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-逆さ吊りの神-




















 世界的な大富豪である工藤優作氏は、五年前の航空機失踪事件を機に、長らく暮らしていたロサンゼルスの邸宅を離れ、妻の有希子とともにここ、日本の米花町に戻っていた。
 世界政府公認である極秘組織の運営資金の半分を賄えるほどの大富豪なのだから、さぞや素晴らしい豪邸に住んでいるものと思いきや、意外にも工藤邸は質素で素朴な屋敷だった。
 そもそも米花町といえば、確かに高所得者が住む高級住宅街ではあるが、工藤優作ほどの大富豪の豪邸を建てるには不似合いな場所である。
 そう考えれば、決して小さくはないが広すぎず派手すぎないこの屋敷は、この米花によく馴染んでいた。
 しかも見た目が質素なだけで、中にはとんでもないセキュリティが整えられている。
 今思えば、コナンはあの時自宅へ戻ろうとしていたのだろう。
 まだコナンが昏睡状態だった時、コナンと遭遇した米花町近辺の捜査は真っ先に行われたが、コナンに該当する子供の存在も失踪届や捜索願の類もなかったため、早々に捜査対象から外れてしまったのだ。
 よもや十七歳の少年が七歳の子供になっているなどとは誰も考えつかなかったし、肝心の〝工藤新一〟が関わった航空機失踪事件に関する資料は第一級機密指定文書扱いだったのだから、志保がコナンの正体に辿り着けなかったのは仕方のないことだった。

 快斗は擬態化を解くと、眼前の屋敷を仰いだ。
 ここに、コナンの両親がいる。

 彼らを訪ねることは、快斗にとって少なからず勇気のいることだった。
 肉親を失う悲しみは身を以て知る快斗だ。一人息子の失踪に彼らがどれほど心を痛めているか、想像に難くない。
 しかし、こうして訪ねたからといってコナンの居場所を――工藤新一の無事を知らせることはできないのだ。
 後援者とはいえ地上で暮らす彼らは一般人であり、能力者、それも組織が関わっている以上、彼らの安全のためにも情報は漏らせない。
 なにより、万が一にも彼らの口からコナンの正体がWGOの上層部に漏れ、コナンと引き離されるようなことになるかと思えば、怖くてとても教えることなどできない。
 結局は自分の身可愛さで口を閉ざすのだ。
 罪悪感が胸の内に痼るのを感じながらも、快斗は思い切ってインターホンを押した。

『――はい』

 応答した声は女性のものだった。
 この質素な屋敷から想像するに、もしかしたら工藤夫人その人かも知れない。

「あの、突然すみません。工藤優作さんにお尋ねしたいことがあって伺ったんですが、ご在宅でしょうか?」
『優作に? えーと、どちら様かしら?』

 名を呼び捨てたということは、やはり工藤夫人だったらしい。
 快斗は僅かに逡巡した後、

「……黒羽と、申します」

 とだけ告げた。
 ここにはWGOの特務捜査官としてではなく、ただの黒羽快斗として赴いたのだ。

 と、インターホンがぶつりと切られたかと思うと、俄に屋敷の中が騒がしくなった。
 どたどたと走り回る音が聞こえ、壊れそうな勢いでドアが押し開けられる。
 現れたのは綺麗な女性だった。
 少しくせのあるくるくるした髪の毛が愛らしい、見た目には二十代とも思える佳人。
 工藤有希子だ。
 快斗は少しく緊張した。
 しかし快斗が何かを言う前に、有希子は歓声を上げながら駆け寄ってきた。

「快斗君? あなた、快斗君ね!? 盗一さんの息子さんの!?」
「えっ、は、はい!」

 勢いに飲まれて頷けば、有希子は目にも止まらぬ早さで快斗の手首をひっ掴み、問答無用で門の中へ――玄関の中へ――家の中へと連れ込んでしまった。
 つっかけを履いていた有希子は驀進の合間にも器用にそれを脱ぎ捨てていったが、快斗はあまりの勢いに靴を脱ぐ暇さえなかった。
 おかげで初めて訪問したお宅を土足で駆け抜けるはめになったのだが、抵抗していいのか分からず、そもそもどういう状況かも全く飲み込めないまま、快斗が連れてこられたのは書斎だった。
 床から天井までを埋め尽くす、一面の本。
 よくぞ一戸建ての邸内にこれだけの蔵書を集めたものだと、これだけの本に囲まれて育ったのならコナンの読書好きにも納得がいくと、思わず感心してしまう。

