静まり返った部屋に響くのは、互いの息遣いだけ。
ただ、自然と呼吸しているだけなのに安堵してしまう。
背中を預けられる相手が居ると言うだけで、隣にいてくれるだけで。
こんなにも泣きたいほどに幸せを感じてしまう・・・。
「・・・お前をレイプしたってのは?」
名前、あげてみろ。
低く促され、思い出したくも無い名前を口に載せる。
「服部と白馬、それに・・・KID・・・・・・。でも、KIDは・・・・・」
前にあげた二人とは、異なっていたような・・・。
良くは、解らない。
思い出したくないだけなのかもしれない、苦しいだけだったから・・・。
「KIDのヤツは、お前を強姦したというワケではなさそうだな・・・」
考えを読み取ったかのようにジンは漏らす、結果的に見ればそういう状態だと言われても仕方ない現状になってしまった。
あそこに置いていくのが、せめてできることだったのだろうから・・・。
若すぎて、経験の無いヤツならではの事か?
「・・・薬が残ってて、よく覚えてない・・・んだ、KIDとの事は。でもとても優しかったことだけ覚えてる・・・服部と白馬は、手荒いだけっていうか・・・・・・・・」
「ケダモノだったんだろ?」
「・・・そうなる」
断片だけでも吐き出せて、新一はホッとする。
誰にも言えなかったのに・・・ジンには言えるのだから不思議だ。
無意識に甘えてくる新一に、ジンは受け止めてやりながらどうしてやろうかと頭をめぐらす。
ただでは、済まさない。
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渇愛
writteen by puchan
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深夜、ビルの屋上に白馬は立っていた。
バカバカしい、誰かの悪戯に決まっていると思いつつも足を運んでしまっている自分に呆れた。
大体、学校の黒板にKIDがメッセージを残すはずが無い。
しかも、自分は適当に登ったのだ。
何処にとは書かれてなかったが、工藤君がKIDの犯行時にはビルの屋上に立っているらしいとの情報は入手していたから。
「くるはず・・・・」
無いと思っていたのに・・・。
予想を裏切って、空から舞い降りてきたのは白い鳥。
優雅に人工の翼を閉じて、洗練された身のこなしで立ち振る舞う・・・。
「ようこそ、白馬探偵。お越しいただけると思ってましたよ」
月を背にして、怪盗KIDが微笑む。
「・・・・・・・・」
本当に来る等、思っても無かった白馬は動揺を隠し切れなかった。
一体、何を聞きたいと言うのだろうか。
迂闊にも自分ひとり、対処の仕様がない。
「怯えずとも、何もしませんよ。一つ、あの日に関して訊きたいだけです」
「・・・あの日?」
「ええ、数ヶ月前の雨の晩にあった出来事に関して・・・」
KIDの口から零れた言葉に、白馬はこれ以上は無い程に目を見開いてKIDを見た。
何故、この男が知っているのだ?
あれは、あの出来事は、自分を入れても三人しかしらないはずなのに・・・。
「その晩が、なにか?」
あったとでも?
「貴方と西の探偵とで、東の名探偵を陵辱したというのは本当ですか?」
確認するまでも無い事だが、そのまま訊いた。
「根も葉もない・・・」
ただの噂だと、白馬は一蹴しようとして・・・無駄に終わる。
「ご本人の口から訊いたといえば、お認めになりますか?」
「なん、ですって?」
「彼方方の使った媚薬が、彼の身体に残っていたんですよ。私が彼を発見した際にね・・・。酷い有様で見ていられずに、『治療』を施しましたが・・・」
KIDの言葉に、白馬は舌打をした。
まさか、こんな事になるなんて。
こんな事になってしまうならば、あのまま逃げ出せる状態にしとくべきではなかったのだ。
ベットに括りつけて、閉じ込めてしまって置けば・・・・・・。
こんな事にはならなかった・・・欲しいときに、いつでも貪れたのに・・・・・・。
自分の思考に手一杯な白馬は、KIDの表情を見ていなかった。
見ていなかったからこそ・・・・・・・。
何かを、耐えるようにして・・・・・押さえつけ様とするように。
KIDは、腕を上げてなぎ払う。
頬に痛みを感じ、白馬が顔を上げた際にはKIDの姿は何処にもなく・・・。
振り返って探せば、背後のコンクリートに突き刺さった白いカードが一つ。
『ささやかな、慟哭を差し上げます KID』
意味不明な言葉に、白馬は恐れを感じざるを得なかった・・・。
鉢合わせするとは思って無かったわと、哀は思う。
生存していたのかと驚き、何故に工藤邸から出てくるのかと慌てたが・・・どうやら野暮らしい。
混乱した頭をどうにか鎮め、よくよく考えてみれば結論は一つ。
自分にとっての天敵同然の男が、工藤君をここまで安定させた相手だったと言うだけ・・・。
「こんばんわ」
挨拶、するべきよね?
敵かもしれないけど・・・しなかったら不審だし。
「隣のガキか・・・アイツが言ってた」
どこかで見たことあるが・・・まあ、いい。
アイツが大事にしているのなら、アイツにとって必要なのだろう。
過去は全て捨てた身だ、今更・・・。
ジンの素っ気無い態度に、地は変わってないマイペースなままねと思う。
逆に、工藤君にはそれが心地よいのかもしれないけれど・・・。
「工藤君の恋人って、貴方だったのね」
「俺じゃ不満か?」
「いいえ、ちょっと安心したわ。変なのが多いから」
「それなりの仕置きが必要な馬鹿共なら知ってるぞ・・・」
「奇遇ね、私も知ってるわ」
共通点は、工藤新一。
それだけの関係、こんなのもいいかもしれない・・・。
哀はジンを怖いとは思わなかった、逆に変わったわと実感せざるを得なかった・・・。
最近になって、工藤の周囲をうろつきだした目障りなヤツ・・・と服部はデータを調べていた。
こんな時は探偵として培ったモノが役立つわと思いつつ。
「・・・よぉー似とるが、ちごぅな」
コイツは、死んだはずや。
工藤も憎んでたし、有り得ん。
そう判断してそのデータをろくに読まずに飛ばす。
飛ばしたデータが、当人の者とは露ほど知らずに・・・。 |