味な警備に思わず舌を巻いていた。
 空を飛ぶ賊がいることを、知らないのだろうか…?

 マントにシルクハットにタキシード。
 全てが純白なそれは、この国ではまず見ることなどない異色な格好だったが、これ以上ない程彼に似合っている。
 確保不能、正体不明の盗賊、怪盗KID。
 それが今の快斗だった。
 快斗はこの衣装を纏った時だけ、普段からは考えられないほど慇懃な態度と紳士な口調の、全くの別人へとなりきる。
 それは正体をばらさないための手段だ。

 そっと、帳の奧に眠る“姫”へと近づく。
 彼女の正体を探るのも今夜の仕事のうちのひとつだ。
 うまくいけば噂の真偽も彼女を問いつめることで解るかも知れないし、もし騒ごうとするなら哀の調合した眠り薬を嗅いで貰うまで。
 そう思い、紗の帳へとそっと手を伸ばした快斗だったが……


「…思ったより、遅いお越しでしたね。」


 寝ているとばかり思っていた人から、寝起きとは思えないしっかりとした声を掛けられ、快斗は無表情の奧で思い切り驚いた。
 キシ…とベッドが軋み、帳の奧で人の起きあがる気配がする。
 快斗は咄嗟に身構えるが、彼女はただ起きあがっただけでそれ以上動こうとはしなかった。
 僅かに跳ね上がった鼓動を意志の力で静めながら快斗が言う。

「私の来訪を予想してらしたのですか?」
「お待ち、してました。」
「…なぜ?」

 快斗は躊躇いつつも、彼女との境界線であった帳を取り払う。
 と、顕わになったその姿に思わず息を呑んでいた。

 重ねられたクッションに悠々と背を預けながら片膝を立て、その上に気怠げに片手を預けた、その姿。
 眠っていたからだろうか、少し乱れた長い栗色の髪がパラパラと胸元にかかり……

 じっと。
 逸らされることなく、真っ直ぐに射抜く、双眸。
 月の光を正面から受けたその瞳は、ハッと息を呑むほどの強い輝きを放って。
 寝間着ですら極上の絹で作られた衣装など、まるで彼女を引き立てる装飾でしかなかった。

「噂を流せば、きっと来て下さるだろうと思っていたから。」

 その台詞に、更なる驚愕を強いられる。

「あの噂はあなたが流したと…?」
「ええ、その通り。」

 にこりと口許が微笑みの形を象る。
 けれどそれは彼女のポーカーフェイスなのだろう、まるでサファイアのように硬質なその印象を和らげることはなかった。

 この少女はいったい何者なのだろうか。
 志保を罠に陥れたのか、それとも変わりを演じさせられているのか。
 ここに来るまで、快斗は後者だと思っていた。
 所詮偽物は偽物、付け焼き刃で“姫”になどなったところで、どこかで装いきれないボロが出てくるものだ、と。
 けれどそう思うには、目の前の少女はあまりにも王女の品格を備えすぎていた。

 混乱を隠しきれない快斗に、けれど少女は何の感慨を示すこともなく言葉を続ける。

「3年くらい前、ですね…あなたの噂を初めて耳にしたのは。
 確保不能、正体不明の盗賊。どんな警備もものともせず、どんな些細な血も流さず、神出鬼没に盗んでいく――――――“曰く付き”のものばかりを。」
「…よくご存知ですね。」
「まだまだ知ってます。たとえば、その物陰に隠れている少女のことだとか。
 ……その少女が本物の“姫”であることとか、ね。」

 不適な笑みを刻む彼女に、快斗は背筋にゾクリと何かが走り抜けるのを感じた。
 ただ体で感じる……違う、と。
 この少女は何かが違う。
 見た目に騙されてはいけない、それだけではない何かがある。
 この瞳を見つめていると……


「…私のこともバレていたの。」

 と、それまで衝立の向こうへと隠れていた哀が姿を現した。
 すでにバレているというなら、隠れていても意味がない。
 いざとなればこちらには眠り薬があるのだと、腹を括ったのだが。

 予想外にも志保の姿をした少女は、嬉しそうににこりと笑うのだった。

「怪盗の狙うものが“曰く付き”だということから、“姫”が一緒にいるだろうことは予想してましたよ。」
「なぜ?どうして解ったの?」
「簡単なこと…“姫”の失踪した日、騒ぎになった王宮内で見つけた“宝石”。それが気になり、この3年の間、私なりに調べた。
 そうして三千年ほど前の文献に渡り、解読までした結果、漸く答えを見つけた。」