 その本の真中、妻の奇行にも眉ひとつ動かさず文机に優雅に腰かけていたこの家の主人は、飲んでいたコーヒーを置くと、そこで初めて顔を上げた。
 理知的な眼差しがよく似ている。
 口髭と眼鏡で誤魔化しているが、彼もまた実年齢よりずっと若く見える。
 彼こそがコナンの――工藤新一の父親だった。

「何ごとだい、有希子?」
「快斗君よ、優作! 盗一さんの息子さんの!」

 有希子に後ろから両肩を掴まれ、ずいと押し出され、快斗はされるがままに優作と対面した。
 近くで見ると迫力というか、どことなく威圧感がある人だ。
 快斗はこくりと喉を鳴らした。

「初めまして。黒羽快斗です」
「盗一の息子だって?」
「はい。……父を、ご存知なんですか?」

 WGOの後援者なのだからかつての長官を知っているのは当然だが、父を呼び捨てにするほど親しかったのかと、快斗は驚きを隠せなかった。
 すると優作はふと口元を緩め、笑みを浮かべた。

「彼とは学生時代からの付き合いでね。よく言えば友人だが、まあ、要するに腐れ縁だよ。いつも二人で悪巧みばかりしていたからね」

 快斗は意外そうに目を瞬いた。
 この如何にも紳士然とした男が「悪巧み」というのも想像つかないが、あの謹厳実直を絵に描いたような父もとなると、全く考えられない。
 しかし快斗が父と過ごした時間は少なかったし、息子と友人では見せる顔もまた違っていたのかも知れない。

「息子がいるとは聞いていたけど、こんなに大きくなっていたとはね……」

 盗一の姿を思い出しているのか、よく似ている、と優作は呟いた。
 父を失って苦しんだのは快斗だけではない。
 きっとこの男も父の死を悲しんでくれたのだろうと、快斗は感謝の気持ちを込めて小さく頭を下げた。

「それで、君は特務捜査官としてここに来たのかな? それとも他に何か知りたいことがあって、かな?」

 親子だからだろうか、コナンと同じように、優作の真っ直ぐな目にはまるで心の裡を見透かされているような心地になる。
 何か逆らいがたいものを感じ、快斗は素直に口を割った。

「WGOの人間としてではなく、僕個人の用件で伺いました。
 勝手なことをと、思われるかも知れません。理由はお話できないし、こちらから渡せる情報はなにひとつありません。それでも、どうか教えて欲しいんです。
 ――五年前に失踪した、工藤新一について」

 驚きに目を瞠る有希子に反し、優作はやはり眉ひとつ動かさなかった。



 とりあえず履いたままだった靴を玄関に並べ、快斗は優作に誘われて書斎からリビングへと場所を移した。
 何から話そうか。
 優作は写真立てに飾られていた写真を快斗に差し出すと、そう言ったきり暫し沈黙した。
 写真の中の少年はコナンよりもやや年上で、おそらく失踪する直前のものなのだろうと快斗は思った。
 ユニフォームを着て、サッカーゴールをバッグに誇らしげに笑っている。
 先日読んだ資料にはサッカーのジュニアチームに所属していたと載っていたから、いつかの試合で勝った時のものなのだろう。
 この写真のように屈託なく笑うコナンは見たことないが、やはりコナンが工藤新一であることは間違いない。

 やがて優作はぽつぽつと話し始めた。

「当時は私の仕事の都合で、新一はアメリカと日本を行ったり来たりしていてね。まだ小さな子供を一人にするわけにもいかなかったし、工藤家の子ともなればどんな不届き者が現れるとも限らないからと、私は常にあの子を連れ回していた。新一も分かってたんだろう、面倒そうではあったけど、文句も言わずに付き合ってくれていたよ」

 優作はWGOの後援者である前に、世界的大富豪たる工藤家の当主だ。
 現在もアメリカを中心に多くの事業を手がけており、財団を始め、研究施設や教育機関まで幅広く扱っている。
 地下に潜み存在を隠さなければならない能力者と違い、彼は積極的に人前に出ていかなければならなかった。
 幼いながらも聡明だった新一は父親の仕事がどんなものかよく理解していたし、その一人息子である自分がどういう存在かもまたよく理解していた。
 だからそんな生活も享受した。
 そうして過ごす内に、新一には自然とアメリカにも日本にもたくさんの友人ができた。

