「・・・・・・ごめん。みっともないところを見せた・・・・・・。」
「そんなことないよ。誰にだって弱いところはある。
泣きたい時は泣いた方がいい。」
快斗が腕の中の新一を解放した。
新一は、快斗の温もりが離れて、少し嫌だった。
「・・・・・・さて、本題に入る?」
「・・・・・・」
こくん。と頷く。
「・・・何で翼の色は片翼ずつ違うの?」
「堕天使は片翼が天使の純白の翼。
もう片翼は、天使の翼をしていても、紅い。」
「・・・・・・・・・」
「この紅は俺の血だ。堕天使は、自らの血で翼を染めなくてはならない。」
快斗は驚いて、紅い翼を見る。
・・・この大きな翼に?
「何故なら、神を背いたから、それなりの代償が必要なわけだ。
だから、堕天使は皆自分の血で翼を紅く染められている。」
「・・・・・・神を背いただけなのに?」
何故新一がこんなめに?
人間と何故関係をもっちゃいけないのか。
ふつふつと、神に対する怒りが沸いてきた。
「神は、宇宙を世界を創造し支配する全知全能の絶対者。」
「・・・キリスト教じゃん。」
「神を背いてはならない。これが天界の掟。
それを俺は破った。」
新一が掟を破ったのならそれなりに罰があるはず。
神だったら、更に凄い罰になるはず。
じゃあ何故、新一は今、堕天使として生きているんだ…?
「何故堕天使として生きているかだって?
理由は、俺が神に特に愛されたからだ。」
「特に愛されたって・・・・・・?・・・って、何で俺の考えてたことが・・・」
新一は俺の反応を見てクスっと笑った。
快斗のそういうところを見たのが初めてだったからだと。
「俺が堕天使だから、能力があってね。
・・・・・・神に特に愛されたのは、俺が他のやつらと比べて全ての面で良かったから。
としか教えてもらってないな・・・。」
「・・・・・・・・・」
「特に愛されたから、地獄に行かず、堕天使として生きていられるんだ。」
感謝すればいいのか微妙だけどな・・・。
新一は悲しい顔で言った。
「まあ、そういうことだ。
他に質問は?」
「・・・何時から俺の正体を?」
ぴくっ
新一がまた反応する。その蒼の目に映る戸惑いは何だ・・・・・・?。
「昔。昔から知ってたよ。」
ズキン
また頭痛がし始めた・・・。
そして、頭に浮かぶ小さな新一。
「快・・・」
「新一!!!」
何者かが、この家の前に来た。
明るい部屋が突然闇に覆われる。
新一の腕を引いて、快斗の背中に隠す。
新一と快斗は部屋の隅で気配を消す。
「おやおや?もう一人いるぞ。」
「遊んでないで、さっさと済ませるぞ。」
バンッ
一つに結んだ銀髪の男と、短く黒髪の男が現れた。
黒い衣を着、手には銀と黒の銃が握られていた。
黒髪の男が「分かってる」と言った瞬間、銀の弾丸が新一の横を掠めた。
「だから、俺の言うことに素直に聞けよ?「闇に堕ちし天使よ。」
黒い衣の2人が、快斗と新一を見る。
その目は、氷以上に冷たく、紅い瞳をしていた。
何で分かったんだ・・・?!
「君が何を隠そうと、俺等には分かるよ。」
「さて、そこの堕天使を渡してもらえるかな?」
そう言って、手を差し出す。
上から下まで黒い衣を着ている男。
「っ新一は渡さない!」
「ほう・・・・・・」
「!快斗・・・・・・」
「渡さないとお前まで怪我するぜ?」
へらへらと笑っているが、脅しのように、冷たい瞳を向ける。
だが、快斗には効かなかった。
「怪我しても、絶対に新一は渡さない。」
「・・・俺だって捕まるのはごめんだ・・・リョウ、セイ。」
今まで黙って見ていた新一が言う。
リョウと呼ばれるのが黒髪の方で、セイは銀髪の方。
二人が新一を見てにこやかに言う
「何故?昔のようにさ、戻ろうぜ?シン。」
「そうですよ。あんなに仲良かったのに。」
リョウとセイが挑戦的な目で、ちらっと快斗を見る。
仲良かった・・・・・・・・・?