 そう言って、彼女はクッションの下からひとつの宝石を取り出した。
 赤い光を放つ大粒の宝石。
 哀の目が驚きに見開かれた。

「それ、は…!」
「そう。あなたの体を縮めた宝石です。」

 彼女はそれをまるで石ころのようにこちらに放り投げる。
 快斗はパシッと受け取ると、なんとはなしに月に翳しかけ――――――

「…やめた方が良いですよ。次の十六夜まで、あなたも時間を奪われることになる。」
「!?」

 慌ててその手を止める。
 快斗は手の中で怪しく光る宝石をまじまじと見つめた。
 いっそ毒々しいまでに輝くその宝石は、まるで艶やかに笑う娼婦のように人の心を魅了して離さない。

「その宝石は封印されていたもの。いつの間にかその封が解かれ、たまたま姫がそれを手に入れ、月に翳したんでしょう。…時間を奪われるとも知らずに。」
「それじゃあ、私はこの宝石に時間を奪われたというの?」
「文献によれば、ね。そのために封印されていた。」
「でも、じゃあ……“望みを叶える宝石”とはどういう意味なの?」

 縋るように問いかける哀に、彼女はにっこりと笑いながら言った。

「姫の時間を取り戻してくれるのもまた、その宝石だと言うことです。」
「…十六夜、ですね?」
「ええ。十六夜の月に翳せば、石は涙を流す。その涙を飲めば姫は元の体に戻れる。」

 文献に記されていたのは、奇跡の石“メモリー・ストーン”について。
 その石は、人が忘れかけている大切な何か、子供の頃には感じることの出来た大切な何かを思い出すために、太古の魔女が作ったのだとか。
 出自については定かではないけれど、3年を費やして解読した古代文字にはしっかりとそう書かれていた。
 つまり、哀は、次の十六夜には元の姿を取り戻すことが出来るのだ。
 姫である志保の姿を。

「…なぜ、あなたはそれを私に教えてくれるの?私が戻らなければ、あなたはずっと“姫”でいられたはずなのに…」

 けれど歓びと同時に沸き起こる疑問を打ち消すことが出来ずに、哀は静かに問いかけた。
 すると。


――――――俺が“姫”なんて柄か?」


 ガラリと変わった口調に、快斗は三度驚愕する。
 ……今度はポーカーフェイスで隠すことも出来ずに、驚くままに瞠目してしまったけれど。

 志保の顔をした彼女はニッ、と不適に笑んで見せて。
 腰にまで届こうかという長い髪を無造作に掴むと、躊躇いもなくそれを取り外す。
 現われたのは、明るい栗色の髪とは対象的な、漆黒の艶髪……

「いい加減、姫の代役も御免被りたいね。王宮の暮らしなんざ窮屈なことこの上ないぜ…」

 その真っ直ぐな瞳だけが、変わらずそこにあって。
 5日前と少しも変わらない――――――シン。

「工藤君!?なんであなたが…っ」
「知るかよ。国王が、お前の代役は俺にしかできねぇとかなんとか訳のわかんねぇこと言いやがったんだよ。」

 なんで男が姫の代役など…と思えなくもないが、けれど哀は納得してしまう。
 この男なら、確かに姫だろうが王子だろうが、あまつさえ国王であろうと演じきってしまえるだろうことを。
 生まれながらに持ち合わせた美貌と品位はもちろん、度胸も超一級品。
 冴え渡る慧眼には見抜けないことなどないのではないかと思えるほど。
 少々鈍いところが玉に瑕でもあるが……
 志保の親戚で幼馴染みであるシンこと工藤新一だからこそ、3年もの間巧く周囲を騙して“姫”を演じきることが出来たのだろう。

 さすが国王、絶妙な人選だなどと呆然とした頭で考えていると、快斗がおもむろに動いた。

――――――っ!!!」
「ぉわっ」

 勢いよく、飛びつくようにして新一を抱き締める。
 突然のことに思わず素っ頓狂な声を上げた新一が、訳が解らないとその腕から抜け出そうと藻掻くが……


「シン…っ」


 今にも張り切れてしまいそうな掠れた声が、切ないまでの想いの込もった声が、聞こえて。
 眼前にあるモノクル越しの瞳の正体に気付き、驚いたのも束の間。
 新一は抵抗も忘れ、伸ばした手でその顔を隠すモノクルとハットを取り払った。

