「傷、見せて」


 十四支部に戻るなり基地ではなく大佐の私室へと連れてこられた新一は憮然としていた。
 日はまだまだ高い時間だし、自分たちの仕事は山ほど残っている。
 何より、佐藤大佐がしてくれると言っていたが抗争鎮圧の報告をこちらからも本部に入れなければならない。


「…黒羽、お前戻れよ」
「断わる。工藤、放っておいたら自分じゃまともに治療もしないだろ」


 良いから脱いで、という快斗に促されるがままに、新一は先ほど陣によって肩に受けた傷の手当てを受けた。
 決して浅くはない傷だが、不思議とあまり痛まなかった。
 それよりも痛むのは……


「腹の傷の方が痛みやがる…っ」


 かみ潰したような新一の呟きも聞き逃さなかった快斗は、応戦したために再び開いてしまった昨日の傷にそっと触れた。
 新一の体がびくりと跳ねる。
 体温は随分と高く、傷の周辺はまるでそこが心臓であるかのようにどくどくと脈打っていた。


「…念のこもった傷って確か、二日ぐらい高熱が出るんじゃなかったっけ?」
「げぇ、マジかよ!じゃあ明日もこんなかよ…」


 すでに新一の頭も体も熱のためにぐらぐらで、陣と戦えたことが信じられないような状態だ。
 否、戦いのために張りつめていた緊張の糸が一気に崩れ、その反動が倍になって返ってきた…という状態である。
 呼吸も自然と荒くなってきているし、これ以上新一が動けないことは誰が見ても明らかだった。


「工藤。今日、明日と体を休めろ」
「え…?」
「そんな状態のまま出てきたところで役に立たない。しっかり治してそれから出てこい。良いな?」
「…わかった」


 新一は悔しげに唇を噛んだ。
 こういう時の快斗には何を言っても駄目なのだ。
 今の快斗は黒羽≠ナはなく大佐≠ネのだから、その命令は絶対である。
 軽薄に傷などを負ってしまった自分が情けなくなる。
 けれど。


「そんな顔すんなって。言ったろ?心配してるんだって」


 ふ…と快斗が困ったように苦笑を浮かべた。
 この稀代の兵士は恐ろしいほどの慧眼の持ち主でありながら、自らのことになると途端に鈍くなる。
 快斗の胸の内に秘める気持ちなんて微塵も知らないのだろう。


「…俺、工藤が好きだからさ」

 だから、心配しちゃうんだよ。


 有りっ丈の本気を込めて言った言葉にも、新一は少しも本気にした様子はない。
 なにやら難しそうな顔になって、からかうな、の一言で終わらせてしまうのだ。
 冗談なんかじゃないのに、と本気で思うけれど。
 今ここで全てを晒して、全ての答えを知ることはまだ快斗には躊躇われた。

 快斗は少し拗ねたような顔をして見せて、なにげなく額に貼り付いた新一の髪を払ってやる。
 ふと、触れた額が更に熱くなっていることに気付いて快斗は眉を寄せた。


「工藤、熱上がってる…解熱した方が良いよ?」
「あー…マジ…?」
「うん。薬貰いに行った方が良いかも」


 すでにまともに返答することも怠いといった新一。
 快斗の知識の高さは計り知れず、ちょっとした治療なら自分でこなせてしまうが、人間の内部に注入する薬となると話は別だ。
 専門的な知識がなければ、迂闊に手を出すことはできない。

 現在十四支部には三人の軍医がいるが、二人は基地にて怪我人等の治療に当たっている。
 そして大佐や少尉、一等兵達の私室のある施設にも一人、軍医がいた。
 最も腕が良いと言われる軍医はこの施設内にいる医者だが、如何せん随分と年が若い。
 よって、本人の申し出もあってその医者が施設の医療機関を司ることになっていた。