快斗に戸惑いがおきる。
その瞬間を、リョウは待っていた・・・。
「なっ?!」
スッ
どさっ
セイが動いたかと思うと、快斗の後ろにいた新一が、横に倒れた。
人形のようにぴくりと動かない新一。
首からは血が流れている。
「新一!!!」
あまり傷は深くないが、早く手当てしないと・・・・!!
傷は深くないのに、全く動かない。
嫌な思いがする。
「では、お姫様は僕らが頂きます。」
セイが快斗を壁に飛ばし、新一をお姫様抱っこして、ベランダを開けた。
どんっ
「ぐっ!!・・・・・・」
壁に崩れる。
セイがやったとは思えない程の強さで、背中の骨が悲鳴を上げる。
そんな快斗をセイは見向きもしなかった。
まるで、新一しか目に入ってないかのように。
「・・・今日はちょっと寒いですね・・・。」
「そうだな・・・。お姫様が寒くないといいけど。」
快斗を、その場に誰もいないかのように話す。
自分が弱すぎるように見えるみたいで、快斗は2人に怒鳴る。
「待て!新一から離れろ!!」
怪我を負いながらも、新一を助けようと、トランプ銃を手にする。
快斗はトランプ銃を手に、一歩ずつ近づく。
「トランプ銃か・・・・・・珍しいね。」
「そうだろうな」
「でも、そんなものでは私を倒せませんよ」
英国紳士らしく、笑顔を浮かべる。
あの迷探偵を思い出すな・・・・。
セイがリョウに、新一を渡す。
「セイがやるのか?」
「リョウにやらせると、無駄なことしますから。」
むっと顔を顰める。
「何だよ。喧嘩売ってんのか?」
「別に売ってません。とにかく、先に行って下さい。」
仲がいいのか、悪いのかよく分からない2人で、驚く。
さっきまでの冷たい瞳はどこにいったのか・・・。
「へいへい。分かりました。」
セイに言われた通り、先に行くことにした。
リョウはベランダから外にでて、月を見上げる。
月に照らされ、新一の白い肌が綺麗だ。
久しぶりに見た新一は、昔から変わってない・・・・・・いや、更に綺麗になったというべきか・・・。
リョウは、腕の中の新一を見つめる。
「リョウ!先に行って下さい。と言いましたよね?」
セイが呆れて言う。リョウは怒鳴ることもなく、ニッと笑った。
「そこのお前に、いいもの見せてやるよ」
「別に今見せなくてもいいじゃないですか。
・・・・・面倒くさくなりますね。」
はあ。とため息を吐く。
その様子を見ていて、快斗は自分が汗をかいていることに気づく。
手は握り締めすぎた為、白くなってじんわりと血がでていた。
「新一を離せ!!」
きっと二人を睨む。
「それはできないにきまってるだろ?」
リョウは快斗の方を向き、新一を見つめた。
「昔から欲しかった・・・・・・・・・」
行き成り様子が変わった。
胸騒ぎが起きる。
リョウが新一との距離を縮めていく。
「や、止めろ!!」
どういうことか察した快斗は、トランプ銃を手に、リョウに襲いかかる。
しかし、そんな簡単に二人には近づけなかった。
どごっ
鈍い音が静かな部屋に響く。
「っ!!かはっ・・・・・・!」
「駄目だと言っているでしょう?」
セイの拳が快斗の腹に直撃する。
リョウ達のところへ行こうとすれば、セイの邪魔がはいる。
快斗はあまりの痛さに、顔を歪め、口から血を吐いた。
「静かに見てろって。」
くくくっと笑みを浮かべる。
邪魔ができなくなった快斗を見て、リョウが唇を重ねようとする。
あと5秒。
「・・・新・・・・・・い・・・ち・・・」
4
3
2
1
「ぐ・・・はっ・・・・・・!」