「あの日は、丁度学校が夏休みでね。アメリカでの仕事も一段落ついていたし、久々に日本に帰ろうということになった」

 だが、優作に急な仕事が入ってしまった。
 しかも間が悪いことに、翌日は日本で懇意にしていた友人の娘の誕生日だったのだ。
 だから、せめて息子だけでもと、新一だけで一足先に日本へ帰ることになった。
 ほんの一日だ。
 翌日の同じ時間の便で、優作と有希子も日本に帰るつもりだった。
 その、ほんの僅かな隙に。

「あの子は、消えてしまった……」

 そう言った優作の顔は穏やかだったけれど、どこか疲れていた。悔やんでいるようにも、悲しんでいるようにも見える。
 ただ、怒りは感じていないようだった。
 息子の失踪を仕方ないものと受け入れ、もう諦めてしまっている顔だった。

 ふと、この人はどこまで知っているのだろうかと疑問が湧く。
 あの事件に組織が関わっていることを知っているのだろうか。そもそも、組織の存在を知っているのだろうか。
 あれほど大掛かりで不可思議な事件だ、能力者が絡んでいることなど、優作ならすぐに思い至ったはずだ。
 それなら、WGOに対して何かしらの要請があってもおかしくない。
 いくら事件そのものが第一級機密指定だからといって、自分の息子を連れ去られて黙っていられる親がいるはずがない。

「まさか貴方は……息子さんが狙われていたことを知っていた……?」

 無意識に呟き、はたと気づく。
 ――特務捜査官としてここに来たのか、それとも他に何か知りたいことがあるのか。
 友人の息子が訪ねてきて口にする言葉にしては、少し不自然ではないか。
 快斗は優作に会ったことなどなかった。しかし優作は快斗の存在を知っていた。
 普通なら、父親の友人に息子が会いに行く理由はその「父親」に関することだと考えるのが自然だ。
 しかし、優作は言い切った。
 特務捜査官としてか、それとも、快斗個人で知りたいことがあるのか(、、、、、、、、、、、、、、、、)、と。
 優作は初めから、快斗の用件が新一に関することだと知っていたのだ。

 快斗がここに来たのは、コナンの正体が工藤新一だと知ったからだ。
 そしてその事実を快斗に教えたのは、ノアズアークと名乗る――十二使徒。
 まさか、と青ざめる。
 しかしいくらなんでもタイミングがよすぎる。
 まさか、目の前の男までもがそう(、、)であるなどとは……

「――落ち着きなさい、快斗君」

 笑い混じりの穏やかな口調に、いつの間にか俯いていたらしい顔をあげる。
 優作はやはり微笑を浮かべていた。

「そういうところは盗一とそっくりだね。頭がいいくせに早とちりというか、見かけに反して意外とネガティブなところなんか、流石は親子というか」
「……と、いうと?」
「もちろん、私の体のどこにも刻印なんかないよ。だから安心していい」

 なんなら脱いでみせてもいいが、などと、冗談とも本気ともつかないことを言われ、ようやく快斗は少し笑うことができた。
 近頃は思い掛けない瞬間に十二使徒と遭遇してばかりいたから、つい疑心暗鬼になっていたのだろう。
 もしも優作が――コナンにとって絶対の味方ともいうべき父親までもが組織の人間だった日には、流石の快斗も立ち直れない。

「でも、優作さんは分かっていたんですよね? 僕が息子さんのことを尋ねに来たのだと」
「ああそれは、君が来ると聞いていたからね」
「それは……誰にですか?」
「すまないが、秘密なんだ」

 快斗は口を曲げ、情けなく眉尻を下げた。
 安心していいと言ったその口で「秘密」とは、怪しんでくれと言っているようなものだ。
 すると優作は楽しそうに笑った。

「その人の名誉にかけて、誓って君の敵ではないと明言しておこう」
「はあ……」

 快斗はこの工藤優作という人物がどうにも掴みきれず、困惑した。
 こうも分かりづらい人間は初めてだ。
 快斗の上司や支部長も決して一筋縄ではいかない者たちだが、優作には彼らとはまた違ったクセがある。

「まあ、怪しまれても仕方ないかな。君の言う通り、私は息子が狙われていることを知っていた。……いや、正確には、いずれ狙われるであろうことを知っていた、と言うべきか」