「仕方ねぇし…薬貰いに行くかな。できればあいつんトコ行きたくなかったんだけど…」
「あいつ?ここの軍医と知り合いなの?」
「ん?ああ…黒羽は知らないんだっけ」


 そう、この施設内にいる医者こそが、天才軍医・宮野志保である。
 彼女は幼い頃から新一と共に育ってきた幼馴染みであり、新一の良き理解者兼相談者であり、姉のような存在だった。
 新一は誰より彼女を大事にし、そしてまた誰より苦手でもあった。
 新一を慧眼の持ち主だと言いながら、時々彼女のそれは新一よりも鋭い時がある。
 志保には勝てたためしがないのだ、新一は。
 嘘や隠し事が成功したことは勿論、口で勝ったこともない。
 きっと解熱剤を貰いに行けば、この二日で体に受けたふたつの傷のことも知られることになる。
 さらにその傷のひとつが厄介なものであることもバレてしまうし、そうなれば小言のひとつやふたつでは済まないだろう。


「でもそうも言ってらんねぇな。さっさと治して復帰してぇし」
「そだね、じゃあ貰いに行こっか」
「ん」


 すでに黒衣を脱いでしまっている新一は、少しばかり大きめの快斗の私服を借りている。
 あまり身長も体重も変わらない相手のはずなのに、体つきはやっぱり快斗の方が新一より良いし身長も快斗の方が高いのだ。
 それを少しだけ悔しいと思いながらも乱れた服装を整え、新一はベッドから立ち上がろうとする。
 と、すかさず助け起こそうとする快斗に気がついて新一は眉を寄せた。


「…オイ、まさかついてくるとか言うんじゃねーだろな」
「何言ってんの、当たり前じゃん!」
「バーロ!仕事しやがれ、仕事!」
「えぇ〜っ?」
「え〜じゃない、バカ!」


 差し出された手をばちんと叩き払って新一はぎろりと快斗を睨み付けた。
 しばらく無言の睨み合いが続いた後、ばつが悪そうに出していた手を快斗が引っ込める。
 どうやら降参のようだ。


「こんぐらいひとりで行ける。黒羽はさっさと基地に戻れよっ」


 それでもまだうーうー唸ってる快斗に新一は寄せていた眉を戻して微笑を漏らすと。
 快斗に言わせれば反則な表情≠ナ言った。


「…あんまり俺を甘やかすな」


 蒼い瞳が揺らぐ。
 が、それも一瞬のことで、たちまち普段の気の強い新一のものへと戻ってしまった。
 口元に浮かべられた淡く儚げな印象を与える微笑もすぐに引っ込められた。

 新一が時々浮かべるそんな表情。
 快斗は、彼が何を思ってそんな顔をするのかわからなかった。
 過去の古傷を思い浮かべているのかも知れない。
 けれど新一は決して自分から話そうとはしないから、快斗もそれ以上何も言うことができなくなるのだ。
 快斗もまた、誰にも言えない傷を抱えているから……


「…わかったよ」


 不本意ながらもなんとかそれだけ返した快斗を残して、新一は大佐の私室を後にした。

 暫く扉に背を預けて、瞼をかたく閉じて。
 新一は先ほどの快斗の言葉を思い浮かべる。


俺、工藤が好きだからさ


(バーロ…変なこと言うんじゃねぇよ…)


 期待してしまうではないか。
 軽々しく言ってくれたその言葉に、深い意味がないとわかっていても。
 彼の特別でありたいと望んでしまう自分に気付いたからには、そんな意味ありげな言葉、軽々しく言って欲しくはなかった。
 勘違いしてしまいそうな弱い自分は見せたくないから、だからこんな弱ってる自分の側に彼は置いておけない。
 でないと何を口走ってしまうやら……


「…からかうな、か。…痛いな…」


 新一は苦々しげな息を短く吐くと、頭を軽く振って、志保の元へと向かった。










「…遠い」


 かつて、これほどまでに志保のいる医療室が遠いと感じたことはない。

 この施設は巨大なドーム型になっていて、一階から順に三等兵、二等兵、一等兵…と部屋を割り当てられている。
 一等兵までは各部屋に四人ずつ、昇格とともに上階へと移動し、待遇も良くなってくる。
 中でも十四支部の最高責任者であり司令官である大佐の私室は、ドームの最上部に設置されていた。
 その階下に中佐と少佐の私室が、更に階下に大尉と中尉と少尉の私室がある。
 そして医療室はと言うと…地下に造られているのだ。
 それは志保のラボがこの時代では考えられないほどのハイテク技術を駆使されている為であり、また経験の浅い兵士がより怪我を負いやすいためでもあった。
 よって、新一は今最上部から最下部への移動を強いられている。


