その後の連絡も、何一つ寄越さない工藤を不審に思い。

 遥々、東京の真下で何をやっているのかと・・・自分で呆れていた。


 何かしらの、反応を期待していたのだ。

 怒りをぶつけるにしても、恨み言を言うにしても・・・。

 なのに、期待はずれもいいとこで。
 あの日以来、何一つ音沙汰なし。


「・・・ストーカーやな」


 自覚は、ある。

 学校も探偵も、投げ出してきてしまっている。
 こうやって、物陰から工藤の動きを見守っているのだし・・・。

 気付けば、工藤は家を空けている。

 要請か学校なのかと、大して気にしていなかったのに。




 鈍器で後頭部を殴られたような、衝撃を覚えた・・・。




 闇に紛れ込むような、細身の男が。

 深夜の工藤邸を訪問し、迎え入れられて・・・朝になっても出てこなかったのだ・・・。




「・・・アホな・・・・・・」






 学校に向かう直前に、哀は燃え尽きたような一人の硬直を見つけた。

 見なかったことにしてしまおうと、心に決めて。




















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渇愛
writteen by puchan

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 ゆっくりと時間をかけて求め合い、焦らされて泣き続け・・・。

 気付けば、既に日は頂点にあった。
 カーテン越しにでも、強烈な昼間の光が降り注いでくる。


「起きたか?」

 紫煙を吐き出しながら、問うジンに新一はゆっくりと視線を向けた。
 上半身裸で、壁に背を凭れさせながら自分を見下ろしてくる細い瞳・・・。

 こんなにも、落ち着くなんて・・・。


「はよ、ジン」

 とりあえず、挨拶。
 カラカラに掠れてしまった声でだが・・・。

 身体を起そうとして、鈍い痛みに顔を顰めた。


「無理すんな、さっきまで其処が飲み込んでいたんだ。暫くそうしてろ」

 意識が戻ったのすら、早いと思った。
 手加減できなかったのだ、昨晩、視界の隅に居た不審人物や・・気障な白い怪盗を相手にしたためか。

「・・・誰の所為だよ」

 恨みがましい視線をあげれば、

「俺だろうな」

 当然の様に、即答が降りる。

「・・・ジン、がっついた?」

 優しかったのだが、執拗なまでに求められた。
 その結果が時間となって克明に現れている、今までに無かった記録として・・・。


「お前が誘うからだ」

「なんだよ、それ」 


 いつもの言葉に、新一はむくれる。

 それを心得たように、ジンはあやすように新一に手を伸ばすのだった。








 

 一度知ってしまった快楽は、何をしてても頭にこびり付いてしまっているらしい。

 憂いを含む溜息をつきながら、白馬は授業終了のチャイムを聞いていた。
 こんな時にでも、思い出してしまうのだ。


「・・・・」


 あの、淫靡なまでの・・・濡れた身体を。
 高貴で崇高な者を汚し、貶める背徳を・・・。

 思い出しただけで、背筋がゾクリ・・・とする。


 あの怪盗が、彼を気に入っているのは知っていた。
 それが元で・・・畑違いな彼に、興味を抱く事になった。


「・・・誰にも・・・・・・」


 誰にも、渡したくなかったから。
 だから、手に入れたはずなのに・・・。
 顔を見て居ない所為か、以前よりも飢えているような・・・。


 こういうのを渇望とでも、いうんでしょうか・・・。

 



 一人考えに没頭している白馬を、快斗は意味深な視線で捕らえていた。

 昨晩、ジンに言われて自問し続けた答え。
 それは、この白バカと黒バカに煽られた結果だと・・・・・。


 彼に、何をしたのかなど・・・問いただす事もなく解りきっている。



「・・・俺が、更に・・・か」 


 ソレでなくても、かなりの負担だったはず。
 精神的にも肉体的にも、新一は限界だったのだろうけど・・・。

 俺が、怪盗が、新一を見つけてしまった。


 その結果、新一は・・・・。
 




 
 ガタン・・・と、扉の閉まる音で白馬は我に返った。
 見渡せば、残っているのは自分一人である。
 
 帰りましょうかと立ち上がり、黒板に書かれていた事に瞠目した。


『親愛なる白馬探偵へ あの晩の出来事をお聞きしたいと思います、今宵ご足労頂きたい KID』 


 仰天した白馬は数時間、そのままだった。









 
 熱いコーヒーを一口飲み込み、新一は首をかしげた。
 今更ながらに、ジンがこの家を訪ねて来た真意が解らない事に気付いたのだ。

 苦笑しながら、ジンは不審な人影の事を告げた。
 偶々通りかかったら、この家を遠巻きに見ている男が居たのだと。


「舌打してたようだがな・・・」

 俺が迎え入れられたことで。

「・・・そっか、やっぱり気のせいじゃなかったんだな」

 感じていたのは、本当だった。


「心当たり、ありそうだな」

「ありすぎて」

「お前が捕まえた犯人か?」

「それなら、まだ可愛いさ」

 
 甘えるようにジンの肩にもたれかかり、新一は小さく漏らす。

 ジンは予想していたとはいえ、少なからずの痛みを感じる事となるが。



「アンタに拾われる事になった日・・・俺はレイプされたんだから・・・・・ソイツらに」



 おかしな薬を打たれて、和姦になると・・・言っていた奴等・・・。

 思い出したくは、無いのに・・・。



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