「カイ…お前…」
「漸く見つけた、シン…!」
「…捜して、くれたのか?」
「当たり前じゃん!5日間、一瞬だって忘れてねぇよ!シンのばかやろぉ〜っ」
「カイ…」

 漸く見つけたというのに、未だ名前で呼んでくれない彼を、快斗はジロッと睨み付ける。

「…快斗!俺の名前、…呼んでよ…」

 その声も最後は尻切れになってしまったけれど、それでも新一には伝わったようで。

「………快、斗。」

 紡がれた自分の名前に、快斗は満足げな笑みを浮かべた。

「シンの訳ありってこういうことだったんだね。俺のはもう解ると思うけど、俺がキッドだったってことなんだ…」
「………
て、べよ。
「え?」

「だからっ。俺のことも、…新一って呼べよ!」

 唇を尖らせながらジロリと睨み付けてくる人に、快斗は自然と綻んでしまう口許をどうする術も持たなかった。
 あの時、なぜ新一が逃げたのか。
 王宮の衛兵に追いかけられていたところを見ると、大方脱走でもしたのだろう。
 本名を告げた快斗に態度を急変させたのは、自分の立場を思い出したからだろうか。
 …その彼がこうして本名を教えてくれたことに、この上ない歓びを感じる。

 どうしようもないほどに気持ちが膨れあがり、その想いに逆らうことなく快斗は再び新一を抱き締め……
 呆れたような哀の声に、そっくりな顔がそっくりな仕草で振り返った。

「…まったく、良い趣味してるわね。黒羽君の思い人が工藤君だったとは…」

 その呆れたような声とは裏腹な、嬉しそうな笑顔。
 哀は、この数日の快斗のひどい落ち込みようを間近で見ていたのだ。
 どれほどに“思い人”を想っていたのか、誰よりも知っているのは哀である。
 その彼の思い人が見つかって。
 自分の体も元に戻れるのだと解って。
 3年もの長い苦しみがこんな形で結末を迎えるなら、それまでの道程も悪くないと、思えた。



「とにかく、これで俺は晴れて自由って訳だ。」
「あ、志保ちゃんが元に戻れるってことはキッドももう要らないよな?」

 きょとん、と向き合って。
 偽りの名前で欺く必要はもうないのだと気付くと、快斗と新一も、それはそれは嬉しそうな笑顔を浮かべたのだった。

「これで俺は堂々と新一を口説けるってわけだ。」
「…そんな簡単にオトせると思うなよ。」
「良いよ。絶対に諦めないから、そんなの関係ないね。」
「………バーカ。」

 くすくす笑う新一が、決して嫌がってはいないと知る哀は、こっそりとこの先の彼らの行き着く先に苦笑して。
 “夢を叶えてくれる宝石”を手に、ふと思いついたことを聞いてみた。

「ねぇ、ふたりとも。私を助けてくれたお礼に、この宮に住まない?もう食べ物に困ることも寝る場所に困ることもないわよ?」

 それに、何より。
 貴方達と一緒にいると、飽きなくて楽しそうだもの。

 すでに王女の顔を取り戻した少女が不適に笑ってそう言うのへ、けれどふたりは首を横に振るのだ。

「冗談!こんな窮屈な暮らし、俺には向いてないよ!」
「同感だぜ。もっと戒律を緩めるってんなら、遊びにくらいは来てやるけどな。」

 俺たちには何より、何にも縛られない自由な暮らしが似合っているんだ、と。
 似た顔で、けれどまったく違った笑みを浮かべる彼ら。

 それぞれに偽りの仮面を被り周りを欺いていた3人は、漸くその仮面から解放されたのだった。












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えぇと;; 大した話でもないのに随分と引っ張ってしまってごめんなさい(>_<)
と言うわけで、一部の方に漏らしていた「クロキ的萌えシーン」は、
新一が女装を解いて快斗のハートを鷲掴み!(爆死)のシーンでしたvv
え?だめ? ……やっぱり私の萌えどころってオカシイですか?笑
えぇもう自覚はあるんでほっといてクダサイ…(泣)

何はともあれ、10万打という夢みたいな数字をどうも有り難う御座いました!!
まだまだ夢を見させてもらってても良いかな?と思いつつ。
これからももそもそと駄文&打絵を描かせて頂こうかと思います。
応援してやろう!という素敵で無敵なお嬢さん、宜しくお願いしますvv
日頃このサイトに遊びに来て下さる方々へ、感謝を込めて。