「解熱剤なんて要らないから横になりたい…」


 限界などとうに越している。
 一国の少尉が他国の驚異だと言われる総督と張れること自体有り得ないのだ。
 その有り得ないことを、タイミングと運と精神力だけでやってのけたのだから。

 それでも足は止めずに医療室へと向かう。
 この熱を早く下げて戦線復帰したいのも勿論だが、快斗に余計な心配をかけたくなかった。
 この程度のことでへばってしまうような弱い奴だとも思われたくない。
 自然、ふらつく足に力を入れようとすると俯き加減になる。
 普段ならまだしも、この注意力散漫な状態では新一は前方から来る影にも気付くことができなかった。
 そして、それが災いした。

 どんっ、と。
 肩に何かの衝撃を感じ、新一はいつもより数段鈍った反応を返した。
 どうやら誰かにぶつかったらしいと相手の顔を仰ごうとして、自分のそれより高い位置にあることに気付く。
 目の前には不機嫌を体全体で表しているような男がいた。
 こうも簡単に他人に感情を読ませてしまうようでは、彼は大した腕ではないのだろうと、どこか他人事のように考えてしまう。
 良くて二等兵…そんな程度の、体つきだけが良い男。
 彼は、突然ぶつかってきた細身の失礼な男を、忌々しげに睨み付けていた。


「ぶつかっといて何もなしかよ、オイ」
「悪ぃ…前、見てなかった…」


 言動が多少気に掛からないでもなかったが、今は相手にしている元気はない。
 素直に謝罪した新一だったが、男はそれでも気に入らないようだった。
 どうやら新一の方が格下だと判断したのだろう。
 何しろ彼よりずっと細くて小さくて、青年と呼ぶにはまだまだ少年期を抜けきっていない幼さがある新一だ。
 加えて、このような軍の施設にいるには随分と整った顔立ちをしているせいもあった。

 突然、力任せにぐいと肩を掴まれて、新一は煩わしそうにその綺麗な眉を寄せた。
 その反応が気に入ったのか、ますます優越に浸った男は薄汚い顔で似合いの言葉を放つ。


「謝って済むなんて思ってんじゃないだろうな?」
「謝って済まないほど重大な問題じゃないだろうが、馬鹿馬鹿しい…」


 男は、新一の顔には似合わない辛辣な言葉に初めは驚き、続いて漸く言葉を理解したのか怒りと羞恥で顔をどす黒く染めた。


「てめぇっ…人が下手に出てたらいい気になりやがって!」
「今のが下手?随分と言葉の理解力が低いようだな。ああいうのは下手って言わねんだよ」
「黙れ、このガキッ」


 力任せに肩を掴まれたまま壁に叩きつけられる。
 言葉とは裏腹に、今の新一には抗うほどの体力は残っていなかった。
 最上階からこの最下層まで来ただけで結構な体力を消耗している。
 新一はされるがまま強かに背中を強打し、痛みのために小さく声をもらした。
 すると、男は自分の優位を再び確信する。


「へっ…なんだ、てんで弱ぇじゃねーか」


 工藤少尉に向かって弱いなどとのたまったのはきっとこの男が初めてだろう。
 が、生憎と仮面を使ってわざわざ素顔を隠している身のため、自分の位を相手に教えて無礼を罰することもできない。
 新一はただ睨み付けることしかできなかった。