リョウの方から聞こえる声と蹴った音。
唇が重なるその光景を見たくなかった快斗の目が開く。
ゆっくりと、警戒しながらその方向を見た。
「…はぁ・・・はぁ・・・・・・」
見たのは、新一がリョウの横っ腹を黄金の足で蹴ったあとだった。
新一が目を覚まし、するりとリョウの腕から素早く逃げる。
「・・・シ・・・ン・・・」
「・・・危なかった・・・。」
新一がヨロヨロとしながら、快斗のもとへ行こうとする。
予想外の展開に、セイが舌打ちをして、リョウに駆け寄る。
「リョウ・・・大丈夫か?」
「う…つっ!!」
「リョウ・・・。仕方ない。今日は引き上げるか・・・。」
さすが、新一というべきか。
セイは、リョウに肩を貸して立たせる。そして、新一と快斗の方を向く。
「・・・今日はここまでにしましょう。シン、また来ます。」
そして、リョウと共に翼を広げ、魔界へ帰った。
「・・・ごめん、快斗・・・」
「大丈夫。新一が手当てしてくれたし、このとおり、ピンピンしてるし。」
リョウとセイが現れた昨日。
突然のことに、冷静でいられなかった。相手は、昔の友達。戦いづらい。
「新一を守るって決めたのに、何一つできなかった・・・。」
きゅっと、布団のシーツを強く握る。
「そんなことない!快斗は、俺なんかの為に・・・戦ってくれた。
俺なんか、守られるだけで、何一つしてやれなかった・・・。」
新一が俯く。
体は僅かに震え、ポタッと涙が落ちる。
お互い、凄い怪我をした。
新一は首をやられ、襲われそうになった。
快斗は腹を殴られ、目の前で新一が襲われるところを見ていることしかできなかった。
「ねえ、新一。どうしたら強くなれるかな?新一を守りたいのに、今は弱すぎる・・・。」
「俺だって、強くなりたい。でも、方法を知らない。
・・・・・・・・・だから、今は心を強くしなくちゃいけないと思う。」
新一が快斗に抱きつく。
その存在を確かめるように・・・。
「・・・心・・・。」
快斗も新一に抱きしめ返す。
この温もりが消えないように。
「アイツ等は何者?」
「リョウとセイは、俺と同じ堕天使だ。ほら、翼が紅と白だったろ?」
リョウとセイは魔界に帰った。
堕天使というのは悪魔側なのだろうか?
「堕天使は、大体が悪魔側だ。
リョウとセイは、俺が人間界に行く前・・・天使のときだ。
よく遊んだ友達で、俺が人間界に行って、帰ってきて堕天使にされたときには、
天界にはいなかったんだ。」
「じゃあ・・・・・・」
「そう、俺が人間界に行っている間に堕天使になったんだ・・・。」
快斗にも、リョウとセイが根っからの悪ではないと分かって良かった。
しかし、何であの二人が堕天使になってしまったのだろうか。
「堕天使は、天使の時に、何か悪いことをするとなるんだ。
掟を破ることや人間界で何かやったり・・・。」
ま、天界から追放されるな。
新一は、寂しげな表情だったが、突然目に光が戻った。
「魔界を・・・あの2人を止めないと・・・。」
「あいつ等の目的が分かったの?!」
「ああ・・・・。
快斗、ごめんな。これからは快斗も連れていけない。」
「俺も行く。」
「駄目だ。俺の問題だ。何とかしてみせる。」
そう言うと、新一が快斗の家を出ようとする。
「待って!」
「快斗・・・?」
「俺は、新一を守ると決めた。一緒に行く。」
B / T / N
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