最近、工藤君の周囲を探っている者が居る。

 何があったかは知らないが、組織を叩き潰した直後に彼は姿を1週間眩ませた。
 そうしてひょっこりバツが悪そうに帰ってきた彼は、何も言ってくれない。

 何処に通っているのかは知らないが、其処に行くようになってから彼は落ち着きだした。
 雰囲気に尖ったものが無くなり、少しずつ笑うようになった。

 余計な事で手間はかけられないわと、哀は不審人物の事を告げずに居た。


「灰原」

 コンコンと、ノックが響く。

「どうしたの?ご機嫌じゃない」

 そろそろ帰ってくるとは思っていたけど・・・。
 
 眩しいほどの微笑みに、哀は目を細めた。




















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渇愛
writteen by puchan

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 拾ったとき、アイツの身体はズタボロだった。
 見捨てても置けずに、連れ帰ったのは気紛れだったはずなのに。

 何時の間にか、此処に馴染んで溶け込んでいる工藤が居た。


「・・・」


 強姦されたような、生々しい跡。
 秘部から伝い落ちていたのは、誰かの残滓。

 ショック状態に陥りだした工藤を抱いたのは、自分にとって戸惑いだった。

 誘われたのだと、今ならば断言できる。
 あの潤んだ蒼が、理性と言う壁を壊した。


「・・・確かめるか」


 誰がシタのかなど、検討はついている。
 元々、邪魔なヤツだった。
 向こうにとっても、俺はそうだったらしいが・・・。




 明日はもアイツこねぇしな・・・空けても良いだろう。

 


 ふらりと、ジンは滅多に出歩かない外へと出た。










 なんで、こんなに焦る必要があるのだろうか・・・。
 ふと浮んだ疑問に、KIDは笑う。

 一回も、彼が来ないからだろう。 

 来なくなって当然の事をしたのだ、あの日。


 自分の理性を食いちぎって現れたのは、嫉妬と欲望。
 それを突きつけたのは、貴方だと言うのに・・・。
 
 無意識に貴方が私を煽ったのですよ?




 首筋に残っていた跡を見てしまったから

 潤んだ、悩ましげな瞳で見つめられたから・・・。



 暴いた四肢は、色濃い情事を残していた。

 貴方にとっては、最悪のタイミングで私は現れてしまったようですね・・・。





 
 羽根を休める為に舞い降りたビルで、KIDはドキリ・・・とする。

 闇に潜む気配には、覚えがあった。
 半年前に、滅ぼしたはずの・・・。


「・・・覚えていたみたいだな・・・」

「忘れるにはまだ、時間は経っていませんが・・・」 

「背後を取られるお前は、腑抜けたという事だな。平和ボケして」

「・・・・イヤミですか?」


 以前とは何かが変わっているジンに、KIDは眉を潜めた。

 こんな、男だったか?
 雑談をする相手ではない、何かが絡んでいるはず・・・この会話が意味するものが。 

 無意識に身構えた相手に、ジンは思うところありかと溜息をついた。
 工藤の一件は、コイツの関わりだけではないだろうが・・・最後に関与したのがコイツなだけ。
 しかも、コイツはタチが悪い・・・。



「お前、あの晩にナニをしたんだ・・・」

 その言葉に、KIDは首をかしげ考える素振りを見せた。
 それに気付かぬフリをし、ジンはタバコを咥えながら続ける。


「大雨の深夜、濡れ鼠で打っ倒れてたコゾウを拾ったぜ?」

「!!」

「しかも、コゾウには強姦された跡が残ってた。俺が拾って帰らなければ翌日には衰弱死だったぜ」


 冷たい視線を向ければ、明らかに動揺した怪盗が立っていた。
 遠回しにでも、自分の元に居ると告げたのだ。
  
 まぁ、今の現状はそうでもないが。
 

 一方的に押しかけて、好きなままに何時居てしまった・・・工藤。

 ヤツの身体が女以上に円やかなのだと知った日、アイツは拒まなかった・・・。
 キスでも、それ以上の事をしようとしても・・・。
 
 生活の一部とかしてしまった、アイツの存在が。

 

「・・・・わざわざ、お知らせに来ていただいたと受け取って宜しいですか?」

 それは、挑戦ですか?

「テメーがアイツに何をしたか知りたかっただけだ、未だに何かを探し続ける怪盗ってのは有名でな」

 テメーにやるつもりはねぇよ。
 アイツは、俺のだ。



 睨むだけで射殺せそうな視線を背中に感じつつも、ジンは背を向けたままその場を後にした。

 もう、自分の用は済んだ。
 茶番に付き合うつもりはない・・・。


 一人になった屋上で、ポーカーフェイスを外した怪盗が舌打をしていた・・・。












 不審な人影に、新一は顔を顰めていた。

 帰宅してから気付いたが、一体何のつもりなのだろう。
 気配も雰囲気もそのままに居るのだから、バレバレなのが一つ・・・不明なのが一つ。


 この様子だと、ジンのところへは行けないな・・・。


 隠れ住んでいるような場所なのだと、知っている。
 自分が頻繁に足を運び続ければ、其処が露見してしまうのすら・・・。


「・・・でも、居心地良いんだ・・・」


 彼は優しいから・・・。
 髪を撫でてくれる指が、優しかったから・・・。

 逃げているのかもしれない、彼の元へ。

 

 ジンのくれる熱は、忌まわしい記憶も何も吹き飛ばしてくれるから・・・・。





 逢えない日ほど、逢いたいと思う・・・。












 日付が変わり、ふと気付けば写真でしか知らない家の前に居た。

 苦笑するしかない、此処まで来てしまった自分に対してだ。
 
 今まで、一度たりとも来た事は無かった。
 嫌、家を訊いた事すらなかったのに・・・。


「・・・電気、ついてるのか・・・」

 二階の一室に煌々と灯っている電気に、アイツが起きているのを知った。

 そして、視界の隅で動いた影にも気付いた。
 アイツを見てる?


 少し考えて、ジンは足を工藤邸の中庭に進めた。

 手ごろな大きさの石を掴み、電気のついてる窓に向かって投げる。


 カラカラ・・・と窓を開ける音がして、新一が顔を出し。
 慌てたようにバタバタと走っていく、階下にくるだろう・・・。

 ゆったりと玄関に向かえば、息を切らした新一がドアの鍵を開けているところだったらしい。
 待たずに、開いた。


「ジン・・・」

 ともかく、入って。
 促されるままに玄関に入ったジンは、その広さに驚いた。

 こんな場所に一人で・・・。

 鍵をしっかりかけて、新一は振り向く。
 突然、しかも初めて尋ねてきた相手を見て。


「どうしたんだよ、ジン」

 こんな時間に・・・。

「・・・抱きたくなったんだ」

 それ以外に、理由は無いと。
 抱擁してくる熱い男の腕と吐息に、新一は小さめの抗議を返す。


 玄関では、嫌なのだと・・・・。




 苦笑したジンは、工藤家の中に入った・・・。



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