 男はどこまでも深い蒼の双眸に一瞬魅入られ、その深さに戦慄を覚えた。
 しかしそれでも自分の優位な状況を思い起こし、頭を振ってその寒気を振り払う。
 目の前の貧弱な少年に、二等兵である自分が劣るはずがないのだ、と。
 そしてはたと気付く。
 少年は随分と整った顔立ちで…体つきが細い所為もあるが、そこいらの女よりずっと綺麗であることに。
 熱のために上気した肌は、今でこそ薄く色づいてはいるけれど、普段のそれは白磁のように白くて滑らか。
 蒼い瞳は空や海の色よりずっと深く鮮やかだし、顔に掛かる髪は漆黒で、まるで彼という人を現しているかのように真っ直ぐに伸びている。
 ふっくらとした滑らかな唇は、高い体温の所為でひどく甘く熱い呼吸を繰り返していた。

 この時代、男女の比率は等しくなかった。
 女の数は男の半分にも満たない。
 彼女たちは女だと言うだけで、子孫を残すために丁重に扱われてきた。
 そして当然、女性をその手に勝ち取ることができない男は溢れかえり……しかし人間の三大欲求のひとつはそう簡単に無くなるものではなく。
 そういった男たちは、ただの性欲の捌け口として同性に手を出すことも珍しくはなかった。
 自然、そういう対象として選ばれるのは見目の良い御しやすそうな少年たち。
 女のように丁寧に扱わなくても良いし、好きなだけ貪れる体の良い道具のようなものだった。

 男にとって新一はまさにそういった対象に当てはまるのだろう。
 熱を孕んだ双眸が男のそれとかち合ったとき、男は何かが崩れていくのを感じた。
 それは理性と言う名のタガ。
 そして彼は、わざわざそれに逆らうような真似はしなかった。
 欲しいのなら欲しいままにしてしまえば良いのだ、と。
 そして間が悪いことに、普段の新一ならまだしも今は抵抗する力もないただの子供と何ら変わりがなかった。

 男は素早く手近にあった物置の扉を開くと、乱暴に新一を中へと放り投げた。


「…ッつぅ!こっの、何しやがるッ」


 新一は室内に雑然と並べられていた机のようなものに背中を強打した。
 重力に逆らうことなく床に片膝を着く。
 男は醜悪な面を一層歪めて、後ろ手に扉を閉めると勿体ぶるように歩み寄った。
 その不気味なほどの笑みに新一は肌寒い予感を覚える。


「ぶつかって来といて偉そうなお前が悪いんだぜ」
「あの程度にいちいち突っかかって来るような暇人に用はねぇよ」
「口の悪い…」


 男は自分のことを棚に上げて、不機嫌そうに眉を寄せた。


「悪態つく暇もないほど、喚かせてやろうか?」


 片膝でなんとかバランスを保っていた新一の体は急に傾ぐと、次に見たときには視界は天井だった。
 背中に感じるのは硬質で冷ややかな床の感触。
 慌てて顔を動かせば、信じられないほどの至近距離に男の醜い面が入り込み、思わず不快さに顔をしかめた新一だが。
 その手が乱暴に服の裾を捲し上げたことによって、急激に余裕が無くなった。
 男の信じられない行動に一瞬思考は白くなり停止しかけたが、すぐに焦りが生じて暴れ出した。


「大人しくしやがれっ」


 男の太い腕が新一の細い首に掛かる。
 気道を無理矢理に塞がれながらも新一は抵抗をやめなかった。
 が、抵抗と呼べないほどに弱々しいそれでは少しも役に立たなくて、やがて苦しさの余り顎を唾液が伝いだした頃、漸く気道を解放された。
 げほげほとしきりに咳き込みながら、まるで何時間もそうできなかったかのように空気を送り込む。
 急な動きに肺がびっくりして引きつったが、それでも呼吸を繰り返した。
 細い首には赤黒くくっきりと男の手形が残っている。


「そんな面してるんだ、誰かの慰めモノになったことなんて初めてじゃねーだろ?」
「何、言って…やがる…ッ」


 新一には男の言動は全く理解できなかった。
 勿論、こんな扱いを受けたことなど一度もない。
 下手に新一が強かった所為もあるが、新一の知らないところで優作や志保、服部が守ってきたためである。
 そして滅多に体調を崩すことのない新一は、こんな状況に陥る前に相手を倒してしまうのだ。
 だが今はその力もなく、助けてくれる者もいない。
 体中を這い回る不快な手の動きに吐き気を感じながら、それに対抗する術を新一は持たなかった。
 だから、口元に持ち上げた手に力の限りに噛みついてその不快さに耐えるしかなかった。