 快斗はやはりと頷く一方、いずれとはどういう意味だろうと首を傾げた。

「君は知っているかな? あの子が狙われる理由を」
「……推測は、しています」
「そうか」

 何かを考えるように瞑目した後、優作は意を決したように目を開けた。
 真っ直ぐ見つめてくる眼差しが鋭い。

「新一は、私たちの実の子ではない」

 え、と息を飲む。
 快斗は手の中の写真を凝視した。
 屈託のない幼い笑顔。しかし、確かに目の前の男の面影がある。母親の面影も。

「あの子は、ある日突然私たちの前に現れた。よくある捨て子のように玄関先に置き去りにでもされていたなら、私も何の疑いも持たなかったんだろうが、本当に突然、気づいたらあの子は妻の腕の中にいたんだ。
 不思議な子だった。生まれたばかりの赤ん坊が、泣きもせずじっと私たちを見つめていてね。どこから来たのか、誰の子なのか、一通り調べたけれど、結局何も分からなかった。
 迷子の届けを出してもよかったんだが、あからさまに普通の子じゃなかったものだから、もし妙な輩に目をつけられでもしたら、それこそ二度と陽の目を見られないんじゃないかと思うと、それもできなくてね。
 数日面倒を見ている間に愛着が湧いたせいもあったが、私たちは結局その子を自分たちの手で育てることに決めた。どこか私たちと面影が似ていたし、きっとこの子は天が私たちのために下さった贈り物なのだと思うことにした。
 妻は……子供ができない体だったから、余計に嬉しかったんだ」

 能力者の存在を知る優作にとって、その程度の不思議はなんでもなかった。
 それよりも、決して見られることはないと諦めていた、自分と愛する妻の面影を持った子供の出現を喜んだ。
 血の繋がりなど大した問題ではなかった。

 だが、養子にするには、子供は二人に似すぎていた。
 優作も有希子も有名すぎるほど名が売れていたし、下手にマスコミに見つかればどちらかの隠し子などと騒がれかねない。
 そこで、彼らは子供を「養子」ではなく「実子」として公表したのだ。
 もちろん、存在しない「事実」は捏造して。

「あの子は……少し変わった子供だった。成長するにつれて薄れていったが、昔から人とは違うものを見て生きているような子だったよ。
 君は、あの子が探偵だったことは知っているかな?」
「はい。資料の中に、彼が関わった事件が全て載っていました」
「そうか。じゃあその事件が全て解決されたことも知っているね?」
「はい」

 始まりは十年前。
 新一が丁度今のコナンと同じ七歳だった頃、たまたま家族旅行で訪れた先の小さな町で起こった、とある連続殺人事件。
 それを解決に導いたのは警察でも、まして優作でもなく、まだたった七歳の新一だった。
 あれから数多くの事件を解決してきた。
 いつの間にか工藤新一の名は日本警察を始めFBIやCIA、果てはICPOにまで知られるようになり、その明晰すぎる頭脳を頼られるようになっていった。
 現代のシャーロック・ホームズと謳われる、名探偵の誕生である。

「頭がいい、なんて言葉で片づけるには不自然なくらい、あの子にはいろんなものが見えていた。それを知るのは私と妻と、それから君の父だけだった」
「父さんがっ?」
「そうだ。そもそも最初に気づいたのも盗一だった」

 ただ証拠と理論をつなぎ合わせて推理するだけでなく、新一にはなにかが見えて(、、、)いた。
 それを見ている(、、、、)時、新一の瞳は決まって変わった色彩を放った。
 まるで宝石のように美しく透明な、ターコイズブルー。
 それは天上の色。人の身では決して得られぬ、叡智の彩。
 その時気づいた。
 彼はただしく、天からの贈り物――神様の子供だったのだ、と。

「私たちはあの子を隠すことにした。WGOからも、組織からも。
 もしあの子の正体が知れてしまえば、どこかに閉じ込められるか殺されるか、……どちらにしてもあの子が苦しむことは分かっていたからね」
「父はそれに協力していたんですか?」
「そうだ。当時既に盗一はWGOの長官だったが、黙っていてくれた」
「息子さんのために?」
「あいつも父親だったからね。私たちの気持ちを汲んでくれたのかも知れないな」