* * *


「黒羽大佐!お帰りが遅いから何かあったのかと…っ」
「悪い、問題ない。本部に連絡を入れる」
「畏まりました!」


 十二支部の佐藤大佐からは大佐と少尉の帰還の連絡を受けたというのに、当の本人が一向に姿を現さなかったため、心配性の高木中尉はひとりで慌てふためいていた。
 快斗と付き合いの長い少佐や中佐は、また何か勝手なことをやっているのだろうと、暗黙の了解といった感じである。
 漸く現れた快斗に安堵しつつ、中尉は連絡を入れるべく準備に掛かった。
 こと戦争にかけては力を十二分に発揮する中尉だが、普段の彼はどうにも危なっかしくて笑ってしまう。
 ギャップが激しすぎるのだ。
 そんな彼は快斗のことを素直に尊敬しているので、快斗としても悪い気はしない。


「大佐、本部と繋がりました」
「ご苦労だった。…こちら第十四支部国境警備軍大佐、黒羽快斗です。北西の大門付近で起こったオール国との抗争の鎮圧に成功しましたので、その報告に伺いました」


 心持ち緊張したような声が響く。
 実際、快斗自身は少しも緊張などしていなかったのだが、周りで聞いていた者が緊張していたので自然と空気が張りつめたのだ。
 現在快斗が話している相手は、ヴェルトの軍の先頭に立つ男…元帥である。
 軍の者にしてみれば国王と同じぐらいの絶対的支配者だった。


「…はい、そうです。少尉の力だけと言っても過言ではありません。…わかりました。失礼致します」


 呆気なく通話が終える。
 周囲からは緊張の解れた溜息が聞こえた。
 快斗は通話の終わった通信機を高木に預けると、くるりと彼らの方に向き合って。


「今日の成功は工藤少尉の力あってのことだ。彼は現在傷を負っている。深くはないが疲労が溜まっているので俺が休みを取らせた。今日、明日は彼は来ないから、みんなそのつもりでいてくれ」
「イエス・サー」


 全員が声を合わせて敬礼して見せる。
 快斗の信頼は厚く、その彼の判断ならばと彼らは端から疑いもしない。
 が、高木中尉がおずおずと心配を顔に張り付けて尋ねてきた。


「工藤少尉…大丈夫でしょうか?佐藤大佐も仰ってましたが、肩をやられたとか…」
「出血は勿論あったが、その治療はすでに済んでるから心配ない。少々熱が出たので解熱して横になるよう言ってきた」
「熱ですか」
「ああ、俺がついてたから大丈夫だぞ?」


 快斗がにっこり笑う。
 そこで高木を除くその場にいた全員が、彼がここに遅れた理由を理解した。
 新一同様、そういう事情に疎い高木は気付くことはまずないが、ここにいるのは仮にも観察眼の鋭い者ばかり。
 大佐が少尉に執心していることはよくわかっていた。
 敢えてそれを口にするような野暮な者は誰ひとりとしていないが……
 未だ顔も見たことのない少尉に大佐が執心だということが多少気掛かりでもあったが、自分たちの信じて従う大佐が騙されるほど無能な男ではないだろうと思っているのだ。
 そしてまた、少尉である新一への信頼も厚い。


「さぁ、俺たちも仕事に掛かろうか。近々他国の動きが不穏だからな…武器の整備と兵士の調整、それから外部からの情報に気を配ってくれ」


 快斗の声に各々が仕事へと戻っていく。
 だが慌ただしく動き出した彼らは、話の渦中の人物であった工藤少尉が今どういう状況にあるのか、少しも気付くことはなかった。






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新一が何だか悲惨な目に…。
でもここは腐っても工藤新一。転んでもタダでは起きない男…だろうね。
快斗も本当は最強なのに出番が…。
もっと格好いいところ書いてあげなきゃ(笑)