 快斗は口を噤んだ。
 快斗は生まれながらの能力者だった。
 能力者だった父の子供として生まれたからか、生まれた時から能力者だった快斗は、地上に家というものを持たなかった。
 それどころか、地上では快斗の存在すら認められていない。
 生まれながらの能力者とはそういうことだ。
 それがどれほど辛いものか、快斗は身を以て知っている。
 父はきっと、それと同じ苦しみを友人の子供に味わわせることができなかったのだろう。
 ともに過ごした時間は少ないが、とても優しい人だったことを覚えている。

「あの子が消えて、すぐに組織の仕業だと気づいたよ。あれだけ大掛かりな仕事をするのは、彼らをおいて他にはいないからね」
「でも、WGOも知らなかった事実にどうして奴らは気づいたんですか?」
「簡単な話だよ。私たちのすぐ傍に十二使徒がいたんだ」
「な……!」

 声をなくした快斗に畳みかけるように、優作は続けた。

「快斗君。君は、彼らがなぜ能力者を殺すか知っているかい?
 彼らの多くは〝最初の終焉〟でこの世を去った。しかし、彼らは死んで覚醒する。言い換えれば、彼らにとっての死は新しい生でしかなく、死んだ能力者は全て十二使徒になる可能性を孕んでいるということだ。
 新一は探偵だった。能力者が関わった事件も多く解決してきた。その中の誰がそう(、、)であったとしても、何も不思議なことはないんだ」

 二の句が継げない。
 十二使徒がなぜ能力者を狩るかなど、快斗は知らなかった。
 彼らの邪魔になるからだろう、その程度の認識しかなかった。
 もし能力者の死が十二使徒覚醒に繋がるのだとしたら、WGOの全ての能力者にその可能性があるということだ。
 今日味方だった者が、明日には突然敵になるかも知れない、ということだ。
 それは空恐ろしい事実だった。

「それは……全て父から聞いたんですか?」
「そうだ。私と盗一と、たった二人であの組織から息子を守らなければならなかったからね。最高機密であろうと、組織に関わることは包み隠さず話してくれたよ」

 おそらくは支部長以上、或いは長官のみが知っている事実だろう。
 もしかしたら敵かも知れない人間と暮らしているなんて、おいそれと打ち明けられる話ではない。
 精神的なものからくる眩暈と頭痛を堪えながら、快斗はこれだけは聞いておかなければならないと、改めて優作を見据えた。

「優作さん。話して下さって有り難う御座います。でも、なぜ僕に話して下さったのか、伺ってもよろしいですか?」

 WGOの機密、組織の情報はもちろんのこと、本当なら絶対に口にしてはならないだろう新一に関する秘密まで、こうもあっさり打ち明けてくれたのはなぜなのか。
 その問いすらも予想していたとでもいうように、優作は悠然と笑んだ。

「快斗君。君はとてもいい子だね」

 なんと答えていいか分からず黙っていると、優作は快斗の手の中にある新一の写真を見つめながら言った。

「ここに来てから、君はとても申し訳なさそうな顔をしていたね」
「…!」
「それは、私に秘密にしなければならないことだあるからだ。それを申し訳なく思いながらも、必要があってここまで来た」

 はっきりと、快斗は青ざめた。

「きっと、息子に関係があることなんだろう。そして、息子のためなんだろう。それぐらい、見れば分かるものだ。……私は、あの子の父親なんだから」

 責めるのでもなく、全てを享受するような穏やかな声は、余計に快斗の罪悪感を煽った。
 それでも、明かすわけにはいかない。
 コナンと離れたくない、その我が身可愛さゆえのエゴだと罵られようとも。
 今やコナンは世界を左右するほどの存在へと――もう優作の手の中では守りきれないほど大きな存在となってしまったのだから。

 謝罪は口にできなかった。
 謝るかわりに、快斗はただ誓った。

「彼は――新一は――きっと俺が守ります。十二使徒からも、WGOからも守って見せます」

 だから俺を信じて下さい――と。
 ただそれだけを、誓った。










B / /

だから、息子さんを俺に下さい! ……と続けそうになってワロタw
今回ちょこちょこと設定をネタバレしました。
書いてる内に「あれ、そうだったの?」という設定が勝手に追加されたりしましたが(笑)概ね予定通りです。
優作パパが書けて楽しかったですが、この人を出すといっつも語り出すから台詞が長くなるんだ…!
息子同様いろいろ怪しい優作パパですが、彼の愛はほんものです。
10.03.20.